こどもたちのために地域に何ができるか

~政策動向とOECD国際調査の結果から考える、地域の子育て支援~

小林 菜

目次

1. 子育て支援における地域の重要性の高まり

子育て支援における地域の重要性が、益々高まっている。

2023年に、政府全体の取り組みを強力に推進するための羅針盤として「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」が策定された。同ビジョンでは、こどもと直接接する保護者・養育者や保育者などの専門職だけでなく、近所や商店の人など「地域社会を構成する人」も、こどもの育ちに影響を与える重要な要素であることが明確に示された。

上述のビジョンを踏まえ、本年度を含む2025年度から2028年度末の保育政策の方向性を示した「保育政策の新たな方向性」においても、「全てのこどもの育ちと子育て家庭を支援する取組の推進」の主な施策として「家族支援の充実、地域のこども・子育て支援の取組の推進」が掲げられ、「地域全体でこども・子育て家庭を応援・支援していく環境を整備する」と宣言されている。

そこで本稿では、公表されている資料をもとに、子育て支援において地域住民に期待されている役割や背景を整理したうえで、私たち地域住民の誰もができる子育て支援の在り方について考察する。

2. 地域住民にできる子育て支援 ―― 「地域コーディネーター」という選択肢

こども家庭庁の資料(注1)によれば、少子化や核家族化、地域のつながりの希薄化、子育て世帯の孤立化など、こどもや子育てを取り巻く環境の大きな変化を背景として、「必ずしも全ての妊婦や乳幼児とその保護者が地域の人や場と適切につながることができているわけではない」状況がある。

また、そのような社会変化のなか、「これまでのように家庭や園などこどもに直接関わってきた主体だけでこれからもこどもたちを育てることには、様々な面で限界が生じている」という。そのため、「こどもの育ちを支える新たな主体として、これまで関わりの少なかった潜在的な層も含め、地域の多様な資源・人材を掘り起こし、こどもの育ちを見守り、応援する切れ目ない輪の中に巻き込んでいくことが重要」だと述べられている。

このような状況や考え方を背景として、国は地域全体でこども・子育て家庭を応援・支援していく環境を整備するための様々な施策を推進している。その一つに「地域コーディネーターの養成」がある。

こども家庭庁によれば、「地域コーディネーター」とは、自治体等の下で「はじめの100か月」の子育て世帯と地域の人々をつなぐ活動を行う地域人材である。

こども家庭庁が公表している地域コーディネーター養成事業のモデル事例集によれば、地域コーディネーターの例としては、若者・高齢者、NPO職員などが挙げられており、イベント実施などを通じて妊婦・乳幼児・子育て世帯と地域の多様な人々との交流の機会をコーディネートする役割が期待されている。またその具体的な実践の在り方としては、多世代交流の場となるイベントの開催や、プレパパ・プレママセミナー、小・中高生や大学生の乳幼児触れ合い体験の実施などが挙げられている。

「公募要領」をみると、コーディネーターの選出にあたっては「乳幼児やその保護者を対象とした子育ての支援・応援に関心や意欲があること」や、コーディネーター研修を受講することなどが条件とされる(注2)。前述の地域コーディネーター養成事業のモデル事例集では、2024年度には、すでにNPO等で子育て支援等の活動をしてきた経験のある人だけでなく、大学生や保護者会の役員、助産師、自治体職員など様々なバックグラウンドをもつ人々が地域コーディネーターとして参画したことが明らかにされている。

3. 「直接関わる」以外の貢献 ―― 美観や安全性の維持という、誰にでもできる支え

以上、地域全体でこどもや子育て家庭を支援・応援していく環境を整備するための具体的な施策のひとつとして「地域コーディネーターの養成」が掲げられていることや、その背景を概観した。このように、地域のつながりの希薄化や子育て世帯の孤立化などを背景として、保護者や養育者あるいは保育士などの専門職としての関わりとは別の形で、地域住民がこどもや子育て家庭を支援・応援していくことが期待されている。

他方で、「地域コーディネーター」のように活動することや、あるいは「地域コーディネーター」が行うような活動に参加し直接こどもたちや子育て家庭と関わることなどは、人によってはハードルが高いと感じるかもしれない。「保護者や専門職とは違う形で地域に住むこどもたちの育ちを支えたいが、直接こどもや子育て世帯と関わるのはハードルが高い」といった人は、どうしたらよいのだろうか。

子育て支援というと、保育士などの専門職による関わり、あるいはイベントや交流などを通した「直接的な支援」を思い浮かべる人が多いかもしれない。しかし、結論を先取りするならば、私たちが日々の暮らしのなかで、自宅や路上、公園などの地域の美観や安全性を保つよう心がけることなども、こどもたちの育ちを支える大切な支援となりうる。

以降では、OECDの国際調査の結果を手がかりに、地域住民として無理なくできる子育て支援の形を提案する。

4. 国際比較から見る、日本の地域環境の強み

OECDが日本の幼児教育・保育従事者を対象に行い、2025年12月2日に結果を公表した国際調査のなかに、保育所等の立地と近隣地域の環境に関する設問項目がある(注3)。

その結果をみると、日本の保育所等の園長・所長のうち、保育所等の近隣地域について「この地域にはごみが散乱している」に「当てはまる/非常に当てはまる」(以下、同様)と回答した者の割合は8.8%となっている(図表1)。また、「多様な背景をもつ人々への侮辱行為や暴力行為がある」と回答した者の割合も2.8%に留まっている(図表2)。図表のとおり、これは参加国・地域のなかで最も少ない(注4)。

つまり、保育所等のこどもたちが育つ場を取り巻く近隣地域の環境は、少なくともこのような点において、国際的に見れば良い側面を持っているといえる。

図表
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5. 近隣の環境は、こどもと子育て家庭の行動を左右する

このように近隣地域でごみが散乱せず美観が保たれていること、暴力や犯罪がないことなどは、こどもや子育て家庭にとって重要な要素であることが、これまでに指摘されている。たとえば、Hosokawa and Katsura(2020)は、個々の家族の社会経済的地位に関係なく、近隣地域の特性がこどもの情緒・行動上の問題や、向社会的行動(他者の気持ちを考えたり、玩具や文房具を率先して他のこどもに貸してあげたり、困っている人を助けてあげるなどの行動)と関連していることを明らかにしている(注5)。

具体的には、個々の家族の社会経済的地位に関わらず、ごみが散乱していなかったり建物や家がよく手入れされていたりするなど、美観が維持されている地域ほどこどもの情緒・行動上の問題が少なかったり、こどもの向社会的行動が多く見られたりすることを指摘している。

また同研究では、こどもの向社会的行動の多さは、日中または夜間に近隣を安全に出歩けること、近隣に暴力や犯罪に関する問題がないことなどの近隣地域の安全性の高さとも関連があることが示されている。

Hosokawa and Katsura(2020)は日本の小学生を調査対象としているが、個々の家族の社会経済的地位とは無関係に、生活する近隣地域の特性がこどもの情緒・行動上の問題などと関連していることを示唆する調査結果は、幼児期や思春期、西洋諸国などの他国のこどもに焦点を当てた従来の研究と一致しているという。

6. 近隣の環境がこどもや子育て家庭にとって重要な理由

Hosokawa and Katsura(2020)は、地域の安全性や美観がこどもの情緒・行動上の問題や向社会的行動に影響を与える背景にある一つのメカニズムとして、近隣地域の特性がこどもの屋外遊びや身体活動の機会に影響を与えている可能性を指摘している。

具体的には、ごみが散乱せず美観が保たれているような地域では、こどもが気軽に外出しやすく、こどもの屋外遊びや身体活動の機会を促進する。屋外遊びや身体活動の機会は、こどもの身体的健康を促進し、また、(他のこどもやおとなとの)社会的交流や想像力豊かな遊びを通じて、こどもの社会的・情緒的能力といった発達に影響を与えている可能性があるという。

反対に、暴力や犯罪などによる近隣地域の安全性の低下は、安全への懸念や不安から、こどもたちが近隣地域で他者と交流しながら遊ぶ機会を親が制限する傾向があるという。このように、子育て家庭が安全だと感じられない地域環境は、こどもの屋外遊びや身体活動の機会の減少につながり、こどもの認知的、身体的、社会的、感情的な健康に影響を与えるおそれがある。

つまり、OECDの国際調査の結果に見られるような、他国と比べて「地域にごみが散乱していない」「多様な背景をもつ人々への侮辱行為や暴力行為がない」といった日本の保育所等を取り巻く地域特性は、こどもの育ちという観点から見た場合には、こどもや子育て家庭が気軽に外出し、屋外遊びや身体活動を通して健やかに心身を発達させ、出かけた先で多様な人々と交流し人間関係を築いていくための重要な土台であることがわかる。

そうであるならば、私たちが日々の暮らしのなかで、国際的にみれば高い水準にあると考えられる地域の美観や安全性を将来にわたって丁寧に維持することは、それ自体がこどもたちの育ちや子育て家庭を支えることにつながり得る。

7. 地域環境の良さを守り、次世代につなぐ

以上の観点から、国際的に見てすでにある地域環境の強み(安全性や美観)を維持することは、こどもたちの育ちを支えるための重要な視点のひとつである。

具体的には、自宅の庭や花壇の手入れをしたりごみ拾いをしたりすることで、地域の美観を維持し、こどもや子育て家庭が安心して外を歩ける環境を作ることも、大切な子育て支援になりうる。

また、ウォーキングや買い物、犬の散歩、花の水やり等の日常活動を行いながらこどもたちを見守る「ながら見守り」は、こどもたちの安全のために地域の住人にできる重要な防犯対策だとされている(注6)。したがって、趣味などを通してゆるやかにこどもたちを見守る「地域の目」を増やし、地域の安全性を高めることで、こどもや子育て家庭が安心して出歩ける環境を作ることなども、大切な子育て支援になりうる。

さらに、近隣地域は他の様々な点においても、こどもの発達やウェルビーイングにとって重要であることが指摘されている(注7)。OECDの報告書によれば、たとえば近隣地域における緑地空間は、こどもや子育て家庭にとって重要な要素であることが指摘されている。公園や遊歩道などの自然環境、あるいは街路樹といった小規模の自然は、こどもの幸福感に好影響を与える可能性があるという(注8)。そうであるならば、たとえば自然に関心がある人が、地域の自然環境を保全したり手入れしたりといった取組を行うことは、知らず知らずのうちにこどもたちが健やかに育つための土台をつくることにつながっている。

子育て支援というと、専門的な関わりや直接的な行動が意識されやすい。しかしながら、安全で美しい地域環境を大切に守っていくこと(清掃活動をしたり庭の手入れをしたり「ながら見守り」をしたりすること)や、自然環境保全などのように自身の関心のある分野で地域貢献を行うことなども、地域で暮らす私たちにできる子育て支援の一つの重要な在り方だと考える。


【注釈】

  1. こども家庭庁「令和6年度『はじめの100か月の育ちビジョン』地域コーディネーター養成事業 モデル事例集」2025年

  2. こども家庭庁「『幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン』策定後の具体的な取組推進(地域等の特色を活かし具体的活動を推進する人材養成に係る先進事例の創出)に係る委託事業一式に関する公募要領」

  3. OECD(2025)“Results from TALIS Starting Strong 2024”/国立教育政策研究所「OECD国際幼児教育・保育従事者調査(TALIS Starting Strong)2024結果のポイント」2025年/調査対象園は認可を受けた幼稚園や保育所などから無作為に抽出されている。当該設問は調査対象となった保育所等189園の園長・所長が回答している。なお厳密には、これらは保育所等の施設周辺に関する回答であり地域全体の状況を直接示すものではない点や、園長・所長による主観的な評価であり地域の実態を直接示すものではない点などには、留意が必要である。

  4. そのほか「器物損壊行為がある」や「薬物関連の問題がある」という項目についても、「当てはまる/非常に当てはまる」と回答した者の割合はそれぞれ4.4%、3.6%となっており、これらも参加国・地域中で最も少ない割合である。

  5. 筆者らは愛知県名古屋市の小学4年生(n=695)を調査対象として、保護者の自己申告をもとに、近隣地域の特性とこどもの情緒・行動上の問題との関連性を分析している。

  6. 登下校時の子供の安全確保に関する関係閣僚会議「登下校防犯プラン」2018年

  7. OECD(2025)“The importance of monitoring neighborhood conditions for children's well-being and development”

  8. 厳密には、OECD(2025)によれば、緑地がこどものウェルビーイングに良い影響を与えるかどうかは、安全性やごみの不在といった緑地の質的側面によって左右される。

【参考文献】

  • こども家庭庁「家族支援の充実、地域のこども・子育て支援の取組の推進②(『はじめの100か月の育ちビジョン』に基づく施策の推進)」

  • こども家庭庁「保育政策の新たな方向性」

  • こども家庭庁「幼児期までのこどもの育ちに係る基本的なビジョン(はじめの100か月の育ちビジョン)」2023年

  • こども家庭庁「令和6年度『はじめの100か月の育ちビジョン』地域コーディネーター養成事業 モデル事例集」2025年

  • Hosokawa,Rikuya and Toshiki Katsura(2020)“The Relationship between Neighborhood Environment and Child Mental Health in Japanese Elementary School Students”

小林 菜


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

小林 菜

こばやし なの

ライフデザイン研究部 研究員
専⾨分野: 保育、家族、ライフコース

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