時評『リビング・ウィル~伝えておきたい終末期医療への希望』

川原 則光

還暦を過ぎ、職場や家族の状況も変わり、同窓会もやたら増えてきました。この先どんな老後が待っているのだろうと気になります。各種統計から平均的な老後の姿をみてみたいと思います。

総務省資料によると高齢化の進展と人手不足もあり、2023年で60-64歳では74%の方が就労し、65-69歳でも52%とまだ半分を超え、70-75歳でも34%の方が働いておられます。また、令和5年版の簡易生命表(厚労省)によると、現在60歳の男性のうち、50%の方が85歳まで、28%が90歳まで生存します。同様に60歳の女性については、72%が85歳、52%(半分以上!)が90歳まで生存します。

まさに人生100年時代と言われる所以ですが、高齢化に伴う介護や医療などはどのような状況でしょうか?WHO統計(2019年)によると、日本人の平均寿命は84歳、また、いわゆる日常生活に支障がない健康寿命は74歳とされています。実際、健康寿命を超えてくる75歳以降は徐々に生活に支障のある方が増え始め、厚労省統計等によると介護認定者(要支援含む)の比率は、75-79歳で12%、80-84歳では26%、平均寿命を超えてくる85-89歳では48%、さらに90歳を超えると71%となります。認知症についても同様で、認知症有病率は、75-79歳で10%、80-84歳では22%、85-89歳では44%、90-95歳では64%となります。

すなわち、人生100年時代とはいうものの、統計的には、85-89歳で生存されている方の半分近く、また、90歳まで生存された方の6-7割は介護及び認知症の状態におかれるというのが現状です。

介護や認知症にどう備え、何を準備しておくか大変気になるところです。財産管理や相続など、意思表示が可能な時に記しておきたいことは多くあります。最近ではエンディング・ノートの活用も広まっています。

その中でも特に終末期医療への希望は、自分の尊厳ある最後のため、大事な意思表示項目になっていくと思われます。回復が見込めない純粋な延命治療は欧米では行われず、いわゆる寝たきりの患者はいないと言われています。豪では延命治療は倫理的に問題があると、高齢者介護施設における緩和医療のガイドラインに明記されています。細胞の分裂が止まりエネルギーを必要とせず食事をとらなくなり、眠るように亡くなるのが自然死と言われています。ご家族の気持ちや医療関係者の取り組みとして、少しでも可能性があれば延命を図るというのは自然なことだと思います。一方で、欧米では例えば、回復の見込みがない中で、本人の意思表示も自覚もなく人工呼吸器の下、経管栄養で褥瘡(じょくそう)の状態での生存が本人にとって本当に最善なのかといった疑問から、延命治療は行われなくなったようです。

日本でも厚生労働省が推奨する“人生会議”アドバンス・ケア・プラニングという取り組みがあります。自分で意思を伝えられなくなる前に終末期医療への希望を家族で話し合って決めておくものです。また、特に回復の見込みがない延命治療に対する希望を予め登録するリビング・ウィルという仕組みも徐々に認知されてきました。これが、終末期介護にあたる家族や医療関係者にとっても本人の意思を推測する重要な手がかりとなります。自分の尊厳ある最後のため、このような表示を行っておくことは一考に値します。

さて、人生100年時代といっても健康で過ごせる期間はアッという間に過ぎ去っていくのかもしれません。60歳を超えて働くのが当たり前の時代になりましたが、終末期への希望を明確にしつつ、健康でいられる間のまさにワークとライフのバランスをしっかりと意識して、老後を過ごすことも求められているのかもしれません。

川原 則光


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