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時評『令和の新六重苦は~円高が一転、円安や世界分断、人手不足等?~』

松村 圭一

先日久しぶりに、「六重苦」という単語がテレビのニュースから流れてくるのを聞いた。内容は、お得が売りの立ち食いそば店で、昨今の物価高を受けた苦悩を取材したものだ。そこではゲソ天そばが人気メニューだが、1.そば、2.ゲソ、3.油、4.醤油、5.みりん、6.鰹節が、前年から10-50%上がっている。20円値上げしただけでも計算間違いと思われるなか、原材料高の六重苦に悩まされているという。

一方“本家の六重苦”(これを「平成の六重苦」とする)は、東日本大震災(2011年)後に企業が直面した課題で、①円高、②経済連携協定の遅れ、③高い法人税率、④労働市場の硬直性、⑤過剰な環境規制、⑥電力不足・コスト高、が指摘された。これらのうち、④と⑥以外は、一定の解決をみた。

すなわち、①に関しては当時1ドル=75円程度だったドル・円レートは、アベノミクス期には100~120円程度に。②は当時輸出入の2割弱だったカバー率は、日中韓やASEANなどが参加したRCEP(地域的包括的経済連携協定)の署名・発効等により8割に。③も法人実効税率で当時の40%弱から、ドイツと並ぶ30%弱になった。⑥については、世界的な地球温暖化や温室効果ガス削減の必要性のなか、クリーンエネルギー中心の経済社会システムへの変革を図るGX(グリーン・トランスフォ―メーション)戦略に取組み、新たな成長の源泉として、いわばピンチをチャンスに変えようとしている。一方、④に関しては、女性・高齢者の労働参加は進んだものの、労働市場の硬直性は依然残っており、⑥に関しても原発の再稼働は大きく進まず、ウクライナ侵略で価格が高止まる化石燃料に電力の7割を依存している状況だ。

このように課題提起から10年以上を経て、過半の項目で一旦の解決の方向性が見えた平成の六重苦であるが、ここにきて改善に向かった項目でも別の課題(既に認識されていたものも多い)が生じている。分かりやすいところからいくと、②の貿易では、米中対立に象徴される西側諸国と権威主義国家間を中心とした分断や、ウクライナ・中東等の地政学リスクにより従来型の自由貿易体制が変質を迫られている。またこれらによる資源・穀物を含めた調達価格の上昇は、輸入依存度の高い我が国の国富流出を招くことになる。さらに、④労働市場ではデフレ期から一転し、人手不足が大きな問題として生じており、未だ解決を見ない労働市場の硬直性と相まって23年度の人手不足倒産は過去最高となった。さらに将来の労働力人口だが、23年の出生率と出生数はともに過去最低を更新し、少子化に歯止めがかかっていない。③の法人税率は下がったものの社会保障給付費は増加の一途を辿り、平成の六重苦が叫ばれた頃からでも30兆円、2000年からの四半世紀では60兆円も増えている。その原資には増加を続ける労使折半の社会保険料負担があり、物価高と並んで家計の可処分所得を押し下げる要因となっている。そうした中で今度は、①37年ぶりの円安が物価高と国富の流出に拍車かけている。為替は一国の国際競争力を示すともされ、②~⑥も含めた日本の経済・産業構造が問われているとも言える。

日本を取り巻く問題を「令和の六重苦」として差し当たり整理すると、1)円安(為替の安定)、2)世界の分断、3)社会保障負担、4)人手不足・労働市場の硬直性、5)少子化・高齢化、6)炭素電源依存、といったところか。特に3)~6)は日本自らの解決力に強くかかっている。これらに加えGX戦略等の成長戦略の完遂と生産性向上により、筋肉質たる令和の日本経済を今度こそ再構築することが、1)と2)の課題対応にも資するであろう。

松村 圭一


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