よく分かる!経済のツボ『良い円安・悪い円安ってなに?』

小池 理人

目次

円の実力は約50年ぶりの低水準に

実質実効為替レートが約50年ぶりの低水準となり(資料1)、円安に関する議論が活発化しています。実質実効為替レートとは、主要国の物価上昇率や貿易額なども考慮した、通貨の総合的な実力を測る指標です。実質実効為替レートが50年ぶりの低水準になったことは、円の実力が50年前の水準にまで低下したことを意味しています。

円の実質実効為替レートの推移
円の実質実効為替レートの推移

悪い円安の色合いが強まる

円安に関して、良い円安・悪い円安という言葉をしばしば耳にします。円安にはメリットとデメリットの両面があり、円安のメリットとしては国内製品の海外での価格競争力の向上などが、デメリットとしては輸入コストの増加などが挙げられます。円安のメリットがデメリットを上回る時に良い円安、デメリットがメリットを上回る時に悪い円安と論じられることが多くなります。

では、現在の円安は良い円安、悪い円安のどちらと考えられるのでしょうか。円安のメリットである価格競争力の向上について見ると、海外生産比率の上昇によって(資料2)、その影響が小さくなっています。日本国内で生産したモノを海外に販売すると、円の価値が安い分、価格競争力を持つことになりますが、製造業の海外生産比率が上昇することで、円安のメリットを享受しにくい構造へと変わってきています。一方で、デメリットについて見ると、資源価格が高騰する中で(資料3)、円安が円建てでの輸入金額を更に押し上げることで、資源調達コストの上昇に拍車をかけています。このように、現在は円安のデメリットがメリットを上回る点が多く、悪い円安論が語られやすい状況になっています。

欧米において金融政策の正常化が進む一方で、日本では依然として緩和的な金融政策が続き、為替は円安方向に向かいやすい環境になっています。円安がもたらすコスト増は既に私達の生活にも大きな影響を与えており、今後も注視する必要があるでしょう。

海外生産比率の推移(製造業)
海外生産比率の推移(製造業)

ドバイ原油先物価格の推移
ドバイ原油先物価格の推移

小池 理人


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