よく分かる!経済のツボ『K字型の回復ってどういう意味?』

小池 理人

目次

二極化が生じる回復の軌道

「企業業績がK字回復している」、最近このような表現がしばしば見られます。急激な業績の悪化から大きく回復することをV字回復、落ち込んでからの回復ペースが極めて緩やかなことをL字回復とする表現は、景気や企業業績を語る上でよく見られます。K字回復とは、全体としては回復局面でありながらも、急回復するものと回復ペースが緩慢な(あるいは落ち込みが拡大する)ものと二極化する状況を指します。

コロナ禍における企業の動向をみると、企業の景況感は2020年6月調査時点で、経常利益は2020年4-6月期に、それぞれ底をつけ、全体としては回復が続いていますが、いずれも製造業が急速に回復する中で、非製造業の回復の遅れが目立ちます(資料1、2)。海外経済の回復を背景に輸出を伸ばすなど製造業が堅調に推移する一方で、接触型サービスを中心に低迷が続く非製造業の回復が遅れることで、製造業と非製造業との間で二極化が生じています。

資料1 業況判断DI(現状、大企業)
資料1 業況判断DI(現状、大企業)

資料2 経常利益(全規模、季節調整値)の推移
資料2 経常利益(全規模、季節調整値)の推移

K字型の動きは社会的な分断ももたらす

K字型の動きがみられるのは企業業績だけではありません。実体経済と金融経済の乖離も進んでいます。コロナ禍で経済活動への制約がかかり、GDPの回復が停滞する一方、緩和的な金融環境の中で株価は大きく上昇しています(資料3)。新型コロナウイルスの感染拡大により、ソーシャルディスタンスが求められるなど、物理的な分断が生じることになりましたが、経済面でのK字型の動きは、社会的な分断をもたらします。実体経済の悪化により収入が減少する人が増える一方で、株式をはじめとした保有資産の価格上昇により資産が増加する人が現れることで、格差が拡大しています。ワクチン接種の進展により、コロナ禍からの脱却の兆しが見えていますが、収束までにはまだ時間がかかることが想定されています。K字型の動きによって生じる格差には今後も注意を払う必要がありそうです。

資料3 実質GDPとTOPIX(東証株価指数)の推移
資料3 実質GDPとTOPIX(東証株価指数)の推移

小池 理人


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