政府の家計金融資産「株・投信・債券40%目標」を世代別にどう読むか

~40%に近い若年層、保有額が大きい60歳代・70歳以上~

谷口 智明

要旨
  • 政府は、2026年7月に閣議決定した「日本成長戦略」において、「2040年までに、家計金融資産に占める株式・投資信託・債務証券の割合を40%とする」目標を掲げた。家計の資産形成を促すとともに、企業や成長分野への資金供給につなげる狙いがある。
  • 日本銀行「資金循環統計」によると、2026年3月末時点の同比率は25.1%であり、目標との間にはなお大きな開きがある。もっとも、40%は家計部門全体の資産構成に関するマクロの目標値であり、個々の家計に適した資産配分は、保有資産額、投資余力、資金需要、許容し得るリスクなどによって異なる。
  • 総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)」を用いて、2025年の二人以上世帯における有価証券保有状況を世帯主の年齢階級別にみると、有価証券比率は29歳以下で最も高く、30歳代、60歳代が続く。一方、50歳代と70歳以上では20%を下回る。ただし、29歳以下は集計世帯数が少なく、水準や順位の解釈には留意が必要だ。若年層は比率面で先行する一方、一世帯当たりの保有資産額は60歳代と70歳以上で大きい。
  • 新NISA開始前の2023年と開始後の2025年を比較すると、30歳代では投資信託を中心に有価証券残高が増加し、60歳代では株式、投資信託、債券がいずれも増加した。一方、70歳以上では有価証券残高が小幅に減少した。ただし、これは異なる標本による2時点の世帯平均の比較であり、残高差には買付・売却だけでなく、市場価格の変動による評価額の変化なども含まれる。
  • 40%はマクロの目標であり、個々の家計に適した資産配分とは区別して考える必要がある。若年層には長期・積立・分散による資産形成、現役中高年層には多様な資金需要と両立する運用、退職後世代には安定運用と計画的な取り崩しを支える環境が必要だ。目標の真価は、比率の上昇だけでなく、家計が収益機会と損失可能性を理解し、ライフステージに応じて資産形成と資産活用の質を高められるかによって測られるべきであろう。
目次

1.はじめに~マクロ目標を家計の実像から読み解く

政府は、2026年7月に閣議決定した「日本成長戦略」において、「2040年度250兆円の国内投資目標を実現する」とともに、「2040年までに、家計金融資産に占める株式・投資信託・債務証券の割合を40%とする」目標(KPI)を掲げた。家計の資産形成を促すとともに、家計金融資産を企業や成長分野への資金供給につなげ、国内投資の拡大を図る構想といえる。

日本銀行「資金循環統計(速報)(2026年第1四半期)」によると、2026年3月末の家計金融資産は2,386兆円であり、このうち株式・投資信託・債務証券(家計調査では「債券」。以下、本稿では便宜上、当該3資産を「有価証券」と呼ぶ)の合計は599兆円、構成比は25.1%であった。足元の家計金融資産残高を一定と仮定した機械的な試算では、40%相当額に対する有価証券残高の不足額は、約360兆円となる(注1)。なお、同統計では企業型DC(企業型確定拠出年金)やiDeCo(個人型確定拠出年金)、個人年金商品などを通じて間接的に保有される株式や投資信託等は、家計部門が直接保有する有価証券としては計上されない(注2)。

もっとも、40%は家計部門全体を集計したマクロの目標値である。実際の家計では、年齢、所得、負債、世帯構成などによって、保有資産額、投資余力、資金需要が大きく異なる。資産形成期にある世帯と、退職前後や資産の活用・取り崩し期にある世帯とでは、有価証券を保有する目的も、許容し得る価格変動リスクも同じではない。

そこで本稿では、総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)」を用い、二人以上世帯の有価証券保有状況を世帯主の年齢階級別に確認する。あわせて、新NISA開始前の2023年と開始後の2025年を比較し、有価証券残高とその内訳がどのように変化したかを考察する。

なお、同報告の対象は二人以上世帯であり、単身世帯は含まれない。このため、本稿の分析結果は、単身世帯の割合が高い若年層や高齢層を含む各年齢層全体の資産保有状況を直接示すものではない。また、本稿で用いる有価証券比率は、二人以上世帯の一世帯当たり貯蓄現在高に占める有価証券残高の割合であり、日本銀行「資金循環統計」における家計金融資産全体の構成比とは、対象世帯、資産範囲、集計方法が異なる。したがって、政府目標との厳密な比較ではなく、年齢階級別の資産保有構造を通じて、40%目標が各世代にとって持つ意味を考察するための参考指標として用いる。

2.40%目標からみえる世代差~2025年の有価証券比率と残高

(1)有価証券比率~相対的に高い若年層、低い50歳代・70歳以上

まず、総務省「家計調査年報(貯蓄・負債編)」から、2025年の世帯主の年齢階級別に、一世帯当たり貯蓄現在高に占める有価証券残高の割合を算定する(資料1)。貯蓄現在高(金融資産残高)は、預貯金、生命保険などの掛金、有価証券、金融機関外への貯蓄の合計であり、世帯主だけでなく世帯員全体の保有分を含む。有価証券残高は、株式、投資信託、債券、貸付信託・金銭信託の合計である。

図表
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資料1のとおり、2025年の世帯平均の有価証券比率は21.4%であり、2025年12月末の日本銀行「資金循環統計」による23.0%と、定義は異なるものの水準感は概ね近い。年齢階級別にみると、29歳以下が最も高く、次いで30歳代、60歳代と続く。一方、70歳以上は最も低く、50歳代も20%を下回っている。ただし、29歳以下は集計世帯数が他の年齢階級より少ないため、数値の水準や年齢階級間の順位は幅をもってみる必要がある。

こうした点に留意しても、比率の面では若年層が40%目標に相対的に近い傾向がみられる。若年層は貯蓄現在高がまだ大きくない一方、そこに占める有価証券の割合は相対的に高い。新NISA(少額投資非課税制度)を契機とした投資の広がりに加え、貯蓄現在高が小さい段階では、各年齢階級で同額を積み立てても資産構成比への影響が相対的に大きいことも、その背景にあると考えられる。

一方、50歳代と70歳以上では、40%目標までの距離が相対的に大きい。50歳代は老後に向けた資産形成の仕上げに入る時期である一方、住宅ローンの返済、子どもの教育費、親の介護など、複数の資金需要が重なりやすい。したがって、有価証券比率の低さを投資への消極姿勢として捉えるのではなく、投資余力を左右する家計収支や資金需要との関係から解釈する必要がある。

70歳以上については、より慎重な解釈が求められる。資産形成期を終え、資産を取り崩し、活用する段階へ移行している世帯が増えると考えられるためだ。この段階では、生活費や医療・介護費、住まいの維持、相続・贈与など、今後の資金使途を見通しながら、必要なときに必要な資金を確保できることが重要となる。したがって、安全性や流動性を重視した資産配分は、単なるリスク回避ではなく、資産の保有目的や利用時期に即した合理的な選択とみることができる。

(2)有価証券残高~一世帯当たり保有額が大きい60歳代・70歳以上

前節では、有価証券比率の面から、若年層が40%目標に相対的に近いことを確認した。しかし、家計金融資産全体の有価証券比率を引き上げるには、一世帯当たりの保有残高にも目を向ける必要がある。そこで、2025年の年齢階級別貯蓄現在高の40%相当額と現在の有価証券残高との差額を試算した(資料2)。これは個々の世帯に求められる新規投資額ではなく、家計の資産構成や有価証券の評価額の変化によっても動く機械的な試算である。

図表
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資料2によると、世帯平均の有価証券残高は440万円であり、現状の貯蓄現在高を固定した場合、40%相当額との差は384万円となる。ただし、これは家計が新規に384万円を拠出する必要があることを意味しない。有価証券比率は、家計の資産構成や有価証券の評価額の変化によっても変動し、貯蓄現在高そのものが増減すれば40%相当額も変わるためである。

年齢階級別にみると、資料1の有価証券比率とは異なる構図が浮かび上がる。29歳以下では有価証券比率は最も高いものの、有価証券残高は121万円と小さく、40%相当額との差は50万円程度だ。一方、60歳代では、その差が約424万円、70歳以上では約532万円となる。

ここからわかるのは、若年層は有価証券比率の面では40%目標に相対的に近い一方、一世帯当たりの保有資産額は小さいということである。これに対し、60歳代や70歳以上は一世帯当たりの保有資産額が大きいため、同程度の比率変化でも有価証券残高の増減額は大きくなりやすい。このため、40%目標の進捗を考える際には、若年層の比率の高さだけでなく、高齢層の資産配分の動向にも注目する必要がある。ただし、本試算は各年齢階級の世帯数を加味しておらず、家計部門全体への寄与を直接示すものではない。比率面で先行する層と、保有額で存在感を示す層が一致しない点は、マクロの平均値だけでは捉えにくい重要な示唆といえよう。

もっとも、40%は家計部門全体の資産構成に関する政策目標であり、すべての年齢階級・世帯が一律に目指すべき水準ではない。個々の世帯に適した資産構成は、ライフステージや資金需要、許容し得る価格変動リスク等によって異なる。とりわけ高齢世帯では、運用期間、所得の安定性、医療・介護支出の見通し、相続意向などによって、適切な資産配分は大きく異なる。

3.有価証券残高はどの世代で増えたのか~2023年から2025年の変化

次に、新NISA開始前の2023年と開始後の2025年を比較し、年齢階級別の有価証券残高とその内訳がどのように変化したのかを確認する(資料3)。本比較は、新NISAの開始を挟む足元の動きを捉えるものであり、中長期的な傾向を示すものではない。なお、残高差には、実際の買付・売却だけでなく、市場価格の変動による評価額の変化や、標本調査に伴う年次変動も含まれ得る点に留意する必要がある。

図表
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資料3によれば、世帯平均では、この2年間で有価証券残高は117万円増加し、内訳では投資信託が64万円、株式が49万円と、投資信託の増加額が株式をやや上回った。

年齢階級別の世帯平均の動きから、この期間に観察された変化として、次の三点が注目される。第一に、30歳代では、投資信託を中心に有価証券残高が大きく増加した。有価証券残高は168万円増え、そのうち投資信託が106万円と、増加額のおよそ6割を占める。30歳代のNISA口座開設率が相対的に高いことを踏まえると(注3)、新NISAが長期・積立・分散型の資産形成を後押しした可能性がある。ただし、増加分のすべてを新規の資金流入とみなすことはできない。なお、本稿で用いる残高は負債を控除した純金融資産ではなく、家計の投資余力を直接示すものではない。30歳代は住宅取得や子育てなどの資金需要も本格化する時期であり、投資額の多寡だけでなく、家計に過度な負担をかけずに積立を継続できる環境を整えることが重要だ。

第二に、60歳代では、有価証券残高の増加額が303万円と最も大きい。内訳は株式166万円、投資信託111万円、債券38万円の増加である。もともとの貯蓄現在高と株式保有額が大きいため、株高に伴う評価益が増加を押し上げた可能性に留意する必要がある。一方、債券残高も増えている点は注目される。こうした動きは、株式、投資信託、債券など、収益性、価格変動リスク、流動性等の異なる金融商品を組み合わせる資産配分と整合的とも解釈できる。ただし、世帯平均の残高差だけから、個々の家計の運用意図を判断することはできない。資産形成から退職後の資産活用への移行期にあたる60歳代では、それぞれの金融商品の特性を踏まえ、資産の役割に応じた配分を考える視点が重要となる。

第三に、70歳以上では、投資信託が増加する一方、株式と債券が減少し、有価証券残高全体では12万円の減少となった。ただし、減少額は小さく、この結果だけから意識的な資産圧縮や取り崩しを判断することはできない。一つの可能性として、資産形成の継続よりも、生活費や医療・介護費に充てる資金の確保、資産管理の簡素化を重視する段階への移行が考えられる。高齢期の資産運用・活用を支える政策では、保有残高の増加だけを成果とせず、「デキュムレーション」(注4)の観点から、必要な資金を安定的に取り崩しつつ、資産を長持ちさせ、将来の生活資金の見通しを確保することも重要な到達点となる。

4.おわりに~40%目標の先に問われる家計の資産形成・活用の質

政府の40%目標は、「貯蓄から投資へ」という政策の方向性を示すうえで、わかりやすい指標である。もっとも「日本成長戦略」では、40%という水準設定の考え方は詳しく示されていない。星野(2026)の国際比較によれば、同比率が4割を超える国がある一方、英国やオーストラリアのように、家計部門の直接保有比率は2割程度でも、私的年金を通じた間接投資が厚い国もある。したがって、40%という水準を評価する際には、直接保有比率だけでなく、企業型DCやiDeCo、個人年金商品等を通じた間接保有も含めて家計の資産形成全体を捉える必要がある。政府は、家計の安定的な資産形成に向け、企業型DC・iDeCoの制度改善、個人向け国債の商品性の見直し、NISAの利便性向上、金融経済教育の推進などを掲げている(注5)。詳細については、鄭(2026a)を参照されたい。

本稿の分析が示すように、有価証券比率の面で先行する層と、一世帯当たりの保有資産額が大きい層は一致しない。また、有価証券の保有目的や許容し得る価格変動リスクも、ライフステージによって異なる。したがって、家計部門全体の40%目標と、個々の家計に適した資産配分は区別して考える必要がある。2040年に向けて重要となるのは、比率の上昇だけでなく、各世代がそれぞれの資金需要に応じて資産を形成・活用できる環境を整えることである。若年層には長期・積立・分散投資の継続、現役中高年層には多様な資金需要と老後資金形成の両立、高齢層には安定的な資産活用と計画的な取り崩しが課題となる。そのためには、金融経済教育の推進に加え、中立的な助言を得られる環境、長期保有と分散投資を支える商品・制度設計、高齢期の資産活用を支援する仕組みを一体的に整備する必要がある。

また、前述のように企業型DCやiDeCoなどを通じた間接的な資産保有は、40%目標の分子に直接反映されない。このため、政策の成果を評価する際には、有価証券比率だけでなく、企業型DC・iDeCoを含む資産形成全体を捉える必要がある。さらに、有価証券比率の変化については、市場価格の上昇による評価益と純資金流入を区別することも肝要だ。40%目標の真価は、有価証券比率の上昇そのものではなく、生涯を通じた家計の資産形成・活用の質をどこまで高められたかによって測られるべきであろう。

以 上

【注釈】

  1. 「日本成長戦略」によれば、同戦略等の経済効果として、2040年度の名目GDPは1,100兆円に迫ると試算されている。今後、家計の金融資産残高も増加すれば、40%に相当する有価証券残高は一段と大きくなる可能性がある。一方、有価証券残高自体も、新規投資や市場価格の変動によって増減することに留意する必要がある。

  2. 「資金循環統計」では、企業型DCやiDeCo、積立型生命保険・個人年金保険の運用資産は、保険・年金基金部門に運用商品別に計上される。一方、家計部門では、企業型DCやiDeCoは年金受給権、積立型生命保険は生命保険受給権、個人年金保険は年金保険受給権として計上され、運用先の株式や債券等を家計が直接保有しているとは扱われない。このため、DC・iDeCo等で投資信託等による運用が拡大しても、それ自体が40%目標の分子となる家計部門の有価証券残高を押し上げるわけではない。

  3. 鄭(2026b)によれば、2025年時点のNISA口座開設率(各年齢階級の人口に対するNISA口座数の割合)を推計すると、全年齢平均の22.9%に対し、30歳代は37.8%と最も高い。

  4. デキュムレーションとは、資産形成期に積み上げてきた金融資産を、引退後やセカンドライフにおいて計画的に取り崩し、生活費や目的資金として活用していくプロセスを指す。積立(アキュムレーション)の反対概念であり、「いくら増やすか」ではなく「いつ・どのくらい・どの順番で使うか」が核心となる。

  5. 「日本成長戦略」によれば、「家計の安定的な資産形成を促進するため、企業型DC・iDeCoの加入者目線に立った制度改善と制度内容に関する広報の充実化、個人向け国債の商品性の見直しや新たな商品の設計を含む更なる環境整備、実務的な改善を通じたNISAの継続的な利便性向上と更なる普及・定着に向けた広報を実施していく。また、家計における資産形成・管理の重要性が高まる中で、次期学習指導要領において金融経済教育の記載の充実を図ることを含め、各世代・地域に即した金融経済教育を推進する」と記している。

【参考文献】

谷口 智明


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

谷口 智明

たにぐち ともあき

政策調査部 フェロー
専⾨分野: 社会保障、資産形成・運用

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