社会保障負担率は下がっても、現役世代の保険料負担は軽くならない?

~「骨太の方針2026」の負担率目標を読み解く~

谷口 智明

要旨
  • 「骨太の方針2026」では、医療・介護を中心とする改革を進め、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げを目指す方針が示された。その一環として、2027年度の社会保障負担率が2025年度を上回らないよう取り組むとともに、同負担率目標の検討を進めるとしている。
  • ただし、現役世代の保険料率を引き下げることと、社会保障負担率を引き下げることは同じではない。社会保障負担率は、社会保障負担を国民所得で割ったマクロ指標であり、社会保障負担が減少しなくても、国民所得がより大きく増加すれば低下する。
  • 実際、社会保障負担率は2020年度の19.4%から2026年度には17.6%へ低下する見通しである一方、財務省の公表値から概算した社会保障負担は約73.5兆円から約87.3兆円へ約19%増加する。国民所得が同期間に約31%増加するためであり、近年の負担率低下は負担額の減少を意味するものではない。
  • また、社会保障負担率は2020年度をピークに低下する一方、二人以上勤労者世帯の社会保険料負担率はほぼ横ばいである。両指標は対象や定義が異なるため単純比較はできないものの、マクロの負担率低下が、そのまま勤労者世帯の負担軽減を意味するものではないことを示している。
  • 社会保障負担率を政策目標として用いる際には、同負担率だけでなく、負担額や負担の分布、保険料・公費・自己負担の財源構成、給付やサービスへの影響を併せて確認する必要がある。同負担率は政策の帰結を示す重要な結果指標ではあるが、経済動向によっても変化する。このため、数値目標の達成や未達だけで改革の成果を評価するのではなく、その変化の背景と、国民の負担や給付・サービス等への影響を検証し、国民の理解と納得を得られるよう説明していくことが求められる。
目次

1. はじめに

2026年7月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2026」(以下、「骨太の方針2026」)では、必要な医療・介護・福祉サービスの提供体制を確保しつつ、医療・介護を中心とする改革を進め、現役世代の保険料率の上昇を止め、引き下げを目指す方針が示された。

このため、これまでの歳出改革努力を継続し、2027年度の社会保障負担率が2025年度を上回らないよう取り組むとしている。また、社会保障制度の機能を損なわないよう配慮しつつ、社会保障負担率の目標の検討を進め、2026年度中に改革項目の具体化と工程の明確化を図り、順次実施するとしている。

もっとも、ここで注意が必要なのは、「現役世代の保険料率を引き下げること」と「社会保障負担率を引き下げること」は同じではないという点である。次章で述べるように、社会保障負担率は、社会保障負担を国民所得で割ったマクロの指標である。そのため、社会保障負担が減少しなくても、国民所得が増加すれば、同負担率は低下する。したがって、社会保障負担率の低下だけをもって、現役世代の保険料率が下がった、あるいは家計の負担が軽くなったと評価することはできない。

「骨太の方針2026」が社会保障負担率を明示的に取り上げたことは、従来の歳出管理(注1)に加え、社会保障を支える負担を国民所得との関係から点検する視点を加えたものと捉えられる。一方で、この指標を政策目標として用いるのであれば、負担率の動きだけではなく、その変化が何によって生じたのかを確認する必要があろう。本稿では、まず社会保障負担率の構造を整理した上で、その変化を読み解く際の留意点を示し、政策目標として用いる場合に必要となる評価の枠組みについて考える。

2.社会保障負担率の構造

内閣府「国民経済計算(SNA)」に基づけば、社会保障負担率は次の算式で求められる。

図表
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また、国民所得は、次のような要素で構成される。

図表
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社会保障負担には、公的年金、医療保険、介護保険、雇用保険などに係る社会保険料の本人負担だけでなく、事業主負担も含まれる。社会保障負担率に租税負担率を加えたものが国民負担率となる(資料1)。資料1のとおり、社会保障負担率は長期的には上昇してきたが、2020年度の19.4%をピークに低下傾向にあり、2026年度は17.6%と見込まれている。ただし、こうした推移だけでは、社会保障負担率の低下が、社会保障負担の減少によるのか、国民所得の増加によるのかは分からない。

図表
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そこで、財務省HPに公表されている社会保障負担率と国民所得から社会保障負担を概算すると、同期間に約73.5兆円から約87.3兆円へ約19%増加する一方、国民所得は379.1兆円から496.1兆円と約31%増加すると算定された(資料2)。つまり、社会保障負担率の低下は負担額の減少によるものではなく、国民所得の伸びが社会保障負担の伸びを上回ることによって生じている。

図表
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さらに、社会保障負担率を読み解くためには、分子とともに、分母である国民所得の構成にも目を向ける必要がある(資料3)。

図表
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資料2でも確認したように、国民所得は2020年度以降、増加傾向にある。その構成をみると、2024年度では雇用者報酬が69.5%を占める。ただし、雇用者報酬には賃金・俸給だけでなく、雇主の社会負担も含まれる。また、国民所得には利子・配当・地代等の財産所得や企業所得も含まれており、企業所得は年度ごとの変動が比較的大きい。こうした構成からも、国民所得の増加が、そのまま現役世代が受け取る賃金・俸給の増加を意味するものではないことが分かる。

このうち、雇主の社会負担には、健康保険・厚生年金など公的な社会保障制度への社会保険料(事業主負担)や、企業年金等への拠出などが含まれる(注2)。前者は、分子である社会保障負担に含まれる一方、雇用者報酬を通じて分母である国民所得にも反映される。これはSNA上、事業主負担が雇用に伴う労働コストであり、雇用者に帰属する報酬の一部として扱われるためである。つまり、社会保険料の事業主負担が増加すると、分子を押し上げると同時に、分母も押し上げる構造にある。言い換えれば、「負担」を測る指標でありながら、その負担の一部が同時に分母となる所得にも組み込まれている。この点から、賃上げによって国民所得が増加する場合と、社会保険料の事業主負担増によって雇用者報酬が増加する場合とでは、その意味は異なる。

3.社会保障負担率を政策目標として用いる際の留意点

社会保障負担率の低下が、現役世代の負担軽減を意味するかを判断するには、率そのものだけを見るのではなく、その変化が何によって生じたのかを確認する必要がある。そこで、少なくとも「率と額」「負担の分布」「財源(負担)と給付」の三つの視点が重要になると考える。

(1)負担率と負担額を分けてみる

第一は、「率と額」の視点である。社会保障負担率を上昇させないためには、社会保障負担の伸び率が国民所得の伸び率を上回らなければよい。つまり、国民所得が社会保障負担を上回るペースで増加すれば、社会保障負担が増加していても、負担率は低下する。実際、前章で確認したとおり、近年の社会保障負担率の低下は、社会保障負担の減少を意味するものではない。

したがって、社会保障負担率の低下を現役世代の負担軽減と評価する際には、率だけでなく、負担額、一人当たりの社会保険料、保険料率等の動きも併せて確認する必要があろう。

(2)誰の負担が変化したのかをみる

第二は、「負担の分布」の視点である。社会保障負担率は、企業も含めた経済全体の負担水準を示すマクロの指標であり、誰がどれだけ負担しているかまでは示さない。同じ負担率であっても、現役世代に負担が偏る場合と、高齢者や企業などを含めてより広く分担される場合では、その意味は異なる。

例えば、資料4は、社会保障負担率と二人以上勤労者世帯における社会保険料負担率の推移を比較したものである。

図表
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両者は長期的にはおおむね同じ方向に動いてきたが、近年の動きには差がみられる。社会保障負担率は2020年度をピークに低下している一方、二人以上勤労者世帯の社会保険料負担率はほぼ横ばいである。もっとも、両指標は単純に比較できるものではない。社会保障負担率は企業の事業主負担も含み、分母も国民所得というマクロの指標である。これに対して、二人以上勤労者世帯の社会保険料負担率は、家計調査に基づき、被保険者本人が負担する社会保険料を勤め先収入で割ったものである。一方で、マクロの社会保障負担率が低下していても、勤労者世帯が家計上負担する社会保険料の比率が同じように低下するとは限らないことは確認できる。

現役世代の負担軽減を評価する際には、被保険者本人の保険料率、保険料負担額、所得の動きに加え、物価上昇を踏まえた実質所得の変化も併せてみる必要があろう。

(3)社会保険料以外への「付替え」がないかをみる

第三は、社会保障給付を支える「財源(負担)と給付」の視点である。社会保障給付は、社会保険料だけでなく、公費(税・国債)によっても賄われている。また、医療や介護では利用者の自己負担も存在する。

こうした財源構成の下では、例えば社会保険料による負担の一部を税財源に付け替えれば、社会保障負担率を抑制できる可能性がある。しかし、税負担が増加すれば、家計や企業の負担全体が軽くなったとは限らない。同様に、医療・介護の自己負担割合を引き上げれば、社会保険料の伸びは抑えられても、サービス利用者の負担は増える。さらに、保険料負担の抑制が給付範囲の縮小や必要なサービス供給の削減によって実現した場合にも、それを単純な負担軽減と評価することは適切ではない。社会保障負担率の低下を評価する際には、保険料、公費、自己負担の間で負担がどのように変化したかに加え、給付水準や医療・介護サービスへのアクセスにどのような影響が生じたかを確認する必要がある。

以上の三つの視点を踏まえると、社会保障負担率は、社会保障制度と経済全体との関係を示す重要な結果指標ではあるが、当然ながらそれ自体を政府が直接操作できる政策変数ではない。政府等が制度設計を通じて決定・調整できるのは、給付範囲、公費投入、自己負担、診療報酬・介護報酬などであり、分母となる国民所得は、賃金や企業収益など幅広い経済活動の結果として形成される。

すなわち、景気拡大によって国民所得が大きく伸びれば、制度改革の効果が限定的であっても社会保障負担率は低下し得る。逆に、景気後退によって国民所得が減少すれば、社会保障負担が横ばいでも負担率は上昇する。こうした性格を踏まえると、仮に年度単位の数値目標を設定する場合であっても、その達成状況を機械的に評価することには慎重であるべきだ。景気が弱い局面で数値目標の達成を優先すれば、必要な社会保障給付を追加的に抑制する方向に政策運営が傾くおそれもある。医療・介護サービスの過度な抑制は、受診控えや重症化を通じて、中長期的な給付費の増加につながる可能性にも留意する必要があろう。

また、国民所得の確報には時間を要するため、目標の達成状況をリアルタイムで判定することにも限界がある。社会保障負担率は、目標の達成・未達を判定する硬直的な基準というより、その変化の背景や政策効果を検証するための指標として用いることが適切であろう。重要なのは、率の低下そのものではなく、それが現役世代の負担や必要な給付・サービスにどのような変化をもたらしたのかを併せて確認することである。

4.おわりに

「骨太の方針2026」が社会保障負担率を政策運営上の指標として取り上げたことには、社会保障改革を給付費の効率化・適正化の観点にとどめず、マクロ的な所得と負担の関係から捉え直す視点を示した点に意義がある。一方で、同負担率は経済動向によっても変化する。このため、負担率の低下は必ずしも現役世代の保険料率の低下を意味するものではなく、その数値だけで改革の成果を評価することには限界がある。

重要なのは、社会保障負担率を何%にするかという数値そのものではなく、その変化がどのような要因によって生じ、現役世代をはじめとする国民の負担や社会保障給付・サービスにどのような影響を及ぼしたのかを検証することである。社会保障負担率を政策目標として用いるのであれば、数値目標の達成や未達だけで改革の成果を評価するのではなく、その変化の背景と、国民の負担や給付・サービス等への影響を検証し、国民の理解と納得を得られるよう説明していくことが求められる。

以 上

【注釈】

  1. 「骨太の方針2026」によれば、「社会保障関係費については、給付と負担の改革努力を継続しつつ、高齢化による増加分に相当する伸びに経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」といった歳出規律も維持されている。

  2. SNAの「雇主の社会負担」には、公的な社会保障制度への負担のほか、企業年金や退職一時金等の雇用関係をベースとする社会保険制度に係る負担も含まれる。このため、「雇主の社会負担」全体が社会保障負担率の分子である「社会保障負担」に含まれるわけではない。

【参考文献】

谷口 智明


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

谷口 智明

たにぐち ともあき

政策調査部 フェロー
専⾨分野: 社会保障、資産形成・運用

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