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2026.07.24
資産形成
デキュムレーション
年金・保険
年金制度
資産形成・資産運用
米国の老後資金は、貯めて、増やして、取り崩す
~米国の資産運用に関する税制優遇制度(401(k)、IRAなど)の概要~
重原 正明
1. 米国の税制優遇資産形成制度~DCとIRA~
米国の資産形成に関する税制優遇制度としては、401(k)などの確定拠出企業年金(DC)を中心とした企業年金と、iDeCo類似の個人退職勘定(Individual Retirement Account、IRA)が主なものとなる。日本と異なり米国では投資文化が根付いていることもあり、これらは投資促進ではなく老後の資産形成のための制度となっている。本レポートではこの2制度について概説する。
なお本レポートの内容は制度の概要を紹介する目的のものである。米国における個別ケースについて推奨するものではないことに注意されたい。
2. 現役時代はDCによる積み立てが主力
米国の老後資産形成に関する制度全体の概念図を資料1に示す。

公的年金が下支えとしての役割を果たしているが、その上乗せとしての私的な資産形成制度として税制優遇を受けるものには、企業年金とIRAがある。企業年金については公的部門では確定給付企業年金(DB)の比率がまだ大きいが、民間企業ではDCへの移行が進んでいる。現役時代にIRAに積み立てることもできるが、拠出金額の大きさや事業主のマッチング拠出分の存在などから、現役時代の資産形成手段としては、DCへの拠出が主力である。

DCもTraditional IRAも積立時非課税(所得から控除される)、運用益非課税であり、引出時に課税される。59歳6か月になる前に引き出すとペナルティが課される(ただし障害状態など例外あり)。
老後資金の積立という運用目的が明確なことから、特にDCでは、ターゲット・デート・ファンド(注1)が多く用いられており、その他のマネージドアカウント(注2)の利用も多い。
アメリカ連邦政府では高齢者の貧困を減らすため、年金加入者の拡大に努めている。中小企業向けの制度なども作られているが、特にオプトアウト式強制加入制度(注3)の導入促進が効果的に加入者を増やしているようである。
3. 退職したらIRAに移管し、運用しながら取り崩す
そのようにしてDCに貯めこんだ資産は、多くが退職時にIRAに移管(rollover)される(注4)。積立額が少額の人は一括引き出しする人が多いが、金額で見ると全体の中では少額である。
IRAに移管する理由は、移管により無税(課税繰り延べ)の特典をより長い期間享受できることにあろう。実際にIRAの資産の内訳を見ると、高齢層でもリスク性資産の割合は高い。取崩期においても資産運用を続け、資産寿命を長引かせる努力が続けられている。
ただし一定年齢(1960年以降生まれの人は75歳)以上になると、Traditional IRAなどの税優遇資産その他定められた資産は、年齢に応じた一定割合を取り崩さなければならない。これは最低引出し要件(Required Minimum Distribution, RMD)と呼ばれている。最低引出し割合は各年齢の平均余命をもとに定められており、独身者などの場合、最高齢(2026年で120歳以上)の領域では、毎年資産の2分の1以上を取り崩すことが求められる(注5)。
最低引出し要件は、税制優遇が老後生活のための資産形成にあることから、その目的以外の、例えば資産の遺贈などに過度に使われないように設けられている制度である。実際には最低引出し要件を満たす程度に資産を毎年取り崩す人が多く、リタイア後の資金プランを提供する制度ともなっている。もちろん生活に余裕がある場合は、取り崩した金額を税優遇なしで再度投資することも可能である。
米国は税優遇制度の設計や運用において、オプトアウト、デフォルト運用、強制引出しなどを通し、人々の資産形成とデキュムレーションの誘導にある程度成功している。ある程度収入のある人については、制度に従った老後資産形成・デキュムレーションがされているように見える。
4. 終身年金への誘導
最後に米国の制度の最近の動きについて紹介する。米国でも日本と同様、終身年金が選ばれないという傾向がある。長生きリスクの解消のため、民間および政府で、終身年金へと人々を誘導する方策が進められている。
民間で進められていることの例として、ターゲット・デート・ファンドに終身年金を組み入れるということがある。ターゲット・デート・ファンドでは、株式などのリスク性資産を、満期が近くなるにつれて債券などの低リスク資産に移していくが、その一部を年金保険に移し、満期になった際に資産の一部を原資とする終身年金が受けられるようにする、というものである。
政府の政策として、長生きリスクに対応するような高齢で開始する終身年金に加入した場合は、その年金分の資産は強制引出し要件の対象外とする、というものがある。このような年金は適格長寿年金契約(Qualified Longevity Annuity Contracts:QLAC)と呼ばれ、2014年に制度が創設された。最近も適格長寿年金契約への拠出限度額が拡大されている。
もう一つ政府の政策として、情報の提供がある。2019年制定のSECURE Act(注6)第203条では、DC加入者向けのBenefit Statement(4半期ごとに発行)において、年1回は現在のDCの残高すべてを年金に充てた場合の毎月の年金額を開示しなければならない、と定めている。年金額を開示する年金の種類としては、加入者本人のみを対象とする終身年金と、配偶者の終身遺族年金付きの加入者終身年金(注7)の2種類になる。年金額で将来受け取れる見込み額が示されれば、実際の必要額を考えてDCの積み増しを考える、といったことも出てこよう。
資産運用というと、とかく「得か損か」という2元論で語られがちである。将来の生活と結び付く情報を可視化することで、実際に生活に必要な額を意識した資産運用へと向かわせようとすることは、大きな意味があると考える。
米国と日本では環境や法制度など違うところも多いが、参考になる点は多くあるように思う。読者の皆様の資産運用やデキュムレーション、あるいは今後の日本の類似制度の制度設計を考える上で、本レポートが参考になれば幸いである。
【注釈】
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退職に向けたリスク許容度の低下に合わせ、ファンドの満期時に向けリスク資産への配分を減らしていくファンド。日本ではターゲット・イヤー・ファンドと呼ばれる。
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金融機関などのファンド管理者が、顧客の運用目的に合わせ日常的な取引・管理を行うファンド。
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入りたくないと表明しない場合は自動的に加入するという制度。米国の企業年金は加入するかどうかは従業員個人の意思による。
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米国では退職後も企業型DCに残ることもできるが、そうする人の割合は少ない。
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最低引出し要件の割合については、独身者および配偶者(本人死亡後に受取人となる者(beneficiary)に限る、以下同じ)の年齢が本人より10歳を超えて若くはない既婚者の場合、配偶者の年齢が10歳を超えて若い既婚者の場合、本人死亡後の後継受取人の場合の3つの率が定められている。
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SECURE Act(Setting Every Community Up for Retirement Enhancement Act of 2019)は、2019年に定められた退職後の資産形成を促進するための法律。本文で触れた年金換算額開示の他、被用者が勤務先を超えて自由に加入できるDCプラン(Pooled Employer Plan)の創設などが含まれている。2022年には中小企業被用者への年金加入を促進する目的で一部改訂が行われ、改定法はSECURE Act 2.0と呼ばれている。
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米国の税法上の規定では、遺族年金の額は加入者本人の年金額の50%以上100%未満とされている。また遺族年金を支給する場合、加入者の年金と遺族年金の合計の価値は、加入者本人だけに年金を支払う場合の価値と同じでなければならないとされている。
【参考文献】
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奥田宏二他(2026)「いま注目されるデキュムレーション~米英豪のデキュムレーション政策の動向から考える~」
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重原正明(2026)「【1分解説】ターゲット・イヤー・ファンドとは?」
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年金シニアプラン総合研究機構(2018)「米国退職準備資産に関する調査研究報告書」
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Pacific Life ”Secure Act & Secure Act 2.0: SUMMARY OF LIFETIME INCOME PROVISIONS”
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米国歳入庁(IRS)サイト
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Vanguard社などの公開資料
重原 正明
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。