- Flash Insights
-
2026.09.09
日本経済
資産形成
住宅
マネー
資産形成・資産運用
長期金利3%、家計は30年前より強くなったのか
~金融資産はほぼ倍増、家計ごとに異なる「金利耐性」~
谷口 智明
1.30年ぶりの長期金利3%が示すもの
2026年9月1日の国内債券市場で、長期金利の代表的な指標である新発10年国債利回りが3%台に上昇した。3%台は1996年9月以来、約30年ぶりである。翌2日には一時3.015%まで上昇し、約30年ぶりの水準を更新した。背景には、海外金利の上昇や原油高を受けたインフレ懸念、日本銀行の追加利上げ観測、財政拡張への警戒など、複数の要因があるとみられる。
30年ぶりと聞けば、日本の金利が30年前に戻ったようにもみえる。だが、1996年と現在では、金利を取り巻く経済環境は大きく異なる。当時は、景気回復を支えるため金融緩和が続き、長期金利も年度後半には大きく低下した。日本経済はそこからデフレと一段の低金利へ向かい、ゼロ金利政策や量的緩和、さらにはマイナス金利政策へと進んでいく。
現在は逆に、長く続いた超低金利から離れていく過程にある。内閣府「令和8年度年次経済財政報告」(以下、「経済財政白書2026」)が指摘するように、日本経済は、賃金・物価の変動が乏しかった「低温経済」から、賃金・物価とともに金利も動く経済へ移行しつつある。1996年の3%が低金利へ向かう過程の3%だったとすれば、現在の3%は超低金利から抜け出す過程の3%といえる。同じ3%でも、その方向と意味は異なる。
本稿では、約30年前と現在の家計の金融資産・負債の変化を整理したうえで、経済財政白書2026の試算を手がかりに、金利上昇の影響が世代・世帯によってどのように異なるのかをみていく。ここでいう家計の「強さ」とは、主として金融資産・負債の構成からみた金利上昇への財務的な耐性を指す。
2.金融資産はほぼ倍増、住宅ローンの比重は上昇
金利を受け止める家計の姿も、30年前とは大きく変わった。日本銀行「資金循環統計」に基づき、1995年度以降の家計の金融資産・負債(注1)と、家計負債に占める住宅貸付の割合をみてみよう(資料1)。

金融資産は1996年度末の約1,260兆円から、2025年度末には約2,386兆円へとほぼ倍増した。これに対し、負債は概ね400兆円前後で推移し、2025年度末も約414兆円である。マクロでみた家計部門の金融資産超過幅は30年前より大きく拡大したことになる。金融資産残高が増えた分、預金や債券等から得られる利子収入が増加する余地も30年前より大きくなった。ただし、ここでみているのは名目残高による家計部門全体の比較であり、一世帯当たりや実質ベース等でみた家計の余裕まで、同様に拡大したとは限らない。また、金融資産の構成をみると、株式や投資信託の比重が高まっており、金利上昇が利子所得に及ぼす効果は家計の資産構成によって異なる。
負債総額は大きく変わっていないが、その構成は変化している。負債には、住宅貸付(住宅ローン)のほか、消費者信用(消費者金融や教育ローン等)や個人事業主の借入などが含まれる。家計負債に占める住宅ローンの割合は、1996年度末の約4割から上昇し、2010年代以降は概ね6割程度で推移している。2025年度末の住宅ローン残高は約244兆円と、1996年度末の約162兆円から約82兆円増加した。この30年間で金融資産が大幅に積み上がる一方、負債側では住宅ローンの存在感が高まったことになる。重要なのは、家計部門全体のバランスシートが厚みを増していても、金融資産を多く保有する家計と多額の住宅ローンを抱える家計は必ずしも一致しない点だ。マクロでみた家計部門の資産超過幅の拡大を、そのまま個々の家計の金利上昇への耐性向上とみなすことはできない。
3.金利上昇の恩恵と負担は、誰に向かうのか
経済財政白書2026は、家計の資産・負債の保有構造を踏まえ、金利上昇の影響を家計の属性別に分析している。金融資産は高齢層ほど保有額が大きい傾向にある一方、住宅ローンは住宅取得期の現役世代で多い。こうした保有構造の違いによって、金利上昇による受取利子と支払利子への影響も世代によって異なる。
白書では、2023年から2026年にかけての実際の金利変化を参考に、住宅ローンなどの負債にかかる金利が1%ポイント、預金等の金融資産にかかる金利が0.6%ポイント上昇するケースを試算している(資料2)。この前提には、近年の金利上昇局面で、資産側の受取利子率の上昇幅が負債側の支払利子率を下回ってきたという非対称性が反映されている。したがって、資料2は長期金利3%の直接的な影響ではなく、近年の実績を踏まえた一定の金利上昇による影響を示したものである。

試算によると、20~40代では支払利子の増加が受取利子の増加を上回るのに対し、60~70代では受取利子の増加の方が大きい(資料2左図)。とりわけ影響が大きいのが、住宅ローンを保有する30代だ(資料2右図)。年間の負担増は平均24万円程度と、平均可処分所得(約600万円)の4%程度に相当する。さらに、30代の住宅ローン保有世帯の6割強では、負担増が年間20万円を超える。金融資産の蓄積途上にある一方、住宅ローン残高が相対的に大きいことが背景にあると考えられる。
この試算を資料1に示した長期的なバランスシートの変化と重ね合わせると、家計部門全体の金融資産が大幅に増え、資産超過幅も30年前より拡大している。一方、こうしたマクロでみた家計部門の「強さ」は、個々の家計の金利耐性とは必ずしも一致しないことがわかる。金利が動く局面では、資産と負債をどの程度、どのような形で保有しているかが、家計収支を左右する重要な要因となる。
4.おわりに~「金利のある世界」が問い直す家計の資産・負債
30年ぶりの長期金利3%を、1996年への回帰と捉えるのは適切ではない。金利が低下へ向かっていた当時と、超低金利から正常化へ向かう現在では、同じ3%でも意味が異なる。そして、その金利を受け止める家計の姿も大きく変わった。
では、家計は30年前より強くなったのか。金融資産・負債の構成からみた金利上昇への財務的な耐性という意味では、家計部門全体のバランスシートは30年前より厚みを増したといえる。金融資産は大幅に増加するなか、負債総額は概ね横ばいで推移し、マクロでみた資産超過幅は大きく拡大したからだ。しかし、その強さは個々の家計に均等に及んでいるわけではない。金融資産は高齢層ほど保有額が大きい一方、住宅ローンを保有する世帯は、現役世代で多い傾向にある。もっとも、同じ世代でも住宅ローンの有無や金融資産の保有状況によって影響は大きく異なる。金利上昇によって、多額の資産を保有する家計では受取利子の増加が期待できるのに対し、住宅ローンを抱える世帯では支払利子の増加が家計収支を圧迫する可能性がある。結局のところ、家計はマクロでは30年前より強くなったものの、個々の家計の金利耐性には大きな差がある。
長く続いた超低金利の下では、資産・負債の保有状況の違いは金利収支に表れにくかった。金利が再び動く時代には、その違いが受取利子や支払利子を通じて金融所得や消費余力の差として表れやすくなる。長期金利3%は、「金利のある世界」への回帰とともに、家計部門全体の資産超過だけでなく、家計間の金利耐性の違いが経済的な意味を持つ時代に入ったことを象徴している。
【注釈】
- 「資金循環統計」の家計部門には個人事業主が含まれる。また、金融資産には現金・預金、株式・投資信託等のほか、生命保険受給権や企業年金等に関する年金受給権なども含まれる。
【参考文献】
谷口 智明
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 谷口 智明
たにぐち ともあき
-
政策調査部 フェロー
専⾨分野: 社会保障、資産形成・運用
執筆者の最近のレポート
-
新NISA、全国で口座開設率上昇も地域差は縮まらず ~都道府県別・年齢層別データでみる半年間の変化~
NISA・iDeCo
谷口 智明
-
社会保障負担率は下がっても、現役世代の保険料負担は軽くならない? ~「骨太の方針2026」の負担率目標を読み解く~
社会保障・保険・年金
谷口 智明
-
【1分解説】次期マイナンバーカードとは?
社会保障・保険・年金
谷口 智明
-
政府の家計金融資産「株・投信・債券40%目標」を世代別にどう読むか ~40%に近い若年層、保有額が大きい60歳代・70歳以上~
資産形成
谷口 智明
-
期限切れの健康保険証、2026年8月からは使えない ~受診前に確認したい「マイナ保険証」「資格確認書」「電子証明書」~
社会保障・保険・年金
谷口 智明