インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

米ロ首脳会談、プーチン氏の背中を押したのは経済か?

~ロシアの景気減速が鮮明になるなか、会談を通じて何らかの譲歩を得たいとの思惑がうかがえる~

西濵 徹

要旨
  • 世界経済はトランプ米政権の関税政策に翻弄されている。トランプ氏は関税を外交手段に多用しており、こう着状態が続くウクライナ戦争の終結にも活用している。先月にはロシア製品を輸入する第三国に「2次関税」を課す方針を示し、ロシア産原油や兵器を輸入するインドへの圧力を強めている。また、今月15日にはプーチン大統領との直接会談が予定され、金融市場は停戦への期待がルーブル相場を下支えしている。
  • 一方、プーチン大統領が会談に応じた背景には、ロシア経済の苦境が考えられる。欧米などの経済制裁に様々な「抜け穴」を通じて継戦能力を維持したが、戦争長期化による労働力不足とインフレが深刻化している。さらに、原油価格の低迷が経済に打撃を与えるとともに、年明け以降の景気は頭打ちの動きを強めている。また。足元では財政動向も悪化するなど戦争継続のための財政運営は厳しさを増している。
  • こうしたことから、プーチン大統領は経済的な苦境を脱するべく、トランプ氏との直接会談で何らかの譲歩を引き出したい思惑がうかがえる。一方、会談が不調に終われば、米国がさらなる経済制裁に動いてロシア経済を巡る状況は一段と悪化する可能性も考えられ、本当の意味での正念場はこれからと言えよう。

このところの世界経済を巡っては、トランプ米政権の政策運営に翻弄される状況が続いている。トランプ氏は、関税を安全保障上の脅威への対応や貿易赤字の縮小といった目的に加え、外交交渉の材料に用いるなど『何でもあり』の対応をみせる。一方、トランプ氏は大統領就任以前に「就任から24時間以内にウクライナ戦争を終結させる」と豪語していたが、現実には就任から200日以上が経過するも、終結の見通しは立っていない。こうした状況を受けて、トランプ氏は先月、ロシアが停戦に応じない場合にロシア製品を輸入する第三国に米国が『2次関税』を課すなど圧力を強める姿勢を示した(注1)。ウクライナ戦争を機に、欧米諸国などはロシアの継戦能力を削ぐべく経済制裁を段階的に強化してきた。しかし、現実にはその『抜け穴』を通じて、結果的にロシアは継戦能力を維持してきた。具体的には、欧米などはロシア産原油の輸入を停止させる一方、中国やインドがロシア産原油の輸入を急拡大させており、結果的にロシアは外貨収入を確保してきた。また、中国やトルコ、中央アジア諸国などを経由した迂回貿易を通じて外国物資はロシアに流入し、金銭のみならず、物資面でも継戦能力が下支えされてきた。こうしたなか、米国はインドに対する相互関税を25%とした上で、ロシア産原油や兵器の購入を理由に25%の追加関税を課し、計50%とするなど圧力を強めている(注2)。さらに、トランプ氏は戦争終結に向けてロシアのプーチン大統領との直接会談への意欲を示し、今月15日にアラスカで会談が予定されている。会談では停戦交渉が焦点となるが、現時点では予断を許さないものの、金融市場はその結果に期待している様子がうかがえる。このところの金融市場では、トランプ米政権の政策運営を巡る不透明感などを理由に米ドル安が進んでいる上、トランプ氏の『TACO(腰砕け)』を期待してリスク選好を強める動きなどが、ルーブル相場の下支えに繋がっている可能性もある。

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一方、実際の停戦に繋がるかは不透明な状況が続いているものの、これまでウクライナ戦争の停戦に後ろ向きの姿勢をみせてきたロシアのプーチン大統領が、トランプ米大統領との直接会談に応じるなど態度を変化させている背景には、足元の同国経済を取り巻く環境の変化が影響している可能性がある。なお、ウクライナ戦争の開戦直後には、欧米などの経済制裁の影響で景気に急ブレーキが掛かったものの、その後は軍事費の増大や、軍事物資のフル稼働が景気を押し上げた(注3)。しかし、戦争長期化が労働力不足を招くなかで労働需給がひっ迫して賃金上昇圧力が高まるとともに、国民の不満を抑えるべくプーチン政権が社会保障の拡充に動いたことも重なり、景気回復と同時にインフレ圧力が強まった。よって、中銀は戦時下にもかかわらず、インフレ抑制に向けて昨年に計3回、累計500bpの利上げに動いたが、結果として物価高と金利高の共存状態が景気の重石となっている。そして、年明け以降の国際原油価格はトランプ関税をきっかけにした世界経済の減速懸念の高まりを受けて頭打ちの様相を強めており、原油関連収入への依存度が高いロシア経済に打撃を与える可能性も高まっている。こうしたなか、年明け直後のロシア経済は底入れの動きに一服感が出ており、4-6月の実質GDP成長率も前年同期比+1.1%と前期(同+1.4%)から一段と鈍化しており、前期比年率ベースの成長率も+0.7%と前期(同▲2.3%)からマイナス成長を脱するも力強さを欠いている。さらに、足元の企業マインド(PMI)は製造業、サービス業ともに好不況の分かれ目(50)を下回る水準に頭打ちしており、先行きの景気は一段と下振れする可能性が高まっており、上述した米国による2次関税の影響も懸念される。こうした状況を勘案すれば、プーチン大統領が米ロ首脳会談に応じた背景には、苦境に直面する経済状況を打開すべく、会談を通じて何らかの譲歩や条件を引き出そうとの思惑が影響した可能性もある。

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なお、一昨年半ば以降に加速感を強めたインフレ率は、年明けに約2年ぶりに二桁の伸びに達したものの、足元では景気の頭打ちも追い風に鈍化に転じている。さらに、昨年末以降にプーチン大統領を中心に政権内から中銀に対して利下げを要求する動きが強まり、中銀は今年6月に約3年ぶりの利下げに動くなど、中銀の独立性が危ぶまれる懸念が高まった。しかし、その後のインフレ鈍化が確認されたことを受けて、中銀は先月も2会合連続の利下げに加え、利下げ幅も200bpに拡大させるなど一転して金融緩和に動いている。一方、今年の7月までの財政赤字は、原油や天然ガス関連収入の減少を受けて▲4.9兆ルーブル(GDP比▲2.2%)となるなど、通年目標(GDP比▲1.7%)を大きく上回るなど、戦争継続に向けた財政運営が厳しさを増している様子がうかがえる。仮に米ロ首脳会談が不調に終われば、トランプ米政権が経済制裁を一段と強化させる可能性も考えられるとともに、ロシア経済を巡る状況が一段と悪化する事態も考えられる。今年の経済成長率は+1%程度と昨年(+4.3%)から大きく鈍化することも予想されるなか、ロシア経済にとっての正念場はこれからと捉えられる。

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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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