インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

トランプ政権が示す2次関税はロシアにどう影響するか?

~実現性に疑問は多いが、ブレーキが掛かるロシア経済の行方に少なからず影響を与えるか~

西濵 徹

要旨
  • 世界経済と国際金融市場は、トランプ米大統領の発言や政策に揺さぶられている。トランプ氏はウクライナ戦争の早期終結を公約したが、現実には戦争が長期化している。また、欧米の経済制裁にもかかわらず、ロシアは中国やインドへの輸出拡大や迂回貿易を通じて継戦能力を維持している。こうした事態を受けて、トランプ氏はロシアに停戦を迫るべく、ロシア製品の輸入国に対する2次関税を課す方針を打ち出した。この措置は米国経済への悪影響も懸念され、実効性に不透明感があるが、対ロ姿勢の変化を示している。
  • 一方、国際原油価格は中東情勢などの影響を受けつつも、OPECプラス有志国の減産縮小などを追い風に調整している。結果、ロシアの経済環境は厳しさを増している。ロシア国内では労働力不足やインフレ、金利高も重なり景気にブレーキが掛かる動きがみられる。こうしたなか、中銀は政府の圧力を受けて利下げを迫られた。今後のロシア経済は、インフレ動向や2次関税による影響が懸念されるなかで不安定な状況が見込まれる。また、国際金融市場では米ドル安にもかかわらず、ウクライナ戦争の停戦期待が後退するなかでルーブル相場は頭打ちしており、先行きもトランプ氏の言動に揺さぶられる展開が続くと予想される。

このところの世界経済や国際金融市場は、トランプ米大統領の発言や政策に大きく揺さぶられている。トランプ氏は、安全保障上の脅威への対応や貿易赤字の縮小を目的に関税政策を活用するだけでなく、外交交渉の材料に用いるなど『何でもあり』の様相をみせる。トランプ氏は大統領就任以前、ウクライナ戦争を巡って「就任から24時間以内に終わらせる」と述べていたが、現実には200日近くが経とうとしているにもかかわらず戦争終結の見通しは立っていない。ウクライナ戦争を契機に、欧米諸国などはロシアの継戦能力を削ぐことを目的に経済制裁を段階的に強化してきた。しかし、現実には経済制裁の『抜け穴』とも呼べる動きが活発化し、ロシアによる継戦能力が維持される状況が続く。具体的には、欧米などによる経済制裁の背後で、中国やインドなどがロシアから原油などの輸入を活発化させて外貨収入の確保に貢献している。さらに、中国やトルコ、中央アジア諸国などを経由した『迂回貿易』を通じて外国の物資がロシア国内に流入している。その結果、金銭、及び物資の両面で継戦能力が維持されている。こうしたなか、トランプ氏は今月14日、ロシアが50日以内にウクライナとの停戦に応じない場合にロシア製品を輸入する国に対して米国が100%の関税を課す「2次関税」を発動する方針を明らかにした。2次関税の詳細は依然として不透明だが、ロシア産原油を念頭に、その輸入を拡大させる中国やインドに圧力を掛けることで、結果としてロシアにウクライナとの停戦合意を迫る狙いがうかがえる。その一方、中国やインドに2次関税を課せば、物価上昇を通じて米国経済にも悪影響を及ぼす可能性があり、その実現性には疑問が残る。しかし、トランプ氏の対ロ姿勢に変化がみられていることは間違いない。

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上述したように2次関税には不透明なところが多いものの、年明け以降の国際原油価格を巡っては調整する動きが続いている。背景には、主要産油国の枠組みであるOPECプラスの有志8ヶ国が自主減産の段階的縮小の前倒しに動いていることがある(注1)。さらに、トランプ氏は米国における物価抑制を目的に原油価格の下落を目指す姿勢をみせていることも、OPECプラスの動きを後押ししている可能性がある。こうしたなか、中東情勢の不透明感の高まりを理由に国際原油価格は一時的に上振れする局面がみられたものの、基調としては上値の重い展開が続いており、原油関連収入への依存度が高いロシア経済を巡る環境は厳しさを増している。また、ロシア国内では戦争の長期化による労働力不足が幅広い経済活動の足かせとなるなか、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率▲2.3%と11四半期ぶりのマイナス成長に転じるなど景気にブレーキが掛かっている。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+1.4%と前期(同+4.5%)から鈍化して丸2年ぶりの伸びとなるなど、底堅い動きをみせた景気の勢いに陰りがみられる。

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足下の景気にブレーキが掛かる一因には、労働力不足による労働需給のひっ迫を受けた賃金上昇圧力の高まりに加え、戦争長期化による国民の不満を抑えるべく政府が社会保障の拡充に動いていることもインフレを高進させている。さらに、インフレが高進していることを受けて、中銀は戦時下にもかかわらず物価抑制へ利上げに動く難しい対応を迫られており、結果的に物価高と金利高の共存が個人消費など内需の足を引っ張っている。こうした事態を受けて、プーチン大統領は昨年末以降、中銀に対して金融政策の見直しを求めるなど『クギ』を刺す動きをみせたほか、政府内からプーチン氏の動きに同調して中銀への圧力を強める動きがみられた。そうしたなか、中銀は6月の定例会合において約3年ぶりの利下げを決定し、プーチン氏などの動きに配慮する姿勢をみせた(注2)。なお、中銀は先行きの政策運営について慎重な見方を示す一方、インフレが想定以上に鈍化した場合の一段の利下げに言及している。こうしたなか、足下のインフレは頭打ちの動きを強めている様子が確認されており、このところの景気減速の動きもインフレ鈍化を後押ししている可能性がある。また、足下の企業マインドの動きを巡っては、製造業のみならず、サービス業のマインドも急速に低下してともに好不況の分かれ目となる水準を下回っており、景気に一段とブレーキが掛かっている可能性がある。こうした状況が続けば、先行きのインフレは一段と鈍化する可能性がある一方、2次関税の発動が意識されることでロシア国内における物資不足が深刻化すれば、需給ひっ迫によって再びインフレ圧力が高まる可能性もある。そうした場合、政府による中銀への対応にこれまで以上に注意を払う必要性が高まることが予想される。

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一方、このところの国際金融市場においては、トランプ米政権の政策運営の不透明感に加え、政権内からFRB(連邦準備制度理事会)の人事への介入の動きが相次ぎ、金融政策の独立性への懸念が高まっている。その結果、米ドル相場は調整する動きを強める展開が続いている。さらに、年明け以降のロシアの通貨ルーブル相場を巡っては、トランプ氏によるウクライナ戦争への介入を通じた停戦期待も追い風に底入れする動きがみられた。しかし、現実にはウクライナ戦争はこう着状態が続いている上、上述したようにトランプ氏の対ロ姿勢の変化も重なり、ルーブルの対ドル相場は上値の重い展開が続いている。足下では国際原油価格が上値の重い展開が続いていることもルーブル相場の足を引っ張る展開が続いており、先行きは2次関税の行方も左右することが予想される。その意味では、ロシア経済やルーブル相場の行方をトランプ氏の一挙一動に揺さぶられる可能性が高まっている。

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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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