インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

「トランプの時代」の到来で、メキシコ経済を取り巻く環境はどうなる

~トランプ氏の「ディール」に揺さぶられる形でペソ相場や株式相場は厳しい状況に直面する展開~

西濵 徹

要旨
  • 今月5日に実施された米大統領選では共和党候補のトランプ前大統領が勝利した。トランプ氏は前政権の頃から移民政策や通商政策などでメキシコを標的にしたほか、選挙戦でも同様の対応をみせてきた。よって、金融市場ではメキシコへの圧力が強まることを警戒してペソ相場が調整し、主要株式指数も頭打ちするなど資金流出に直面している。背景には、トランプ氏がメキシコからの輸入品に25%ないし100%の関税を課す姿勢をみせていることがある。さらに、「中国製品の排除」を目指して中国からメキシコへの投資にも圧力を掛けるなど、幅広く実体経済の重石となる懸念が高まることが影響している。メキシコも報復に動く可能性を示唆するが、経済規模の差を勘案すればメキシコ経済に深刻な悪影響が出ることは必至である。なお、トランプ前政権下では最終的に穏当な形で通商政策がまとまったことを勘案すれば同様の形に終わる可能性はある。しかし、すでに政権移行チームは「高い球」をみせる動きをみせていることに鑑みれば、当面のペソ相場を取り巻く環境は厳しい展開が続くことは避けられそうにないと予想される。

今月5日に実施された米国の大統領選では共和党候補であるトランプ前大統領が勝利した。トランプ氏を巡っては、前政権を率いた際にメキシコからの不法移民対策として「壁」の建設を行ったほか、バイデン現政権下で移民政策が転換されたことを受けて、選挙戦において自身が大統領に返り咲いた際には再転換による新規制の導入や亡命制限、強制送還に動く方針を示してきた(注1)。さらに、通商政策を巡っても、移民政策に絡める形でメキシコからのすべての輸入品に対して25%の関税を課す方針に加え、この水準を100%まで引き上げる可能性を示唆するなど、早くも「ディール(取引)」を仕掛ける動きをみせてきた。こうしたことも影響して、金融市場においてはトランプ氏の勝利が意識された段階で通貨ペソの対ドル相場は調整の動きを強めるとともに、主要株式指数(ボルサ指数)も中国経済を巡る不透明感を反映した商品市況の低迷の動きが重石となるなど、資金流出に晒される展開が続いてきた。この背景には、メキシコ経済が財輸出の8割以上を米国向けが占めるなど米国経済への依存度が極めて高いほか、ここ数年は世界経済の分断の動きが進むなか、米国周辺でサプライチェーンを再構築するニアショアリングの動きを追い風に対内直接投資が活発化する動きがみられた。よって、仮にトランプ次期政権がメキシコからのすべての輸入品に25%の関税を課せばメキシコに対する直接的なコストはGDP比で6.9%、100%の関税を課せば同27.4%に及ぶなど、いずれにせよメキシコ経済に深刻な悪影響を与えることが予想される。そして、ここ数年は対内直接投資の動きが活発化するなかで流入額はGDP比で2%超の水準で推移する展開が続いており、こうした動きが萎縮することもメキシコ経済の足を引っ張ることも予想される。なお、バイデン現政権は中国に対して不公正な貿易慣行の是正を目的に追加関税の引き上げに動いており、トランプ氏も中国からのすべての輸入品に60%の関税を課す方針を示すなど「中国製品の排除」を目指す姿勢をみせてきたことを勘案すれば、大統領選の結果如何に拘らず中国からメキシコへの対内直接投資に対する姿勢が厳しさを増す状況は変わらないと捉えられる。そうしたことへの警戒感がメキシコからの資金流出の動きが加速することに繋がっているとみられる。トランプ氏が追加関税を課す方針を示していることを受けて、メキシコのエブラルド経済相は仮にトランプ次期政権が追加関税を課す場合、メキシコも米国からの輸入品に報復関税を課す可能性に言及するなど報復合戦の様相を呈する懸念が高まる。ただし、メキシコ経済にとっては財輸入の4割強を米国からの輸入に依存している上、仮に25%の関税を課すことになれば直接的なコストはGDP比で3.6%、100%の関税を課せば同14.3%に達するなどインフレ昂進を招くことも予想される。米国の経済規模はメキシコに対して約15.5倍と圧倒的な差があることに鑑みれば、報復合戦による実体経済への直接的な影響はメキシコに現れやすいこともあり、そうしたこともメキシコからの資金流出の動きに繋がりやすくなっていると捉えられる。他方、米国とメキシコとの通商政策を巡っては、トランプ前政権が当時のNAFTA(北米自由貿易協定)を破棄し、USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)に衣替えしたものの、具体的な協定内容を巡ってはほぼ変わりがない形で合意がなされた経緯がある。ただし、USMCAは協定発効から6年目となる2026年に見直し協議が予定されており、トランプ氏がすでにディールを駆使する動きをみせるなかで見直し協議に際して『高い球』を投げる可能性が考えられる。隣国であるメキシコとの決定的な関係悪化は米国経済にも相当な悪影響を与えることに鑑みれば、最終的には穏当な形での決着を図ることが予想されるものの、今後もトランプ氏が『得意とする』ディールに振り回される展開が続く可能性はくすぶる。足下では米国で政権移行チームの陣容が明らかになるとともに、一段と高い球をみせる可能性が高まるなかで当面のメキシコ・ペソを取り巻く環境は厳しい状況に直面する展開が続くであろう。

図1 ペソ相場(対ドル)と主要株価指数の推移
図1 ペソ相場(対ドル)と主要株価指数の推移

図2 インフレ率の推移
図2 インフレ率の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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