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メキシコ・シェインバウム政権が始動も、経済・外交に不透明要因山積

~司法制度改革、バラ撒き色の強い財政運営、内弁慶色の強い外交政策、金融政策の対立などが山積~

西濵 徹

要旨
  • メキシコでは1日に同国初の女性大統領となるシェインバウム氏が就任した。同氏はロペス=オブラドール前大統領の最側近として大統領選で圧勝する一方、連邦議会選でも与党は圧勝して改憲が前進しつつある。政策運営面では前政権によるバラ撒き姿勢を踏襲するとともに、外交面でも「内弁慶」色の強い姿勢を踏襲する模様である。政権交代前に実現した司法制度改革では三権分立の形骸化が懸念されており、米大統領選の行方も相俟って両国関係に影響を与えると見込まれる。金融政策を巡っても中銀内で対立が鮮明になる動きもみられ、新政権は経済、外交の両面で不透明要因を抱えた状態で船出を迎えた格好だ。

メキシコでは1日に大統領就任式が行われ、6月の大統領選で勝利したシェインバウム氏が同国初の女性大統領に就任した。シェインバウム氏は元々気候・エネルギー関連の科学者であり、ロペス=オブラドール前大統領がメキシコシティ市長であった際に市環境局長に就任し、その後に政界に転身して与党MORENA(国民再生運動)に参画し、2018年にメキシコシティ市長に就任した経歴を持つ。こうした経緯から、シェインバウム氏はロペス=オブラドール前大統領の最側近のひとりとされるほか、MORENA内では早くからロペス=オブラドール氏の後継者の最右翼とみられてきた。ロペス=オブラドール前政権は最低賃金の大幅引き上げのほか、貧困・失業対策などを追い風に極めて高い国民人気を誇ってきたなか、その後継者としてシェインバウム氏は大統領選で圧勝するとともに、同時に実施された連邦議会上下院選でもMORENAを中心とする与党連合は勝利を収めた。ただし、議会選で与党連合は事前予想を上回る勝利を収めるとともに、ロペス=オブラドール氏が掲げた改憲案の実現可能性が高まったことを受けて、それまで堅調な動きをみせてきた通貨ペソや株価、国債に一転して調整圧力が掛かるなど雲行きが怪しくなる事態に直面した(注1)。さらに、ロペス=オブラドール前大統領は任期満了を前に、改憲の実現を後押しすべく司法制度改革に着手し、制度上は三権分立を担保しつつも事実上の形骸化に繋がる動きが前進しており、同国駐箚の米国やカナダの大使が懸念を表明するなど外交関係に悪影響が懸念される事態に発展している(注2)。こうしたなかでシェインバウム政権は船出を迎えるが、同氏は就任演説において貧困対策を重視するとともに、若年層への教育・就業機会の拡大を通じた犯罪抑制を図ると述べるなど、前政権の姿勢を踏襲する可能性が高まっている。なお、前政権を巡っては外交政策面で度々挑発的な姿勢をみせることが問題とされており、とりわけ旧宗主国であるスペインとの関係悪化をきっかけに、スペインは就任式に政府代表の派遣を行わない事態となっている。シェインバウム氏もこうした『内弁慶』的な姿勢を踏襲する可能性は高く、あくまで内政を重視する形で国民からの支持を維持することに腐心する展開が続くと見込まれる。とはいえ、シェインバウム政権が直面する課題は山積しており、とりわけ前政権によるバラ撒き政策の影響で悪化した財政の立て直しが急務になっているものの、改憲案では年金制度改革を通じて給付水準の大幅引き上げのほか、エネルギー部門や鉱業部門の国有化といった国家資本主義色の強い内容が盛り込まれており、歳出増や歳入減による財政状況の悪化が懸念される状況にある。こうしたなか、シェインバウム氏は財政健全化に理解を示す一方、抜本的な税制改革をはじめとする歳入改革は計画していないと公言しており、前政権の下で急激に悪化の度合いを増している財政状況は一段の悪化が避けられないと予想される。そして、前政権から続く内弁慶色の強い外交姿勢は、隣国であるとともに経済的にも結び付きが極めて強い米国の大統領選の行方も相俟って両国関係に影響を与えると見込まれる。米国は共和党のトランプ前政権下でメキシコに対して移民政策や貿易政策などを巡って強硬姿勢をみせたほか、トランプ氏は米国企業による同国への投資に反対するとともに、輸入品に高関税を課す方針を示すなど同様の考えをみせる。他方、民主党のバイデン現政権下では態度が軟化する動きがみられたものの、上述のようにメキシコでは三権分立の形骸化が懸念されるなか、仮に民主党のハリス副大統領が勝利した場合においても同氏が司法当局での経験が長いことを勘案すれば、如何なる対応をみせるかは見通しにくい。金融政策を巡っても、足下の景気が頭打ちの様相を強めていることを受けて、中銀は先月の定例会合で利下げを決定するなどハト派姿勢に傾いているものの(注3)、利下げに反対したヒース副総裁はその後も高金利政策の長期化を主張する動きをみせるなど、政策運営を巡る対立が長期化することも予想される。シェインバウム政権を巡っては、財政・金融政策を巡る動きのみならず、外交を巡る動きにも不透明要因が山積する展開が続くことになろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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