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2024.08.28
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前進するメキシコの憲法改正、三権分立の危機で「危うい国」にまい進へ
~政権のやりたい放題となるリスク、政策運営の迷走、米国やカナダとの関係悪化など懸念要因は山積~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の国際金融市場では米FRBの利下げを織り込んだ米ドル安が進んでいるにも拘らず、メキシコペソは調整の動きを強めている。ペソ相場を巡っては、6月の大統領選でシェインバウム氏が勝利するとともに、同時に実施された議会上下院選で与党連合が改憲可能な水準となるなど大勝利を収めたことが調整のきっかけとなった。改憲案は20項目から成るが、最高裁がロペス=オブラドール大統領が掲げる改革の壁となってきたため、司法制度改革を前進させる動きをみせる。司法制度改革が進めば三権分立が形骸化することで政権のやりたい放題となるリスクがある。中銀の政策運営の迷走ぶりが露呈している上、米国やカナダとの関係悪化も懸念されるなど、その行方はメキシコの国の在り様に大きく影響を与える可能性がある。
足下の国際金融市場においては、米FRB(連邦準備制度理事会)による利下げ実施を織り込む形で米ドル安の動きが広がるなか、これまでの米ドル高を受けた通貨安圧力に直面してきた新興国通貨を取り巻く状況は大きく変化している。さらに、米FRBによる利下げ実施を織り込むも米国経済はソフトランディング(軟着陸)できるとの見方は金融市場の活況を招いており、米国と地続きのメキシコ経済にとっては追い風になることが期待される。こうした状況にも拘らずメキシコの通貨ペソ相場は調整の動きを強めており、足下における米ドル安の動きがまったく追い風となっていない様子がうかがえる。この背景には、今年6月に実施された大統領選において現職のロペス=オブラドール大統領の支援を受ける形で与党MORENA(国民再生運動)から出馬したシェインバウム氏が勝利するとともに、同時に実施された議会上下院選における与党連合の獲得議席数が憲法改正を後押しし得る水準に達したことがきっかけとなっている(注1)。司法制度や選挙制度、年金制度、財政制度、環境規制など計20項目から成る憲法改正案を巡っては、なかでも年金制度改革において給付水準を現役時代並みに大幅に引き上げる内容が盛り込まれたことにより、その実現性に加えて財政への悪影響が警戒された(注2)。また、選挙制度改革やエネルギー改革、国家警備隊を国防省傘下に再編するといった内容の実現に向けた法改正手続きが採られたものの、いずれについても最高裁判所がそれらの内容を違憲とする判断を下したことで、ロペス=オブラドール氏にとっては最高裁が『壁』となる動きがみられた。こうした事態を受けて、ロペス=オブラドール氏は議会上下院選で改選された議員で構成される新たな国会が9月1日に召集されることを念頭に、司法制度改革を憲法改正に向けた手続きの『一丁目一番地』に据える姿勢をみせている。司法制度改革案においては、最高裁判事の数を現行の11人から9人に削減するとともに、その選出方法も行政府、立法府、司法府が推薦した10人(計30人)を国民投票によって選出するとしており、仮にこれが実現すれば『三権分立』の原則が成立し得ないものとなる。この司法制度改革の内容を受けて、メキシコに駐箚する米国大使やカナダ大使が相次いで警戒感を示す動きをみせたものの、両国大使による批判を理由にロペス=オブラドール氏は『両大使館』との関係停止を発表する事態に発展している(あくまで国交断絶ではないと説明)。なお、司法制度改革案はすでに今月26日に議会下院の司法委員会において可決されており、来月1日に召集される新国会での審議、承認に向けた手続きは着実に前進している。司法制度改革が成立した後には、ロペス=オブラドール政権やシェインバウム次期政権にとっては最高裁という壁がなくなることにより『やりたい放題』となる可能性が高まっている。さらに、シェインバウム次期大統領の下でロペス=オブラドール氏が事実上の院政を敷くとともに、これまで以上にポピュリズム色を強めることも考えられる。そして、このところのペソ相場が調整の動きを強めている背景には、中銀が今月8日の定例会合において3会合ぶりの利下げを決定したものの、「3(25bpの利下げ)対2(据え置き)」と薄氷での決定であったことが明らかになるとともに、足下のインフレが加速していることを受けて今年のインフレ見通しを上方修正させるなど、政策運営を巡って『迷走ぶり』が明らかになったことも影響しているとみられる(注3)。今月上旬のインフレは再び鈍化する動きが確認されているものの、足下のペソ安を受けた輸入インフレの再燃に加え、中東情勢を巡る不透明感の高まりや米ドル安を受けた原油をはじめとする商品市況の底入れの動きがインフレ圧力を増幅させる可能性はくすぶる。さらに、メキシコにおけるこうした動きは2026年に迫るUSMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)の見直し協議の行方にも少なからず影響を与えることも考えられる。その意味では、このところのメキシコにおける動きは国の在り様のみならず、近年活況を呈する動きをみせる同国への投資などの動きを大きく左右する可能性にも留意する必要があると捉えられる。


注1 6月6日付レポート「シェインバウム氏勝利でメキシコペソと株価などはなぜ調整した?」
注2 2月7日付レポート「メキシコ大統領が改憲案提出、選挙への「追い風」にしたいとの思惑か」
注3 8月9日付レポート「メキシコ中銀、3会合ぶりの利下げも物価は上方修正、政策迷走か?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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