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メキシコ中銀、3会合ぶりの利下げも物価は上方修正、政策迷走か?

~当面の景気やペソ相場は外部環境や政策の不透明感を反映して方向性を欠く展開が続くか~

西濵 徹

要旨
  • メキシコ中銀は8日の定例会合で政策金利を25bp引き下げて10.75%とする決定を行った。昨年の同国では商品高の一巡などでインフレは頭打ちするも、中銀目標を上回る推移が続き、中銀は引き締め姿勢を維持した。結果、実質金利のプラス幅拡大を受けた通貨ペソ高は物価抑制の一方、移民送金の目減りや価格競争力低下による輸出の重石となる懸念が高まった。年明け以降の景気は頭打ちの動きを強めたため、中銀は3月にコロナ禍以降初の利下げに動いた。ただし、大統領選後は財政運営への不透明感がペソ相場の重石となるとともに、足下では米大統領選を巡る動きも調整の動きを加速させている。さらに、足下の景気は一段の頭打ちが確認されたことも中銀の利下げを後押ししたとみられる。ただし、決定は票割れしており、インフレ見通しを上方修正するなど政策運営に対する不透明感が高まる動きもみられる。当面の景気やペソ相場は外部環境や政策の不透明感も重なり、方向性を欠く展開が続く可能性が高まっている。

メキシコ中銀は、8日に開催した定例の金融政策委員会において3会合ぶりに政策金利を25bp引き下げて10.75%とする決定を行った。ここ数年のメキシコでは、商品高とコロナ禍一巡による経済活動の正常化に加え、隣国米国景気の堅調さを追い風にした米FRB(連邦準備制度理事会)による断続利上げの影響も重なり、中銀は物価と為替の安定を目的に累計725bpの利上げに動いた。インフレは一昨年中旬に約23年ぶりとなる高水準となるも、商品高の一巡を受けて頭打ちの動きを強めたほか、昨年以降の中南米ではインフレ鈍化を受けて利下げに舵を切る流れが広がりをみせる動きがみられた。しかし、メキシコでは米国景気の堅調さが景気を下支えするとともに、インフレも中銀目標を大きく上回る推移をみせたため、中銀は引き締め姿勢を維持する対応を続けてきた。結果、インフレ鈍化により実質金利(政策金利-インフレ)のプラス幅が拡大するなど投資妙味の拡大を追い風に資金流入が活発化し、そうした動きを反映して通貨ペソ相場は押し上げられてインフレ抑制に資することが期待された。他方、メキシコでは海外移民からの送金がGDP比4%に達しており、その大宗が米ドルで占めるなかでペソ高はペソ建換算値の目減りを通じて家計消費の重石となるほか、ペソ高による価格競争力の低下は輸出の足かせとなることが懸念された。こうしたなか、年明け以降のインフレは中銀目標を上回るも鈍化が続いたことに加え、実体経済も米国景気の勢いに陰りが出ていることを反映して頭打ちの動きを強めたことも重なり、中銀は3月にコロナ禍以降初の利下げに動いた(注1)。中銀による利下げにも拘らず直後のペソ相場は堅調な推移をみせたものの、6月の大統領選においてシェインバウム氏が勝利し、同時に実施された議会上下院選で与党の獲得議席数が憲法改正を可能にする水準に達したため、改憲案の内容を受けた財政運営に対する警戒感が意識される形でその後のペソ相場は頭打ちに転じた(注2)。そして、足下の国際金融市場においては米ドル高の動きに一服感が出ているものの、ペソ相場については米国の景気減速懸念が景気の足かせになるとの見方に加え、11月の米大統領選に向けて共和党候補のトランプ前大統領を中心にメキシコに対する『口撃』を強めていることも影響してペソ相場は調整の動きを強めている(注3)。また、年明け以降の同国経済は頭打ちの動きを強めてきたが、4-6月の実質GDP成長率も前期比年率+0.88%とプラス成長を維持するも前期(同+1.12%)からペースが一段と鈍化するなど頭打ちの様相を強めている。こうしたことも中銀の利下げを後押ししたと捉えられる。しかし、会合後に公表した声明文では決定が「3(25bpの利下げ)対2(据え置き)」と票割れするなどギリギリで決まるとともに、短期的な物価の上振れの動きを反映して今年通年のインフレ見通しを引き上げる(+4.0%→+4.4%)一方、来年10-12月にインフレ率が中銀目標の中央値(3%)に収束するとの見通しを据え置いている。その上で、先行きの政策運営について「抑制的なスタンスを維持する必要がある」としつつ、「インフレを巡る環境が金利変更の議論を可能にすると予想される」として将来的な追加利下げ余地に関する見方を示している。ただし、インフレ見通しを上方修正しつつ利下げを実施するという政策の整合性の乏しさは先行きの政策運営に対する不透明感を惹起することが予想されるほか、足下のインフレ率は加速に転じており、当面はペソ安による輸入インフレの動きも一段の上振れを招くことも懸念される。よって、メキシコの実体経済やペソ相場を巡る動きは米国など外部環境の影響を受ける展開が続くことは避けられないものの、中銀の政策運営に対する不透明感も重なり方向性を欠く展開が続く可能性は高まっていると判断できる。

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以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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