インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ニュージーランド総選挙、(現時点では)野党勝利で6年ぶりの政権交代へ

~経済、治安問題などが政権交代を後押しの一方、対中関係を巡って「新たな火種」が発生する懸念も~

西濵 徹

要旨
  • 14日に実施されたニュージーランドの総選挙では、物価高や住宅不足など経済問題や治安問題が焦点となるなか、暫定結果では野党の中道右派・国民党と右派・ACT党を併せた議席数がギリギリ半数を上回る見通しとなった。国民党のラクソン党首が次期首相に就任すれば6年ぶりの政権交代となる。ラクソン氏は経済界の経験が長く、景気に対する不透明感が高まるなど経済の立て直しが急務となるなか、その手腕に期待が高まったとみられる。総選挙では同国が中国と良好な関係を維持するなかで外交・安全保障問題は争点とならなかったが、ラクソン氏は経済面で中国重視の姿勢をみせるなど、ファイブ・アイズの一角である同国の対中融和は結束に悪影響を与える懸念がある。他方、ここ数年の世界においては経済と安全保障が一体不可分となる動きがみられるなか、ラクソン氏の一挙一動に注意を払う必要性は高まっている。

ニュージーランドでは14日、3年に一度の議会(代議院:一院制(総議席数120))の総選挙が実施された。ヒプキンス政権を支える与党・労働党(中道左派)は2017年の総選挙において、いわゆる『ジャシンダ旋風』を追い風に9年ぶりの政権奪還を実現したほか、2020年の前回総選挙では銃乱射事件、火山噴火、コロナ禍など山積する課題に当時のアーダーン首相によるリーダーシップ発揮を追い風に議席を積み増すなど地滑り的勝利を実現した。しかし、その後の同国経済はコロナ禍からの回復が進む一方、商品高や米ドル高に伴う通貨NZドル安に伴う輸入インフレが直撃するなか、中銀は物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされたことで、物価高と金利高の共存状態が長期化して幅広く国民生活に悪影響を与える状況が続く。さらに、アーダーン前政権によるコロナ禍対応を巡っては、当初は国内外においてその対応が称賛されるも、長期化によりその影響が直撃した若年層を中心に抗議デモが頻発したほか、国民生活の悪化を受けてギャングによる抗争や強盗が頻発するなど治安情勢の悪化を招く事態に発展した。また、コロナ禍を経た生活様式の変化なども追い風に住宅価格の高騰が社会問題化するなか、アーダーン前政権は安価な住宅供給を図るKiwi Build政策を公約に掲げたが、現実には目標達成にほど遠い状況が続くとともに、度重なる政策変更を余儀なくされた。そして、中銀による利上げ実施に伴い大きく上振れした住宅価格は頭打ちに転じたものの、供給不足を理由に価格はコロナ禍前と比較して2割以上も高い水準で推移しており、住宅を巡る問題は解消にはほど遠い状況が続いている。よって、アーダーン前首相6年前の政権奪還の立役者となったものの、政権支持率の低迷に歯止めが掛からず、与党・労働党に対する支持率が最大野党・国民党(中道右派)を下回る事態となるなど、総選挙を巡る状況が厳しくなったことを受けて今年1月に突如辞任を表明した(注1)。後任の首相にはアーダーン前政権でコロナ禍対応や治安対策などで手腕を発揮したヒプキンス氏が就任し、経済対策を政策の柱に据えることで党勢立て直しを目指す姿勢をみせた(注2)。しかし、閣内ではナッシュ前警察相とウッド前移民相が相次いで金銭スキャンダルを理由に辞任し、ヒプキンス氏に次ぐ次世代リーダーと目されたアラン前法相が飲酒運転の問題で閣僚を辞任し、政界引退を余儀なくされるなど閣僚人事を巡る問題が露呈したことで党勢は一段と悪化した。さらに、物価高と金利高の共存状態が長期化していることに加え、世界経済の減速懸念を理由に景気の不透明感が高まるなか(注3)、国民党のラクソン党首は政治経験こそ乏しいものの、長らく企業経営に携わった経験を元に経済の立て直しが急務になるなかで最終盤にかけて支持を集めた。選挙公約を巡っても、ラクソン氏は政府支出の無駄の削減や中間層を対象とする減税実施、外国人による高額不動産への課税といった経済問題を中心に据えるとともに、治安対策として非行少年を対象とする軍隊訓練の実施といった内容を掲げた。選挙管理委員会が公表した暫定集計に基づけば、与党陣営は労働党が28議席を失って34議席に留まる一方、緑の党(左派)は5議席積み増して14議席を獲得したものの、両党を併せても48議席と半数に及ばなかった。一方、国民党は16議席を積み増して50議席を獲得して第1党に躍り出るとともに、友党であるACT党(右派)も10議席を積み増して11議席を獲得し、両党を併せた議席数は61議席とギリギリで半数を上回り、国民党のラクソン党首が次期首相に選出される見通しとなった。ただし、現時点においては選挙区外や海外で投票された『域外票』の集計が残されている上、伝統的に域外票は労働党支持の割合が高いとされるなか、その行方如何では比例票の結果に影響が出る可能性に留意する必要がある。なお、2017年の総選挙後は『キャスティング・ボート』を握る形でアーダーン前政権の誕生を後押ししたニュージーランド・ファースト党(右派ポピュリズム)は、2020年の前回総選挙では与党連立の一角を占めるもすべての議席を失うなど党勢が失墜したものの、今回は8議席を獲得するなど一定の存在感を示した。仮に、域外票の集計に伴い国民党の比例獲得票が減少すれば、2党を併せた議席数が60議席と半数丁度となる可能性もあり、そうなれば同党がキャスティング・ボートを握ることで連立協議が難航する事態も予想されるなど、その行方に注意する必要がある。なお、ラクソン氏は英ユニリーバに長らく務めた後、2011年にヘッドハントによりニュージーランド航空に入社し、その後7年間に亘ってCEO(最高経営責任者)として同社の経営立て直しに尽力するとともに、政府や政治家などとの人脈を築いたとされる。そして、2019年に突如ニュージーランド航空を退社して翌20年の総選挙で政界転身を果たすなど政治経験は3年ほどと極めて浅く、同国は山積する課題に直面するなかで政権発足早々から正念場を迎えることになろう。また、インフレが長期化していることを受けて、選挙戦では中銀による政策運営も『政争の具』にする動きがみられたものの(注4)、総裁人事の行方や中銀法で規定される責務に関する動きが活発化することも予想される。他方、同国は中国と比較的良好な関係を維持してきたこともあり、総選挙では外交・安全保障問題は大きな争点とならなかったものの、ラクソン氏は景気刺激に向けたインフラ投資を巡って中国からの支援を「絶対に受け入れる」と述べるなど中国が進める一帯一路に参加する意向を持っている模様である。ただし、同国はUKUSA協定に基づく機密情報共有の枠組(ファイブ・アイズ)の一角を占めており、仮にラクソン次期政権が対中融和姿勢を強めた場合にはその結束に悪影響を与える可能性が考えられる。他方、ラクソン氏は自身の発言をきっかけに国内外で懸念が高まっていることを受けて、国防予算の倍増を唱えるとともに、中国の地政学上の脅威に対する認識は変わらないと述べた上で、米英豪3ヶ国による安全保障の枠組(AUKUS)との連携を示唆する動きをみせる。ただし、世界的には経済と安全保障を切り離した議論が難しくなる動きが広がるなか、経済面で中国を重視する姿勢をみせるラクソン次期首相対応は関係国との間で様々な議論を惹起する可能性も予想されるだけに、新たな連立与党を構成する国民党とACT党の動きを含め、その一挙一動に注意を払う必要性は高まっていると判断出来る。

図表1
図表1

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ