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2023.10.13
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アルゼンチン中銀、ペソ安に大幅利上げで対抗も一段の事態悪化は不可避
~大統領選後の政策の見通しが立たないなか、資金逃避の動きは抑えられない展開が続く~
西濵 徹
- 要旨
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- 12日、アルゼンチン中銀は政策金利を15%引き上げて133%とする決定を行った。今月22日の大統領選(第1回投票)を巡っては、直近の世論調査でもリバタリアンで中銀や通貨ペソの廃止を主張するミレイ氏が2位以下に差を付ける形でトップを走る展開が続く。結果、政策の見通しが立たなくなることが警戒され、ペソ相場は非公式レートで下落に歯止めが掛からない展開が続く。インフレも加速するなかで中銀は大幅利上げに動いたが、資金逃避が続くなかで事態打開は見通しにくく、状況は一段と悪化する展開が続こう。
足下のアルゼンチン金融市場においては、今月22日に実施される大統領選(第1回投票)を前に混乱の度合いが増す事態に見舞われている。8月に実施された予備選挙では、事前予想を覆す形で独立系野党・自由の前進から出馬しているリバタリアン(自由至上主義)経済学者のハビエル・ミレイ氏が首位に立つ予想外の結果となった(注1)。その直後には、ミレイ氏が掲げる公約(中銀廃止、通貨ペソの廃止による経済のドル化など)に加え、IMF(国際通貨基金)からの支援受け入れ条件の履行の見通しが立たなくなることが警戒され、通貨や国債などに売り圧力が強まる事態となり、中銀は大幅利上げとペソの切り下げを迫られた(注2)。その後も、中銀は大統領選までを対象にペソの対ドル相場を1ドル=350ペソで固定する方針を示し、公定レートはこの方針に沿った動きが続く一方、非公式レートは下げ止まりの兆しがみられず公定レートの半分を大きく下回る推移が続くなど混乱の度合いを強めている(注3)。この背景には、今月初めに実施された世論調査においても、ミレイ氏、及び自由の前進の支持率がトップになるとともに、2位に着ける中道右派勢力・カンビエモス(変化とともに)に対して10pt程度の差を開ける展開をみせていることがある。よって、第1回投票でミレイ氏が1位に、同時に実施される議会選挙において自由の前進の躍進が期待されるなど、選挙後の政局を巡る不透明感を嫌気する向きが強まっているとみられる。他方、こうした状況は、ここ数年の経済危機に加えてスタグフレーションの長期化により国民の約4割が貧困に喘ぐ苦境に見舞われており、国民の間で既存政治家に対する拒否感が強まっていることの現れと捉えることも出来る。ただし、足下では商品市況の底入れに加え、ペソ安に伴う輸入インフレ圧力の高まりを受けてインフレは再び加速して収束の見通しが立たない事態に見舞われるなか、中銀は12日に開催した金融政策委員会において政策金利を1500bp引き上げて133%とする決定を行った。直前には、利上げ幅が2700bpになった(政策金利を145%に引き上げ)と報じられたものの、現地報道に拠れば関係者の談話として直前に中銀が方針を変更したとされるなど、政策運営を巡って混乱が生じている様子がうかがえる。しかし、中銀による度重なる利上げ実施にも拘らず非公式レートのペソ安に歯止めが掛からない状況を勘案すれば、ミレイ氏が主張するペソ廃止という『劇薬』が意識されるなかで資金逃避の動きが抑えられないことを示しており、利上げ実施により環境変化が起こるとは見通しにくい。その意味では、中銀の『悪あがき』にも拘らず状況は一段と悪くなる展開となることは避けられないであろう。


注1 8月14日付レポート「アルゼンチン大統領予備選は「第3の候補」がトップの予想外の結果に」
注2 8月15日付レポート「アルゼンチン中銀、「予備選ショック」に対抗して大幅利上げとペソ切り下げ実施」
注3 10月4日付レポート「アルゼンチン大統領選、最終盤にかけ金融市場は一段の混乱を警戒」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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