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2026.06.09
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ペルー大統領選、決選投票は大接戦、開票作業は長期化
~金融市場は左派政権継続を警戒、いずれの候補が勝利しても議会対応は困難必至~
西濵 徹
- 要旨
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6月7日に実施されたペルー大統領選挙決選投票は、第1回投票で最多得票を獲得した右派FPのケイコ・フジモリ氏と、中道左派JPのロベルト・サンチェス元貿易・産業相の一騎打ちとなった。2021年の前回大統領選以降、大統領の相次ぐ弾劾や罷免による政治混乱が続くなか、中南米全域で右派政権が台頭する潮流を背景に、右派候補が優位な立場で選挙戦を進める状況がみられた。
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フジモリ氏は父アルベルト・フジモリ元大統領の政治的遺産を継承し、自由市場路線の堅持、治安強化、対米、対日関係の深化を訴えた。一方、サンチェス氏は格差是正と社会政策の拡充を掲げ、現行憲法の改正による国家介入の強化、鉱山採掘権の見直し、BRICS加盟など、経済・外交両面で対照的な路線を打ち出した。選挙戦終盤には、検察当局によるサンチェス氏への金融犯罪訴追や「反フジモリ」感情が影を落とし、支持率は最後まで拮抗した。
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出口調査ではサンチェス氏が50.3%とわずかにリードし、開票率94.94%時点でも同氏が50.102%対49.898%と僅差で上回っている。ただし、確定結果の公表には相応の時間を要する見込みである。同時に実施された議会選挙では、上下院ともにFPが第1党ながら過半数に届かず、中道勢力がキャスティングボートを握る構図となっており、いずれの政権が誕生しても安定した議会運営は困難な状況にある。サンチェス氏優勢の報を受け、通貨ソルや主要株価指数は下落している。政権の枠組みにかかわらず、複雑な議会構成のもとで政権運営の混迷が続く公算が大きく、主要鉱物の国際価格動向に引き続き左右されるとみられる。
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【決選投票は2021年大統領選と同様、「右派」対「左派」の構図に】
南米ペルーでは、6月7日に大統領選挙の決選投票が実施された。4月12日に実施された第1回投票では、右派政党のFP(人民勢力党)から出馬したケイコ・フジモリ氏が最多得票となった(注1)。フジモリ氏は、過去に3度(2011年、2016年、2021年)大統領選に出馬したものの、いずれも決選投票の末に敗北した経緯がある。したがって、今回は「四度目の正直」を期した。しかし、第1回投票におけるフジモリ氏の得票率は17.19%と当選に必要な半数に遠く及ばず、今回も決選投票に進むこととなった。
2021年の前回大統領選以降のペルーの政局は混乱が続いてきた。前回大統領選では、急進左派政党のPL(自由ペルー)から出馬したペドロ・カスティジョ氏が勝利したものの、議会との対立を理由に2022年に弾劾を受けた。後任のディナ・ボルアルテ氏も2025年、その後任のホセ・ヘリ氏も2026年2月に相次いで罷免された。中南米ではここ数年、アルゼンチン、エクアドル、ボリビア、チリ、コスタリカで相次いで右派政権が誕生する流れがみられる。こうしたことから、大統領選では右派候補が優位な立場で選挙戦を進める状況がみられた。
こうしたなか、極右政党RP(人民刷新党)から出馬したリマ前市長のロペス・アリアガ氏、中道右派政党PRG(良い統治の党)から出馬したホルヘ・ニエト氏、中道左派政党JP(ペルーとともに)から出馬したロベルト・サンチェス元貿易・産業相の3名が次点候補を争った。最終的にはロベルト・サンチェス氏の得票率が12.04%と、ロペス・アリアガ氏(11.91%)、ホルヘ・ニエト氏(10.98%)を上回り、決選投票に進むことが決定した。その結果、決選投票は「右派(フジモリ氏)」対「左派(サンチェス氏)」の構図で行われることとなった。
【最終盤にかけても支持率が拮抗する大接戦】
選挙戦においては、治安悪化への対応や経済格差の是正が主な争点となった。その一方、右派と左派の構図による決選投票ということで、両候補は対照的な選挙公約を掲げた。
フジモリ氏は、父であるアルベルト・フジモリ元大統領の「レガシー(政治的遺産)を引き継ぐ」と宣言し、選挙戦ではその功績をアピールするとともに、同氏が主導した市場重視の経済政策を引き継ぐ方針を掲げた。経済政策面では過去30年以上にわたって自由市場を軸とする経済運営を維持してきたことを背景に、安定路線を維持する考えを示した。さらに、治安改善に向けて、警察の強化や軍の投入も辞さない方針を示すとともに、不法移民の追放を訴えるなど強硬姿勢を掲げた。また、日系人というアイデンティティーを理由に、対日関係の強化に取り組むべく早期の訪日に意欲を示すほか、トランプ米政権との連携を深化させる考えを示した。
一方、サンチェス氏は、2022年に弾劾を受けたカスティジョ元大統領の腹心として知られており、社会政策の拡充のほか、格差是正を公約の柱に掲げた。同国は世界第3位の銅生産国であるうえ、銀や亜鉛、金などの生産・埋蔵量で世界トップクラスにあり、これらの輸出が近年の経済成長をけん引してきた。しかし、経済成長の果実が必ずしも幅広く国民に裨益しない状況が続いており、経済運営を巡って再分配を重視する大規模な方向転換を図る方針を示した。具体的には、市場原理主義色が強い現行憲法(1993年憲法)の改正を通じて、国家による経済や社会への介入強化のほか、大規模な鉱山採掘権の見直しを提唱した。そのうえで、中国やロシアなど新興主要国で構成されるBRICSに加盟する方針を示すなど、経済政策のみならず、外交面でも対照的な考えを示した。したがって、選挙結果は今後のペルーの行方を大きく左右する。
なお、5月には検察当局がサンチェス氏を金融犯罪の容疑で訴追し、禁錮5年4ヵ月を求刑するとともに、大統領選の候補者資格を取り消すよう請求したことが明らかになった(注2)。具体的には、同氏が所属するJPが提出した財務報告書において、行政手続きにおける虚偽申告と選挙資金に関する報告に誤りがあったことが訴追理由とされた。この行方が選挙戦に影響を与えることが懸念された。その一方、フジモリ氏を巡っては、アルベルト・フジモリ政権下での人権侵害や権威主義的な統治に対する反発も根強く、左派支持層を中心とする「反フジモリ」票の行方も懸念された。
こうしたなか、選挙戦の最終盤にかけて両者の支持率は拮抗したため、決選投票の得票率がカスティジョ氏(50.1%)とフジモリ氏(49.9%)の僅差となった2021年の前回大統領選と同様の展開となることが予想された。
【両者は僅差の大激戦、どちらが勝利しても議会運営は困難必至】
投票が締め切られた直後に公表された出口調査では、サンチェス氏の得票率が50.3%と、フジモリ氏(49.7%)をわずかにリードする結果となった。同調査は公式集計ではないものの、全国の投票所から抽出した代表サンプルを用いており、過去には正確な指標となってきた経緯がある。なお、フジモリ氏はコスタ(沿岸部)やセルバ(熱帯雨林地方)を支持基盤とする一方、サンチェス氏はシエラ(山岳地帯)を支持基盤としている。したがって、都市部から開票が行われるなかで、当初の開票速報ではフジモリ氏のリードが伝えられる一方、地方部での開票が進むにつれてサンチェス氏が差を詰める動きがみられた。選挙管理当局によれば、開票率94.94%時点でサンチェス氏の得票率は50.102%、フジモリ氏は49.898%と極めて僅差の戦いとなっている。当局は1ヵ月以内に確定結果を発表する方針を示しているものの、相応の時間を要すると見込まれる。
同国では二院制が復活しており、第1回投票と同時に議会選挙が実施された。議会下院(総議席数130)では、サンチェス氏が率いるJPは32議席と第2党にとどまる一方、フジモリ氏が率いるFPは41議席と第1党である。しかし、どちらも半数には遠く及ばないうえ、左派勢力、右派勢力ともに多数派を形成することができず、安定した議会運営には中道勢力の取り込みが必須となる。議会上院(総議席数60)でも、JPは14議席、FPは22議席とともに半数を下回るとともに、中道勢力がキャスティングボートを握る状況にある。よって、いずれの政権が誕生したとしても、議会運営はこれまで以上に複雑化することは容易に想像できる。議会構成の複雑さは大統領と議会のけん制関係を強め、2018年以降に8人もの大統領が入れ替わる一因になってきたが、今後もこうした構図が続く可能性は高い。
金融市場においてはサンチェス氏の優勢が伝えられたことで、左派政権が継続する可能性が高まり、同氏が掲げる公約が嫌気される動きがみられる。それ以上に決選投票が大接戦となったことで、政治不安が再燃するとの懸念も市場のマインドを悪化させている。前述したように、現時点においても両者の得票率は僅差となっているうえ、最終的な結果確定に時間を要すると見込まれ、通貨ソル相場や主要株価指数(S&P/BVLペルー総合指数)が調整する動きをみせる(図1)。開票結果によってはさらなる変動が生じることが予想されるものの、いずれの政権が誕生した場合においても政権運営には紆余曲折が避けられないことを勘案すれば、政治が市場環境を改善することは難しく、主要鉱物である銅などの国際価格に左右される展開が続くであろう。

注1 4月14日付レポート「ペルー大統領選、フジモリ氏首位も決選投票は激戦必至」
注2 5月15日付レポート「ペルー大統領選、決選投票を前に高まる経済と政治を巡るリスク」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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