アルゼンチン中銀、「予備選ショック」に対抗して大幅利上げとペソ切り下げ実施

~「ミレイショック」に対抗して政策金利は118%に、当面の金融市場は一段の悪化が避けられない懸念~

西濵 徹

要旨
  • アルゼンチンでは、10月に実施される大統領選に向けた予備選挙が実施され、事前予想を覆す形でリバタリアンの経済学者であるミレイ氏が首位に立った。事前には反米左派の与党、中道右派の主要野党の二大勢力の拮抗が予想されていたが、長期に亘る経済混乱で国民の4割が貧困に喘ぐなか、既存政治家と一線を画すアウトサイダーが若年層を中心に支持を集めた格好である。ミレイ氏の選挙手法は米国のトランプ前大統領を真似るとともに、中銀廃止、経済のドル化などを主張するなど、その行方は不透明である。選挙結果を受けて、金融市場では非公式レートを中心にペソ安が進み、中銀は防衛のためにペソの切り下げと大幅利上げを決定した。しかし、当面の金融市場は一段の混乱が避けられないものと予想される。

アルゼンチンでは、10月に実施される大統領選に向けた予備選挙が13日に行われ、事前の世論調査などの予想を覆す形で独立系野党の「自由の前進」から出馬した経済学者のハビエル・ミレイ氏が首位に立った(注1)。事前の世論調査においては、現フェルナンデス政権を支える与党の正義党(ペロン党)を中心とする反米左派勢力の「祖国同盟」と、前マクリ政権を支えた主要野党の共和国提案党を中心とする中道右派勢力の「カンビエモス(変化とともに)」の二大勢力が30%程度の支持率で拮抗する展開が続いてきた。なお、世論調査においては、与党内での派閥争いが表面化するなどドタバタ劇が生じる背後でミレイ氏が率いる自由の前進が支持を徐々に集める動きは確認されたものの、予備選挙に向けては二大勢力が支持率を上昇させる一方、同党の失速が確認されたことで二大勢力間での争いに留まるとの見方が強まった。しかし、結果的にミレイ氏の得票率は30.04%と二大勢力(カンビエモス(28.27%)、祖国同盟(27.27%))を上回るとともに、単独候補としても祖国同盟のマサ経済相(21.40%)、カンビエモスのブルリッチ元治安相(16.98%)を大きく引き離すなど『台風の目』となっている。ミレイ氏は経済学者としてリバタリアニズム(自由至上主義)を信奉するとともに、その主義主張を巡っても中央銀行の廃止や通貨ペソ廃止による経済のドル化に加え、臓器売買の合法化といった過激な内容も盛り込んでいる。また、選挙戦を巡っても支持者集会ではロックを歌うなど従来の政治家と一線を画す立ち居振る舞いをみせるとともに、米国のトランプ前大統領と見紛う「メイク・アルゼンチン・グレート・アゲイン」と書かれた帽子を被って舌鋒鋭く既存政治家をこき倒す演説を展開した。こうした既存政治家との大きな違いを打ち出す戦術は、経済危機以降に長期に亘るスタグフレーションに見舞われるなかで国民の約4割が貧困に喘ぐなかで最終版にかけて若年層を中心に急速に支持を集めたとみられる。ただし、上述のように事前には二大勢力による『穏当な』候補者が支持を集めるとみられたものの、結果的に予想外の『アウトサイダー』が大躍進を遂げる動きをみせたことで、金融市場においては同国資産に対する圧力が急激に強まる懸念が高まった。年明け以降の同国では、インフレ昂進を受けて中銀が一段の利上げに動くもペソ安圧力は収まらず、非公式レートは公定レートを大きく下回る状況が続いてきたものの、今回の予備選の結果を受けて非公式レートが大きく低下する事態を招いた。こうした事態を受けて、中銀は14日に通貨ペソの対ドル相場を約18%切り下げるとともに、政策金利を21%引き上げて118%とする『防衛策』を公表している。中銀は大統領選挙までペソ相場を1ドル=350ペソで固定する方針を示しているものの、公定レートは非公式レートを大きく上回る状況は変わらず、ペソ安に伴う輸入インフレを受けてインフレ収束に目途が立たない状況に陥る可能性は高まっている。よって、当面の同国金融市場はこれまで以上に悪化する可能性に留意する必要があると捉えられる。

図表1
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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