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2026.06.08
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インド景気は堅調確認も、先行きには課題が山積
~1-3月GDPは前年比+7.8%も、先行きは中東情勢の影響が足かせとなる~
西濵 徹
- 要旨
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- 中東情勢の緊迫化に伴う原油高を背景に、インド金融市場ではルピー、株、国債が売られる「トリプル安」の状況にある。原油需要の約9割を輸入に依存するインドにとって、中東の供給不安はエネルギー全般の価格上昇圧力につながるほか、モディ政権が普及を後押ししてきたLPGの供給にも悪影響が及ぶ懸念がある。モディ政権はガソリンや軽油価格の据え置き、輸出税引き上げによる国内供給優先など、国民生活への影響を抑える対応をとったが、その背景には4月に実施された地方選挙への配慮があった。結果的にBJPは西ベンガル州での初めてとなる政権獲得を含む好成績を収めるなど、選挙対策としては奏功した。
- 2026年1-3月の実質GDP成長率は前年同期比+7.8%と高水準を維持した。輸出は米国の関税発動や中東情勢の影響で減少に転じたものの、米中摩擦を背景とした生産拠点としての注目度上昇が設備投資を押し上げ、インフレ抑制を追い風に個人消費も底堅く推移するなど、内需が景気を下支えしている。供給サイドのGVA(総付加価値)ベースでも同+7.9%と堅調に推移している。しかし、GDPの基準年改訂により過去との統計的連続性に課題が残る点には留意が必要である。なお、ルピー安の進行により米ドルベースのGDPは下押しされており、2025年にはイギリスに抜かれて世界6位に後退したと試算される。
- 足元のインフレ率はRBI(中銀)の目標レンジ内で推移しているものの、卸売物価は急進しており、先行きの消費者物価への波及が懸念される。RBIは6月の定例会合で政策金利を据え置いたが、景気下支えを重視するスタンスはルピー安をさらに加速させるリスクをはらむ。加えて、SNS上で若年層を中心に広がる「ゴキブリ党(CJP)」の動きが新たな政治運動に発展する可能性もある。先行きは、燃料価格引き上げなど国民生活への悪影響が避けられないなか、モディ政権は難しい政策運営を迫られている。
【中東情勢への懸念を理由に金融市場は「トリプル安」に直面】
このところのインド金融市場では、通貨ルピー、主要株価指数(ムンバイSENSEX)、国債のすべてに下落圧力がかかる「トリプル安」の動きがみられている(図1)。この背景には、中東情勢の緊迫化を受けた原油高がある。同国は原油需要の約9割を海外からの輸入に依存している。そのうえ、同国は原油輸入を中東湾岸産油国に依存しており、中東情勢の緊迫化による供給懸念の影響を受けやすい。なお、一次エネルギーに占める石炭比率が46.4%とアジア新興国のなかでも相対的に高く、原油高の影響を受けにくいとされる。しかし、原油高を受けて、多くのアジア新興国は石炭への代替需要を活発化させており、石炭の国際価格も上昇している。したがって、インド経済全体としてエネルギー価格に上昇圧力がかかることは避けられない状況となっている。

同国では近年、モディ政権が実施した貧困層向け調理用ガス普及策が後押しとなり、LPG(液化石油ガス)の利用が急拡大してきた。しかし、その大部分を湾岸産油国からの輸入に依存しており、供給懸念が幅広く国民生活に悪影響を及ぼす可能性が高まっている。なお、モディ政権は中東情勢の緊迫化以降もガソリンや軽油の価格引き上げを回避するなど、国民生活への悪影響を抑える対応をみせた。国民に対してパニック買いを控え、節約を呼び掛ける一方、国営石油公社が損失を吸収して供給を継続する対応を維持した。加えて、軽油やジェット燃料に対する輸出税を引き上げて国内向け供給を重視し、LPG(液化石油ガス)も家庭向けを優先的に供給した。
モディ政権がこうした対応をみせた背景には、4月に5つの州、および直轄地(アッサム州、ケララ州、プドゥチェリー連邦直轄地、タミルナドゥ州、西ベンガル州)の議会選挙が実施されたことがある。仮に選挙前に燃料の需要抑制策に動いて実体経済に悪影響が生じれば、モディ政権を支える最大与党BJP(インド人民党)にとって逆風となることが懸念された。なお、改選前にモディ政権を支える与党BJP(インド人民党)が多数派を形成したアッサム州とプドゥチェリー連邦直轄地では順当に勝利を収めた。そのうえ、BJPは西ベンガル州で初めて政権を獲得するなど「大金星」を挙げており、モディ政権の対応は選挙対策としては有効に機能したと捉えられる。
【統計を巡る懸念はあるが、足元の景気は堅調な推移を確認】
こうしたモディ政権による政策運営も追い風に、1-3月の実質GDP成長率は前年同期比+7.8%と前期(同+8.0%(改定値))から鈍化したものの、引き続き高い伸びが続いていることが確認された。インド政府(統計・計画実施省)は、2026年2月末に公表された2025年10-12月期GDP統計に際して、GDPの基準年を2022-23年度に改訂した(注1)。当局は、その理由に新たなデフレーターの採用による統計精度の向上を挙げた。なお、新基準に基づく統計は過去4年分のみが公表されており、それ以前との比較に際しては統計の連続性を巡る問題を抱える点に留意する必要がある。当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率は6%半ばと試算される(図2)。したがって、足元の景気は比較的堅調な推移が続いていると捉えられる。

項目別では、トランプ米政権による関税発動の影響が色濃く現れたことに加え、前期に大きく上振れした中国向けや欧州向け輸出に反動が出た。さらに、中東情勢の緊迫化を受けて中東向け輸出に下押し圧力がかかったことも、輸出全体の足かせとなる形で減少に転じている。その一方、米中摩擦の激化を受けて、生産拠点として同国が注目を集めていることを追い風に、企業部門による設備投資の旺盛さが固定資本投資を押し上げている。また、GSTの実質引き下げや燃料価格の据え置きも追い風にインフレが低位に抑えられていることで、個人消費も底堅く推移するなど、幅広く内需に堅調な動きがみられる。その一方、例年においては、年度末のタイミングで公共投資の進捗が促される傾向があるものの、政府消費が減少するなど、公的需要は力強さを欠いた。なお、民間需要を中心とする内需の堅調さがうかがえるにもかかわらず、輸入は輸出を上回るペースで減少したと試算され、前期比年率ベースで成長率の押し上げ要因となるなど不自然な動きがみられる。
また、同国ではGDP算出の元になる基礎統計が整備途上にある。したがって、供給サイドの統計であるGVA(総付加価値)が長らく重視され、景気実態を測るうえでは実質GVA成長率の動きをあわせてみる必要がある。1-3月の実質GVA成長率は前年同期比+7.9%と、前期(同+8.0(改定値))から伸びが鈍化しているものの、GDP同様に高い伸びとなった。なお、当研究所が試算した季節調整値に基づく前期比年率ベースの成長率は6%台半ばと試算されるなど、比較的堅調な推移をみせている(図3)。

分野ごとの動きをみると、設備投資の旺盛さを反映して建設業の生産が大幅に拡大したほか、内需の堅調さが幅広くサービス業の生産を下支えする動きもみられる。さらに、石炭需要の高まりを反映して鉱業部門の生産が押し上げられたほか、農林漁業の生産が堅調な推移をみせたことも、景気拡大の動きを促している。その一方、外需の不透明感が足かせとなる形で製造業の生産は下振れするなど、分野ごとのばらつきが鮮明になっている。
この結果、2025-26年度の経済成長率は+7.7%と前年(+7.1%)から加速して4年ぶりの高い伸びとなった。近年の高成長を追い風にインドの経済規模は着実に拡大しており、2022年にはGDP(米ドルベース)は旧宗主国であるイギリスを追い越して世界5位となった。さらに、世界4位の日本を早晩追い越すとの見方が強まっていたものの、前述のようにルピー安が進行して米ドルベースのGDPに下押し圧力がかかり、2025年はイギリスに抜かされ世界6位となった(図4)。足元ではルピー相場が一段と調整しており、2026年のGDPも日本とイギリスの後塵を拝する可能性は高いと見込まれる。

【先行きはインフレ加速の懸念、「ゴキブリ」の動きにも要注意】
先行きの同国経済を巡っては不透明要因が山積している。中東情勢の緊迫化を受けた原油高などが影響して、モディ政権による一連の政策支援の対象外となっている川上の卸売物価は足元で急進している。したがって、先行きは物価上昇の動きが消費者段階に波及する可能性がある。その一方、前述したようにモディ政権はガソリンや軽油の価格引き上げを回避したほか、GSTの実質引き下げ効果も重なり、直近4月のインフレ率は前年比+3.48%とインド準備銀行(RBI)が定める目標(4±2%)のレンジ内で推移している(図5)。こうしたことから、RBIは6月3~5日の日程で開催した定例会合で政策金利の据え置きを3会合連続で決定している(注2)。

RBIがこうした判断を下した背景には、前々任のラジャン氏、前任のパテル氏と2代連続で独立性を巡る問題を理由に総裁が事実上の退任に追い込まれ、政府との関係を重視して景気下支えに一定の配慮を示さざるを得ない状況となったことがある。前任のダス氏の下でRBIは物価安定と景気下支えのバランスを重視する対応をみせてきたほか、2024年12月に就任したマルホトラ氏もダス氏と同様の政策スタンスを維持してきた。中東情勢の緊迫化が長期化するなかで景気の不透明感が高まっており、RBIとしては景気下支えをこれまで以上に強く意識した判断を示したと考えられる。先行き物価上昇が見込まれるなかでRBIが景気をより重視した対応を示したことは、ルピー相場の調整圧力が一段と増幅され、インフレ圧力を高めるリスクを孕んでいる。
折しも、同国では若年層(いわゆるZ世代)を中心にSNS(交流サイト)上で「ゴキブリ党(CJP)」と称する動きが注目を集めている(注3)。同サイトは米国在住のディプケ氏が創設し、フォロワー数はモディ政権を支えるインド人民党(BJP)を大きく上回るとともに、その大部分がインド国内であるとされるなど、政治的なうねりをもたらすかが注視されている。ディプケ氏は6日、首都ニューデリーで街頭抗議活動を主導し、若年層の間で注目されている医学部の入試問題漏洩を巡ってプラダン教育相の辞任を要求するなどの活動を行った。燃料価格の引き上げなど国民生活への悪影響が避けられないなか、こうした動きが新たな政治運動に発展していく可能性もあり、モディ政権にとって正念場となることも考えられる。
注1 3月2日付レポート「インド、統計改定の影響に要注意も、堅調な景気拡大を確認」
注2 6月5日付レポート「インド準備銀は「トリプル安」に直面するも様子見姿勢を維持」
注3 5月26日付レポート「インド政府、「Z世代」の支持を集めるSNSへの警戒を強める」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

