インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀、ルピア安定を目的にサプライズ利上げ

~短期的にはルピア下支えに期待も、追加利上げを迫られる可能性は高い~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア中銀は6月9日の週次理事会で、政策金利を25bp引き上げ5.50%とした。同国金融市場ではルピア、株式、国債が売られる「トリプル安」が続き、中銀は5月の月例理事会で50bpの大幅利上げを実施したが、その後も市場の動揺は収まらない展開が続いた。

  • インドネシア議会が可決した金融部門発展強化法の改正により、中銀の使命に「経済成長と雇用創出の支援」が追加されたほか、議会が中銀・金融サービス庁に拘束力ある勧告権限を持つこととなった。理事会メンバーの解任規定も新設されるなど、市場では中銀への政治介入リスクが意識され、ルピア安がさらに加速した。

  • 中銀は今回の利上げについて、中東情勢緊迫化に伴う市場混乱によるルピアへの影響抑制、インフレの目標レンジ内維持、海外資金流入の促進が目的と説明した。さらに、中銀短期証券(SRBI)金利の引き上げ、外国人投資家向けヘッジスワップレートの引き下げ、レポ入札の再開、為替介入を含む調節オペの強化など複数の市場安定化措置を打ち出した。

  • 今回のサプライズ利上げは短期的なルピア下支えに寄与しうるものの、プラボウォ政権の拡張的財政運営による財政持続性への懸念、中銀のガバナンスの問題、中東情勢の物価・実体経済への波及、銀行セクターの流動性ひっ迫、資金流出による金融システムの脆弱性など、課題は多岐にわたる。中銀は利上げ継続を迫られる可能性が高い一方、その効果を相殺しかねないリスクも多く、経済のファンダメンタルズが一段と損なわれるリスクは高まっている。

インドネシア銀行(中銀)は、6月9日に開催した週次理事会において、政策金利である7日物リバースレポ金利を25bp引き上げ、5.50%とすることを決定した。このところの同国金融市場では、通貨ルピア、主要株価指数(ジャカルタ総合指数)、長期国債のすべてに下落圧力がかかる「トリプル安」に直面している。こうしたなか、同行は5月の定例会合(月例理事会)において、ルピア相場の安定を目的に、50bpの大幅利上げを決定するなど金融引き締めに舵を切った(注1)。しかし、その後も同国金融市場ではトリプル安の動きが止まらない展開が続いてきた。

インドネシア議会は4日、金融システムの監督・規制を規定する金融部門発展強化法(P2SK法)の改正案を可決した(注2)。改正では、中銀が担う使命に「経済成長と雇用創出の支援」が加えられたほか、独立した金融規制当局(金融サービス庁(OJK))や中銀に対して、議会が拘束力のある勧告権限を付与する内容が盛り込まれた。そのうえ、中銀の理事会メンバーを解任するための新たな仕組みも盛り込まれたとされる。このため、金融市場では中銀に対する政治介入がこれまで以上に容易になることが警戒された。その結果、ルピア相場は最安値を更新するなど、中銀による大幅利上げの効果を打ち消すとともに、底がみえない状況に陥った(図1)。

図表
図表

こうしたなか、中銀はルピア相場の安定を目的とする予想外の利上げに踏み切った。声明文では、今回の利上げの目的について「中東情勢の緊迫化を受けたグローバル市場の混乱によるルピア相場への影響を抑制するための措置」のほか、「2026年と2027年のインフレを目標レンジ内に維持するための予防的措置」、「海外資金の流入促進に向けた投資利回りの向上」とした。今回の決定について「グローバル市場の混乱や国内外での外貨需要の高まりを反映して資金流出圧力が強まり、5月の月例理事会時点で想定されたルピア相場を大きく下回る水準に下振れた」ため、「ルピア相場の安定に向けた追加措置を講じることが必要と判断した」と説明した。

そして、①中銀短期証券(SRBI)の金利引き上げによる資金流入促進、②外国人投資家向けヘッジスワップレートの10%引き下げによる投資インセンティブの付与、③流動性拡大を目的とするレポ入札(3、6、9、12ヵ月)の再開、④ルピア相場の安定に向けた調節オペ(SRBI入札の強化、スポット市場および国内外のノンデリバラブルフォワード市場での為替介入)の強化、を行う方針を示した。そのうえで、財政当局との政策協調を一段と強化するとともに、マクロ経済の安定維持と経済成長の促進に向けて、政府と一体となって継続的に対応する方針を明らかにした。

中銀によるサプライズでの利上げ決定は、短期的には調整が続いてきたルピア相場を下支えする可能性がある。しかし、プラボウォ政権による拡張的な財政運営による持続可能性の低下懸念、中銀のガバナンスの問題、中東情勢を巡る物価や実体経済への影響、銀行セクターにおける流動性ひっ迫懸念、資金流出による金融システムの脆弱性などの課題は山積している。したがって、中銀はルピア相場の安定に向けて利上げ継続を迫られる可能性が高い一方、その効果を相殺されかねず、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が一段と損なわれるリスクは高まっている。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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