インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

豪中銀、政策効果見極めへ利上げ休止継続も、再々利上げは不可避か

~家賃、賃金などインフレの粘着度の高さ、中国の景気テコ入れ策も物価の行方を左右する可能性~

西濵 徹

要旨
  • 豪州経済はコロナ禍からの回復が続く一方、物価高と金利高の共存状態の長期化が景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっている。昨年末以降のインフレ鈍化を受けて、中銀は4月に一旦利上げ局面の休止に動いたが、不動産市況は上昇に転じている上、堅調な雇用環境を追い風とする賃金インフレもくすぶるなか、5月、6月と2会合連続で再利上げに動いた。しかし、足下の景気は頭打ちしている上、商品市況の調整に伴う交易条件の悪化など景気の足を引っ張る材料も散見するなか、7月には再び利上げ局面を休止させた。
  • 足下のインフレ率は一段と鈍化する一方、サービスや家賃、賃金などでインフレ圧力がくすぶるなど、インフレの粘着度の高さが懸念される状況が続く。こうしたなか、中銀は1日の定例会合で利上げの効果と景気動向を見定めるべく2会合連続の金利据え置きを決定した。しかし、先行きの政策運営について「さらに幾分引き締める必要性があるかもしれない」と再々利上げに含みを持たせた。中国が景気下支えに舵を切ることは景気の追い風となる一方、さらなるインフレ圧力を招く可能性もあり、政策運営を難しくするであろう。一方、実質金利はマイナス圏に留まるなど投資妙味が乏しいなかで豪ドル相場は動意の乏しい展開が続いており、当面は外部環境の動向に左右されやすい展開が続くことは避けられないと予想される。

豪州経済を巡っては、コロナ禍からの景気回復が続く一方、商品高に伴う生活必需品を中心とする物価上昇、国際金融市場での米ドル高に伴う通貨豪ドル安を受けた輸入インフレ、雇用回復を追い風とする賃金インフレも重なり、インフレ率は中銀(豪州準備銀行)の定めるインフレ目標を大きく上回る水準に加速した。また、中銀はコロナ禍対応を目的に異例の金融緩和に舵を切るとともに緩和環境の長期化を明言し、その後の景気回復やコロナ禍を経た生活様式の変化も重なり不動産需要が拡大して市況は急騰するなど、バブルが顕在化する事態を招いた。よって、中銀は昨年5月に一転して利上げに舵を切り、その後も物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げを余儀なくされるなど、急進的な金融引き締めに追い込まれた。しかし、その後もインフレ率は一段と加速して物価高と金利高が共存して景気に冷や水を浴びせる懸念が高まり、急進的な利上げを受けて不動産市況は昨年4月を境に調整に転じる事態を招いた。同国は家計債務残高がGDP比で111.8%(昨年末時点)と一時に比べて頭打ちしているものの、諸外国と比較して突出した水準にある上、その大宗を住宅ローンが占めており、不動産市況の低迷は逆資産効果を通じた家計消費の足かせとなりやすい傾向がある。さらに、同国の銀行セクターは与信の約3分の2を住宅ローンが占めており、不動産市況の低迷は銀行セクターの貸出態度を通じて幅広く景気動向に影響するとともに、金融リスクにも繋がりやすい特徴がある。こうしたなか、年明け以降は商品高の一服や米ドル高の一巡によりインフレ圧力の後退が進むと期待されたほか、インフレ率も頭打ちに転じたことで中銀は今年4月、1年に及んだ利上げ局面の休止に舵を切った(注1)。しかし、その後も堅調な雇用環境を追い風とする賃金インフレが続いているほか、調整局面に見舞われた不動産市況は利上げによる供給減が進む一方、国境再開に伴う需要底入れを受けて今年3月に上昇に転じるなど新たなインフレ要因となる懸念が高まっている。よって、中銀は翌5月に一転して再利上げに踏み切るなど早くも戦略転換を迫られた(注2)。さらに、その後も不動産市況は底入れの動きを強めているほか、労使裁定機関であるFWC(フェア・ワーク・コミッション)が7月から始まる新年度の最低賃金を5.75%引き上げる決定を行うなど、賃金インフレの加速を促す動きも広がった。こうした動きを受けて中銀は翌6月にも2回連続の利上げ実施を決定したものの(注3)、足下の景気は頭打ちの様相を強める動きが確認されているほか(注4)、商品市況が頭打ちの動きを強めていることを反映して交易条件指数は大きく下振れしており、この動きに伴う国民所得の減少は景気の足を引っ張ることが懸念される。また、商品市況が一段と調整の動きを強めていることを受けて、その後のインフレ率は一段と鈍化しており、中銀は先月の定例会合で3会合ぶりに政策金利を据え置く利上げの再休止を決定したものの、先行きについては再々利上げに含みを持たせるなど難しい対応を迫られてきた(注5)。

図 1 家計部門における信用残高の推移
図 1 家計部門における信用残高の推移

図 2 雇用環境の推移
図 2 雇用環境の推移

なお、先月末に公表された4-6月のインフレ率は前年比+6.0%、刈り込み平均値ベースのコアインフレ率も同+5.9%とともに依然として中銀の定めるインフレ目標(2~3%)を上回る推移が続いているものの、インフレ率、コアインフレ率ともに頭打ちの動きを強めている様子がうかがえる。6月単月ベースでもインフレ率は前年比+5.4%と頭打ちの動きを強めているものの、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は同+6.2%と高止まりするとともにインフレ率を上回る伸びが続いており、インフレの収束が進んでいると判断するのは些か早計と捉えられる状況にある(注6)。さらに、上述のように7月から始まる新年度は最低賃金が大幅に引き上げられるなか、足下の雇用環境が依然として堅調に推移するなかで賃金インフレ圧力が一段と強まる可能性もくすぶる。こうしたなか、中銀は1日に開催した定例会合において2会合連続で政策金利(オフィシャル・キャッシュ・レート)を4.10%に据え置くなど、利上げ休止を維持している。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「昨年来の利上げによる影響と経済見通しを評価するため」とした前回会合の内容を踏襲しつつ、足下の物価動向に関して「低下しているがサービスや住宅関連を中心に依然として高過ぎる」とした上で「メインシナリオではインフレ率は来年末に+3.25%、再来年終盤に+2~3%の目標域に戻る」との見通しを示している。一方、同国経済について「家計消費や住宅投資の弱さが重石となり、しばらくは潜在成長率を下回る推移が続く」とした上で、「メインシナリオでは来年の経済成長率は+1.75%前後、再来年は+2%強になる」との見通しを示している。労働市場についても「幾分緩和しているが依然として非常にタイトな状況が続いている」とした上で、「労働需給のひっ迫状態とインフレを受けて賃金の伸びは上振れしている」との認識を示している。その上で、政策運営について「妥当な期間のうちにインフレ率を目標域に回帰させることが優先事項である」とした上で、「高いインフレ期待が定着すればインフレ抑制に向けて一段の金利上昇や失業率の上昇を招くなど非常に高いコストを払う必要がある」としつつ、「現時点では中期的なインフレ期待はインフレ目標と整合的であり、この状態を維持することが重要」との考えを示した。ただし、「海外では驚くほどにサービスインフレが持続しており、同様の事態が豪州でも起こる可能性がある」とした上で、「金融政策の遅れや価格決定メカニズムや賃金などを巡る不確実性は高い」との見方も示している。そして、「妥当な期間のうちにインフレ率を確実に目標域に回帰させるには金融政策をさらに幾分引き締める必要がある可能性がある」と追加利上げに含みを持たせる一方、「その行方はデータとリスク次第」とした上で「世界経済の動向、家計消費の動向、物価と労働市場の見通しを注視する」としつつ、「インフレを目標に戻す断固とした決意は変わらず、その実現に向けて必要なことを行う」と前回会合と同じ姿勢を改めて強調した。なお、中銀がインフレ抑制を巡って難しい対応を迫られている背景には、金融政策運営に対して国民の間で反発が強まっており、政界からも同様の批判が強まるなか、来月に任期満了を迎える現職のロウ総裁が事実上更迭される事態に発展したことも影響している(注7)。後任総裁となるブロック氏はロウ氏同様に同行の生え抜きであり、政策運営の方向性が大きく変化するとは見通しにくいものの、家賃や賃金など粘着性の高いインフレ圧力がくすぶるなかでは次期総裁の下でも難しい政策対応を迫られる状況は変わらないと予想される。さらに、足下では中国が景気下支えに舵を切る動きをみせており、この動きは財のみならず、外国人観光客の面でも中国への依存度が高い同国経済にとっては追い風となり得る一方、インフレ圧力を一段と高める可能性も考えられる。なお、足下の豪ドル相場は米FRB(連邦準備制度理事会)による政策運営に対する見方に左右される展開が続いており、同国においては他の新興国や資源国と異なり実質金利(政策金利-インフレ率)が依然マイナス圏で推移するなど投資妙味が相対的に低い状況にあることも影響していると考えられる。その意味では、当面の豪ドル相場は動意の乏しい展開が続くことは避けられず、結果的に日本円に対しても外部環境に左右される展開が続くと予想される。

図 3 インフレ率(月次ベース)の推移
図 3 インフレ率(月次ベース)の推移

図 4 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移
図 4 豪ドル相場(対米ドル、日本円)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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