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2023.07.26
アジア経済
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豪州、インフレ率は鈍化もコアインフレ率は高止まり、今後は賃金インフレに懸念
~中銀は再々利上げに含みを持たせざるを得ず、豪ドル相場は動意の乏しい展開が続く可能性~
西濵 徹
- 要旨
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- 豪州経済はコロナ禍からの回復が続く一方、ここ数年は商品高や豪ドル安、賃金インフレも重なりインフレが昂進してきた。不動産バブルも重なり、中銀は昨年以降断続、且つ大幅利上げを余儀なくされた。年明け直後のインフレ鈍化を受け、中銀は利上げ局面を一旦休止させたが、不動産市況の底入れや賃金インフレを警戒して中銀は再利上げを余儀なくされた。他方、足下の景気は頭打ちしている上、インフレ鈍化を理由に中銀は利上げ局面を再休止させており、中銀の政策運営への批判が高まるなかで難しい対応が続く。6月のインフレ率は一段と鈍化する一方、コアインフレ率は高止まりするなか、今月からの最低賃金大幅引き上げがインフレ昂進を招く可能性はくすぶり、中銀は再々利上げを意識せざるを得ないと予想される。ただし、豪ドル相場は米FRBの動きなど外部要因に左右されることは避けられず、当面は動意の乏しい展開が続くと見込まれるほか、日本円に対しても同様の動きが続いていくものと予想される。
豪州経済を巡っては、コロナ禍からの景気回復の動きが続く一方、商品高に伴う生活必需品を中心とする物価上昇、国際金融市場における米ドル高を受けた通貨豪ドル安による輸入インフレ、雇用改善による賃金インフレも重なり、インフレ率は中銀(豪州準備銀行)の定めるインフレ目標を大きく上回る水準に加速した。また、中銀はコロナ禍対応を目的に異例の金融緩和に舵を切る対応をみせたほか、金融緩和環境の長期化を明言する姿勢をみせたため、その後の景気回復やコロナ禍を経た生活様式の変化も重なり不動産需要が拡大して市況は急騰するなど、バブルが顕在化する事態となった。よって、中銀は昨年5月に一転して利上げに舵を切るとともに、その後も物価と為替の安定を目的に断続、且つ大幅利上げに動くなど、一転して急進的な金融引き締めに追い込まれた。一方、その後もインフレ率は加速して物価高と金利高の共存により景気に冷や水を浴びせる懸念が高まるとともに、急進的な利上げを受けて不動産市況は昨年4月を境に調整に転じており、家計債務がGDP比で111.8%(昨年末時点)と突出している上、その大宗を住宅ローンが占めるなかで逆資産効果が家計消費の足かせとなる懸念も高まっている。こうしたなか、年明け以降は商品高の一巡や米ドル高の一服を受けてインフレ圧力の後退に繋がることが期待され、インフレ率も頭打ちに転じたことを受けて中銀は今年4月に1年に及んだ利上げ局面の休止に動いた(注1)。しかし、その後も堅調な雇用を追い風に賃金インフレ圧力がくすぶるほか、調整が続いた不動産市況は利上げに伴う供給減の一方で国境再開による需要底入れが進んで今年3月に上昇に転じるなど、新たなインフレ要因となる懸念が高まっている。したがって、中銀は5月に再利上げに舵を切るとともに(注2)、その後も不動産市況の底入れが進むとともに、労使裁定機関であるFWC(フェア・ワーク・コミッション)が新年度の最低賃金を5.75%引き上げるなど賃金インフレが加速する懸念も高まるなか、6月にも2回連続の利上げ実施に動いている(注3)。その一方、足下の景気は底入れの動きが続くも頭打ちの様相を強めているほか(注4)、世界経済の減速懸念の高まりを受けた商品市況の調整により交易条件指数は大幅に下振れするなど景気の足を引っ張る懸念が高まっている。さらに、インフレ率が鈍化していることも重なり、中銀は今月の定例会合において3会合ぶりに利上げ局面を再び休止する決定を行う一方、先行きの政策運営を巡って再々利上げに動く可能性に含みを持たせるなど難しい対応が続いている(注5)。このように中銀が難しい政策対応を迫られている背景には、一昨年来のインフレ昂進を受けて政策運営に対する国民の反発が強まり、政界からも批判が上がるなか、今年9月に任期満了を迎えるロウ総裁が事実上更迭される事態に発展していることも影響している(注6)。こうしたなか、6月のインフレ率は前年同月比+5.4%と引き続きインフレ目標を上回る推移が続くも、前月(同+5.5%)から一段と鈍化して1年強ぶりの伸びとなるなど、インフレ圧力が後退している様子がうかがえる。ただし、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+6.2%と前月(同+6.2%)と同じ伸びで推移しており、インフレの鎮静化にはほど遠い状況にあると捉えられる。そして、足下の景気は頭打ちの様相を強めているものの、雇用を取り巻く環境は依然として底入れの動きが続くなど堅調な推移をみせているほか、上述のように今月から最低賃金が大幅に引き上げられるなど賃金インフレ圧力が強まることも予想される。なお、上述のようにインフレ率が鈍化していることを受けて、国際金融市場においては中銀が再利上げに動く可能性の後退が意識されると見込まれ、当面は豪ドル相場の上値が抑えられると予想される。一方、コアインフレ率が高止まりしていることに加え、先行きは最低賃金の大幅引き上げに伴う賃金インフレ圧力が強まるなどインフレの粘着度が高まることも予想され、中銀が再々利上げの可能性に含みを持たせざるを得ない展開が続くと見込まれる。豪ドルの対米ドル相場は米FRB(連邦準備制度理事会)による政策運営の見方に左右される展開が続いているが、中銀の再々利上げが意識されるなかで動意の乏しい展開となることは避けられず、当面は日本円に対しても同様の展開となるものと予想される。



注1 4月4日付レポート「豪中銀、過去1年に亘る利上げ局面休止を決定も、再利上げも排除せず」
注2 5月2日付レポート「豪州準備銀、インフレ期待の鎮静化に向けて2会合ぶりの再利上げに舵」
注3 6月6日付レポート「豪準備銀の政策運営を迷わせる最低賃金大幅引き上げ策」
注4 6月7日付レポート「豪州経済はいよいよスタグフレーションに突き進みつつある」
注5 7月4日付レポート「豪中銀は3会合ぶりに利上げ休止決定も、再々利上げに含みをみせる」
注6 7月14日付レポート「豪中銀、ロウ総裁が事実上の更迭、ブロック副総裁が昇格へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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