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トルコ大統領選、エルドアン氏が決選投票を制して幕を下ろす

~リラ相場の行方はみえず、ウクライナ情勢はこう着状態が長期化する可能性も高まっている~

西濵 徹

要旨
  • トルコで28日に実施された大統領選挙の決選投票では現職のエルドアン氏が勝利した。エルドアン氏の下で初めて決選投票に持ち込まれるなど苦戦を強いられたが、最終盤にかけて第1回投票で3位に着けたオアン氏の支持を取り付けたほか、大国民議会総選挙で与党が多数派となり国民の間で「ねじれ状態」を回避したいとの思惑も影響したと考えられる。エルドアン氏は勝利宣言において国民に団結を呼び掛ける一方、野党を批判するなど保守層を意識する動きをみせる。インフレ対策を喫緊の課題に挙げたが、これまでの政策運営を勘案すれば中銀に一段の利下げを求めるなど、リラ相場の調整に繋がる可能性も予想される。ウクライナ問題では今後も独自の立場を強調する動きを強めることが予想される一方、スウェーデンによるNATO加盟のハードルは高いままとなり、こう着状態が長期化する可能性も充分に考えられる。

トルコでは28日、大統領選挙の決選投票が実施された。当局の公表データに基づけば、与党AKP(公正発展党)から出馬した現職のエルドアン大統領が52.16%の票を得る一方、最大野党CHP(共和人民党)など野党6党の統一候補であるクルチダルオール氏(47.84%)を上回り勝利した。この結果を受けて、エルドアン氏は首都アンカラで勝利演説を行った。今月14日に実施された第1回投票ではエルドアン氏が1位となるも、得票率は49.52%と単独で半数を上回る票を得ることは出来ず、次点のクルチダルオール氏(得票率44.88%)との決選投票に持ち込まれた(注 )。エルドアン氏は2014年、2018年と過去2回の大統領選をいずれも第1回投票で半数を上回る票を獲得して制したものの、今回初めて決選投票に持ち込まれるなど苦戦を強いられた。この背景には、過去の大統領選では野党がそれぞれ候補を擁立して事実上の『潰し合い』の状態となる一方、今回は主要野党がクルチダルオール氏を統一候補としたほか、クルド人系政党も独自候補の擁立を見送ることでクルチダルオール氏を支持し、事実上の一騎打ち状態となったことも影響している。さらに、ここ数年はインフレが続くなかでも『金利の敵』を自任するエルドアン氏の下で中銀は利下げ実施を余儀なくされるなど経済学の定石では考えられない政策運営を展開して市場からの信認を失った結果、通貨リラ相場は調整の動きを強めるなど輸入インフレが進行するとともに、昨年来の商品高も重なりインフレが大きく昂進して国民生活に深刻な悪影響が出たことも重なった。第1回投票を前に実施された世論調査では、いずれもエルドアン氏とクルチダルオール氏の接戦を予想するものとなった。しかし、蓋を開ければ第1回投票の投票率は87.04%と前回大統領選(86.24%)を上回るも、両者の票差は254万票弱と事前予想を大きく上回った。この背景には、世論調査は野党の支持が比較的厚い都市部の影響を受けやすかった点に留意する必要がある。事実、エルドアン氏は保守層の多い地方部を中心に確実に票を集める手堅い選挙戦を展開するとともに、第1回投票と同時に実施された大国民議会総選挙においても与党AKPを中心とする与党連合(国民連盟)が地方部を中心に議席を積み上げて半数を上回る議席を獲得した。よって、決選投票に向けては第1回投票で3位に着けた民族主義や国家保守主義に基づく反移民政策を掲げるなど『極右』色の強い主張を展開するオアン氏の動向に注目が集まった。なお、オアン氏自身はエルドアン氏を支持する方針を発表する一方(注 )、オアン氏を推したATA同盟に加わる一部の政党はクルチダルオール氏を推す方針を決定するなど、最終盤に向けては両陣営による綱引きが激化する動きもみられた。とはいえ、大国民議会選挙において与党連合が多数派を形成したことで、決選投票に向けては大統領と議会の『ねじれ状態』が発生することに伴う政局不安を回避したいとの思惑が実質的にエルドアン氏を後押しすることも予想された。決選投票でエルドアン氏は第1回投票に対して59万票余りを積み増す一方、クルチダルオール氏は84万票弱を積み増すなど善戦したものの、決選投票の投票率は83.87%と第1回投票を下回るなど『棄権』が増大するとともに、両者の得票差は229万票となった。クルチダルオール氏は事前予想と比較して善戦したと捉えられるが、野党統一候補の選定段階では国民の間で知名度が高いイスタンブール市長のイマモール氏(51歳)やアンカラ市長のヤワシュ氏(68歳)を推す声もみられ、野党の足並みが揃わない事態となる懸念も高まった(注 )。この背景には、クルチダルオール氏は74歳と高齢であり、過去20年に亘って政権を維持してきたエルドアン氏(69歳)を批判する対抗馬として迫力、説得力ともに欠くことが懸念されたことも影響している。また、イマモール氏が務めるイスタンブール市長はかつてエルドアン氏が同職をきっかけに、その後AKP党首、首相、大統領と中央政界を駆け上がるなど、仮にイマモール氏が出馬すればエルドアン氏への攻勢を強める『ストーリー』にも繋がるとの期待が高まったこともある。ただし、政権は昨年末以降にイマモール氏に対して様々な形で『嫌がらせ』を活発化させるなど、野党によるそうした流れを摘む動きをみせてきた(注 )。その意味では、エルドアン氏にとっては厳しい選挙戦のなかでも『最善手』を打つ布石を打ってきたと捉えることが出来る。エルドアン氏は勝利演説において「今日の勝利はトルコの民主主義である」と述べるとともに、国民に対して「すべての対立を忘れて国家の目標と夢に向けて団結すべき時だ」と呼び掛ける動きをみせた。その一方、野党を念頭にテロ組織が負けて全国民が勝利したと述べたほか、性的少数者に寄り過ぎているなどと批判しており、支持層である宗教保守層を意識した政策運営が行われる可能性が高い。その上で、政権3期目が直面する喫緊の課題にインフレを挙げる一方、「解決は難しくない」とした上で「金利の低下のようにインフレも低下する」、「安定と信頼に基づく力強い経済を作る」などと述べている。その上で、「今後は追加で100万人ものシリア難民の帰還を確実に実施する」と述べるなど、決選投票に向けて支援を要請したオアン氏が主張する反移民政策にも配慮する姿勢をみせた。今後の政策運営を巡っては、物価対策を目的にエルドアン氏が再び中銀に利下げ実施を要求する可能性が高まっていることを勘案すれば、リラ相場については一段と調整の動きを強めることが予想される(注 )。また、エルドアン氏はウクライナ問題を巡ってロシアとウクライナの間に立って調整する動きをみせてきたものの、今後もそうした役割を目指す動きを活発化させることが予想される。さらに、エルドアン氏が決選投票に向けて支援要請を行ったオアン氏は元々『ロシア専門家』としての顔を持つこと、次期政権で処遇を受ける可能性を勘案すれば、外交政策面ではロシア寄りの姿勢を強めることも考えられる。同国は北欧のスウェーデンによるNATO(北大西洋条約機構)加盟申請を巡って、クルド系反体制組織と関わりがある約120人の引き渡しを交換条件として要求するなど難色を示しているが、今後もそうした対応を維持する可能性は高いと予想される。その意味では、今回のトルコの選挙がウクライナ情勢に決定的な影響を与える可能性は低いものの、現状のこう着状態が長期化することは充分に考えられると言える。

図 1 リラ相場(対ドル)の推移
図 1 リラ相場(対ドル)の推移

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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