インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

来年の大統領選を前に「司法の政治化」が顕在化するトルコ

~欧米などとの関係悪化も懸念されるなど、地域情勢の行方に影響を与える可能性も~

西濵 徹

要旨
  • トルコでは来年6月に大統領選と総選挙が予定されるなど政治の季節が近付いている。他方、足下の景気に不透明感が高まるなか、政権及び与党は政権維持に向けてなりふり構わぬ動きをみせている。こうしたなか、次期大統領選での有力な野党対立候補とされるイスタンブール市長のイマモール氏に対して、14日に裁判所は公務員侮辱罪を理由に禁錮2年7ヶ月とする判決を下した。判決確定には上級審の支持が必要だが、野党支持者は政敵排除を目的とする政府の司法介入を批判し、欧米なども批判している。トルコは北欧2ヶ国のNATO加盟でキャスティングボートを握る一方、クルド人武装組織への攻撃を激化させるなど地域情勢を揺さぶる動きもみられる。ウクライナ情勢など地域情勢に与える影響にも注意が必要になっている。

トルコにおいては、来年6月に次期大統領選挙、並びに大国民議会総選挙の実施が予定されるなど『政治の季節』が近付いている。しかし、足下の景気はインフレが大きく上振れするなかで家計部門の実質購買力に下押し圧力が掛かっていることに加え、輸出の半分を占めるEU(欧州連合)など海外経済の減速懸念の高まりによる外需低迷も重なり、頭打ちの動きを強めることが懸念されている(注1)。こうした事情も影響して、足下のインフレ率は中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る水準で加速が続いているにも拘らず、中銀は『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の圧力を受ける形で8月以降4会合連続での利下げ実施を決定するなど、景気下支えを目的に経済学の定石では考えられない政策運営を続けている(注2)。なお、直近11月のインフレ率は前年比+84.4%と前月(同+85.5%)からわずかに伸びが鈍化するなど頭打ちの兆しがうかがえるものの、前月比は+2.9%と前月(同+3.5%)からペースこそ鈍化するも上昇が続いている上、こうした状況にも拘らず中銀が断続利下げに動いていることを受けて、国際金融市場においては米ドル高に一服感が出ているもののリラ相場はじり安の展開が続くなど輸入インフレを招きやすい状況にある。このようにエルドアン政権、及び与党AKP(公正発展党)にとって大統領選、及び総選挙に向けて厳しい状況に直面するなか、同国にとって国内外で新たな火種となる動きが顕在化している。次期大統領選を巡っては、現職のエルドアン氏が再選を目指す動きをみせる一方、最大野党のCHP(共和人民党)所属で最大都市イスタンブールの市長を務めるイマモール氏が有力な野党対立候補と目されており、その去就に注目が集まっている。イスタンブール市長はかつてエルドアン氏が務めたほか、その後にAKP党首、首相、大統領と中央政界の階段を駆け上がるきっかけとなったポストである上、2019年の統一地方選において、イマモール氏が僅差で勝利してCHPの候補として四半世紀ぶりに奪還を果たすなど野党による攻勢の象徴的なポストとされた(注3)。なお、その後に与党AKPが異議申し立てを行ったことで選挙はやり直しとなったものの、出直し選挙においてイマモール氏は与党AKPの候補を大きく引き離す形で勝利を収める一方(注4)、当選後に行った演説において選挙管理委員を侮辱する発言を行ったとして公務員侮辱罪に問われていた。こうしたなか、14日に裁判所はイマモール氏に対して公務員侮辱罪を理由に禁錮2年7ヶ月の判決を下すとともに、政治活動を禁止するとの命令を下した。判決が確定すればイマモール氏は公務を継続することが不可能となる一方、判決自体には上級審による支持が必要とされる上、イマモール氏の周辺は今回の判決に対して控訴する意向を示しているとされるなど、最終的な判断は来年6月の大統領選の後に持ち越される可能性は高い。他方、今回の裁判所の判断を巡って野党支持者などは政敵の排除を目論むエルドアン政権、及び与党AKPの意向が働いたとの批判を強めており、欧米諸国なども『司法の政治化』を批判する動きをみせている。トルコはNATO(北大西洋条約機構)加盟国として北欧のフィンランドとスウェーデンのNATO加盟申請を巡る『キャスティングボート』を握る一方(注5)、先月にイスタンブールで発生した爆発事故を巡って次期総選挙を意識して隣国シリア北部などでクルド人武装組織に対する攻撃を展開しており、その動きは地域情勢や外交関係を揺さぶっている。今回の判決を受けて欧米などとの関係が再び悪化するリスクもあり、トルコの動きはウクライナ情勢を含めた地域情勢に影響を与えることは避けられそうにない。

図表1
図表1

図表2
図表2

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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