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2023.03.14
アジア経済
アジア金融政策
トルコ経済
トルコ、選挙戦の火ぶたが切られるなかで選挙情勢に変化の兆し
~野党共闘で猛追も、結果の如何に関わらず早期の復興に加えて市場との対話も求められる~
西濵 徹
- 要旨
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- トルコでは、10日にエルドアン大統領が大統領選と総選挙を5月14日に実施することを決定して選挙戦の火ぶたが切られた。先月の大地震は甚大な被害をもたらすなか、地震対応を巡って政権への批判が高まる動きがみられる。他方、野党連合は再選を目指すエルドアン氏の対抗馬選びでドタバタしたが、最終的に最大野党CHPのクルチダルオール党首を大統領選の統一候補に決定した。野党のドタバタはエルドアン氏や与党AKPの追い風となったが、足下の世論調査では野党の支持率が与党を上回る動きもみられる。足下のインフレ率は依然高止まりし、リラ安もインフレ懸念を招くなかで被災地を巡る状況は厳しさを増している。選挙結果如何に関わらず、政府には早期の復興に加えて市場との対話など各所への配慮が必要になろう。
トルコのエルドアン大統領は10日、大統領選挙と総選挙(大国民議会選挙)を5月14日に実施することを正式に決定したことで選挙戦に向けた火ぶたが切られた。先月に同国南東部のシリア国境付近で発生した大地震を巡っては、トルコとシリアで併せて5.4万人を上回る死者が発生するとともに、UNDP(国連開発計画)は今月初めにトルコ国内だけで1000億ドル(GDP比13.6%)を上回る被害額が発生したとの見方を示すなど、深刻な被害が発生したことが明らかになっている。エルドアン政権は過去において、地震や山火事をはじめとする自然災害への危機対応をきっかけに政権支持率を高める動きがみられたものの、今回の大地震では初動対応の遅れや建築基準の不備などが被害を大きくする一因になったとの見方が出ている。こうした見方を反映してSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)上などでは政権批判が高まる動きもみられ、一部報道によると昨年可決された偽ニュース(フェイク・ニュース)規制法に基づいて政府がSNSへのアクセス制限に動いたほか、多数の逮捕者が出ている模様である。他方、中銀は大地震からの復興支援を目的に先月の定例会合において3会合ぶりに政策金利を50bp引き下げて8.50%とする決定を行うなど(注1)、『金利の敵』を自任するエルドアン大統領の意に沿う形で側面支援を図る動きをみせている。エルドアン政権にとっては復興に向けて早期に道筋を付けられるか否かが選挙戦の動向を左右すると見込まれるものの、被災地域も広範に亘るなかで依然として多数の被災者が支援を受けられない状況が続くなど、地震から1ヶ月以上が経過するなかでも見通しが立っていない。こうしたなか、大統領選・総選挙での政権奪還を目指す野党6党が連立を組む形で大統領選の統一候補に最大野党CHP(共和人民党)のクルチダルオール党首を擁立することを公表した。野党統一候補を巡っては、事前にはCHP所属でエルドアン氏の最大のライバルと見做された最大都市イスタンブール市のイマモール市長や首都アンカラ市のヤワシュ市長を推す声もあり、第2野党のIYI(優良党)がクルチダルオール氏の支援を拒否するなど野党分裂に陥ることが懸念された。しかし、イマモール氏とヤワシュ氏が相次いでクルチダルオール氏を推す姿勢を示したことでIYIは野党連合に復帰して野党共闘が成立した。クルチダルオール氏は財務官僚出身で2010年にCHP党首に就任するなど党内で影響力を有するも2013年、及び2018年の大統領選には出馬せず、今回も世論調査では知名度の高いイマモール氏やヤワシュ氏の後塵を拝する展開が続いてきたものの、今回初めて大統領選に出馬する格好となった。こうした事情も影響して、先月末にかけた実施された世論調査においては大地震を巡る批判の高まりにも拘らずエルドアン大統領、及び与党AKP(公正発展党)が支持率を概ね維持する結果が示されるなど、野党が充分に批判票を集めきれていない様子がうかがわれた。しかし、最新の世論調査ではクルチダルオール氏の支持率がエルドアン氏を大差で上回るとともに、野党連合の支持率もAKPを中心とする与党連合を上回る結果が示されるなど、選挙情勢は大きく変化しつつある模様である。この背景には、昨年以降に大きく上振れしたインフレ率が年末にかけて鈍化に転じているものの、依然として中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続いているほか、足下では大地震の影響で再びインフレ圧力が強まるなど国民生活への悪影響がくすぶる状況が続いていることがある。さらに、昨年末にかけての国際金融市場においては米ドル高の動きが一巡したことで調整が続いた新興国通貨に一服感が出る動きがみられたものの、同国通貨のリラ相場は一貫して調整の動きが続いてきたほか、足下においては大地震も重石になるとともに、米国における銀行破たんをきっかけにした金融不安への懸念も重なり最安値を更新する展開が続くなど上値が抑えられている。こうした状況は輸入インフレを通じてインフレ率の高止まりを招くことが懸念されるなど、被災地を中心とする国民生活はこれまで以上に厳しい状況に追い込まれることも予想される。政府は仮設住宅の設置を急ぐことにより早期の復興を図る考えをみせているが、選挙結果の如何に関係なく早期に復旧・復興に道筋を付けることが求められることは間違いない。最大でGDP比1割超に上る復興費用が財政に与える影響に留意しつつ、これまで以上に金融市場との対話など各所に配慮した対応が求められることになろう。


注1 2月24日付レポート「トルコ中銀は地震復興支援へ利下げ実施、復興の道筋は政局を左右」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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