インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ペルー、政治混乱は一段と激化して収束が見通せない展開が続く

~カスティジョ氏の罷免は外交、及び司法の政治化といった問題にも波及している~

西濵 徹

要旨
  • 南米ペルーでは、今月7日にカスティジョ前大統領の弾劾が成立するとともに、ボルアルテ氏が大統領に昇格して同国初の女性大統領が誕生した。ただし、カスティジョ氏が反逆容疑を理由に拘束されたことを巡ってメキシコなど中南米の左派国家が反発し、メキシコは関係保留を表明するなど外交問題に発展。さらに、拘束の手続きを巡って国内でも違憲との見解が示されるなど、同国で度々起こる「司法の政治化」の問題に発展している。また、カスティジョ氏の支持者はカスティジョ氏の復権とボルアルテ氏の辞任、早期の議会解散や憲法改正を求めて全土でデモを活発化させ、一部が暴徒化したことで非常事態宣言を発令する事態に発展している。政局混乱を理由とする格下げリスクのほか、世界2位の銅生産国である同国の政治及び経済の混乱長期化は世界的な銅の供給に影響を与えるなど、世界経済のリスク要因となる可能性もある。

南米ペルーでは、今月7日に共和国議会においてペドロ・カスティジョ前大統領に対する弾劾決議が採決され、賛成多数で可決されるとともに、副大統領であったディア・ボルアルテ副大統領を大統領に昇格させることを決定し、同国初の女性大統領が誕生した(注1)。なお、カスティジョ氏は議会による弾劾決議を前に、議会の一時的な閉鎖と解散による臨時政府の樹立を試みたものの、国軍と国家警察などはこれに反発して求心力を失う格好となったほか、憲法の秩序を乱した反逆罪の容疑を理由にカスティジョ氏を拘束する事態となっている。カスティジョ前政権を巡っては昨年、ここ数年中南米において広がりをみせている『左派ドミノ』が同国にも到達する形で誕生したものの(注2)、与党PL(自由ペルー)内のドタバタに加え、右派が多数派を占める議会との対立が激化する形で政策運営が難航する展開が続いてきた。結果、カスティジョ前政権は発足から1年半弱の間に5人の首相を交代させる事態に追い込まれるなど、コロナ禍で経済が疲弊しているにも拘らず充分な政策対応が出来ない状況に直面してきた。こうした状況に加え、カスティジョ氏自身に就任直後から職権濫用や汚職の疑惑が噴出したほか、側近による汚職疑惑も表面化したことで議会に度々弾劾合意が提出される異常事態が続き、今年4月には反政府デモの動きが激化して治安情勢が悪化したことを受けて、政府は外出禁止令を発令する事態に追い込まれた(注3)。カスティジョ氏の罷免を受けて誕生したボルアルテ大統領は、危機回避を目的に政治的休戦を呼び掛けるとともに、新政権樹立に当たってあらゆる政治勢力の結集を目指すなど議会との融和を図る姿勢を示した。他方、拘束されたカスティジョ氏はメキシコへの亡命を要請して協議が行われている模様であるほか、メキシコとボリビア、コロンビア、アルゼンチンという中南米の左派国家が共同でカスティジョ氏の人道及び法的保護を求める声明を出すとともに、メキシコのロペス=オブラドール大統領はペルーとの関係留保を表明するなど外交問題に発展している。また、ペルー国内においても現行憲法で定められた大統領の失職後5年間に亘る不逮捕特権を理由に、カスティジョ氏の拘束を巡って議会が遡及的に不逮捕特権のはく奪を決定した手続きを巡って違憲状態との見解も示されるなど、度々同国で問題となってきた『司法の政治化』が顕在化している。こうした事態を受けて、カスティジョ氏の支持者を中心に各地でカスティジョ氏の復権とボルアルテ大統領の辞任、議会の閉鎖、及び早期の総選挙実施、新憲法の制定などを求める抗議運動を活発化させており、一部が暴徒化する事態となり、政府は14日に全土を対象に30日間の非常事態宣言を発令した。ボルアルテ大統領は2026年に予定される次期大統領選、及び総選挙について、議会に対して2024年4月に前倒しで実施するための法案を提出しているが、さらに2023年12月に前倒しで実施する可能性を示唆するなど政権発足早々から難しい対応を迫られている。こうした政局混乱を受けて、米格付機関のS&Pグローバルは12日に同国に付与しているソブリン格付けの見通しを「安定的」から「ネガティブ」に引き下げるなど、将来的な格下げの可能性を示唆する動きもみられる。通貨ソル相場を巡っては、ペルーが世界2位の銅生産国であることを理由に政局の混乱にも拘らず国際価格の動向に左右される展開が続いて底堅い動きをみせているものの、政治及び経済の混乱が長期化することで対外収支など経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)が悪化するリスクを孕んでいる。供給不安を理由に銅の国際価格が上振れする可能性もあるなど、政局を巡る行方は世界経済のリスク要因となる可能性にも注意が必要である。

図表1
図表1

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ