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2022.12.08
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ペルー・カスティジョ大統領の弾劾決定、ボルアルテ氏が同国初の女性大統領に
~政局混乱の収束に期待も、疲弊した経済の立て直しの道筋は極めて立ちにくい状況に直面~
西濵 徹
- 要旨
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- 南米ペルーでは昨年の大統領選を経て急進左派のカスティジョ政権が発足したが、議会との対立を理由に政局は混乱し、政策運営も空転が続く状況が続いた。政権発足から1年半ほどの間に首相は5人交代する一方、カスティジョ大統領自身の汚職疑惑も噴出しており、物価高と金利高が景気の足かせとなるなかで政権支持率は急落してきた。こうしたなか、議会では3度目となるカスティジョ氏の弾劾手続きが行われ、7日に賛成多数で可決、同時にボルアルテ副大統領が大統領に昇格して同国初の女性大統領に就任した。ボルアルテ氏は議会との融和を目指すなど政局の安定を図る考えをみせる一方、通貨ソル相場は国際銅価格の動向に左右されやすい上、足下では経常赤字が拡大するなど経済のファンダメンタルズは脆弱さを増している。政治混乱が収束しても、経済面で安定が図られるか否かは極めて難しい状況に直面している
南米ペルーでは、昨年実施された大統領選で大接戦の末に急進左派政党のPL(自由ペルー)から出馬したペドロ・カスティジョ氏が勝利し、ここ数年に亘って中南米で広がりをみせている『左派ドミノ』の動きが同国にも及んでいる(注1)。ただし、共和国議会(定数130議席)においてPLをはじめとする与党連合は少数派に留まるとともに、PL内においても穏健派とされるカスティジョ氏と、急進派の党首(ウラジミル・セロン氏)との間で政権運営を巡って主導権争いが表面化する動きがみられた。なお、セロン党首の後ろ盾により政権のスポークスパーソンである首相に就任した急進派のグイド・ベジド氏は舌禍癖を理由に政権運営の空転を招いたため、2ヶ月足らずで事実上の更迭に追い込まれるなど政権発足直後からドタバタ劇が露呈した(注2)。その後は円滑な政権運営を目指して後任首相に中道派のミルタ・バスケス氏を据えるも、国家警察人事を巡る汚職事件の表面化を理由にカスティジョ大統領と対立して4ヶ月ほどで辞任した(注3)。また、カスティジョ氏は後任首相に穏健派(右派)のエクトル・バーレル氏を据えることにより事態収束を目指したものの、就任直後に家庭内暴力問題が露呈して1週間での退任を余儀なくされ、最終的に大統領の側近で穏健派のアニバル・トレス氏を後任首相とするなど内閣改造を行う度に首相をはじめとする閣僚の陣容は右派にシフトする展開が続いた。一方、カスティジョ大統領を巡っては、就任直後から職権濫用や汚職の疑惑のほか、側近による汚職疑惑も噴出しており、昨年12月、今年3月と議会に大統領の弾劾動議が提出される異常事態に見舞われてきた(いずれも否決)。こうした政局の混乱を理由に政策運営は空転状態が続くなか、商品市況の上振れを理由に食料品やエネルギーなど生活必需品を中心とするインフレが顕在化しており、中銀は物価安定を目的に断続的な利上げによる金融引き締めを余儀なくされている。結果、政局混乱を理由に政権支持率は急落している上、物価高と金利高の共存による生活苦を理由に今年4月には反政府デモの動きが激化して治安情勢が悪化し、政府は外出禁止令を発令する事態に追い込まれた(注4)。その後は大規模デモの発生は抑えられているものの、主力産業である銅鉱山で抗議活動が相次ぐとともに、操業停止状態が長期化するなど景気に悪影響が出る動きもみられるなか、頭打ちの兆しがみられたインフレ率は引き続き高止まりして中銀の定めるインフレ目標を大きく上回る推移が続いている。こうした事態を受けて、中銀は7日の定例会合でも17会合連続となる利上げ実施を余儀なくされており、足下の政策金利は7.50%と過去最高を更新する展開が続いている。さらに、その後もカスティジョ大統領を巡っては新たに犯罪捜査が行われるなど政権運営も覚束ない状況が続いており、トレス氏は8月に一旦首相辞任を表明するもカスティジョ氏が慰留したことでこれを取り下げるも、先月末にトレス氏は再度首相の辞任を表明したことでカスティジョ氏もこれを受け入れた。後任首相には文化相であったベッツィ・チャベス氏が就任しているものの、チャベス氏自身も汚職疑惑による捜査対象であるなど政権運営を巡る不透明感が払しょく出来ない状況が続いた。こうしたなか、議会において3度目となるカスティジョ大統領に対する弾劾手続きが開始され、7日に弾劾決議案に対する投票が行われた結果、賛成票が圧倒的多数となる形で可決されるとともに(賛成:101票、反対:6票、棄権:10票)、同時に副大統領であったディア・ボルアルテ氏を大統領に昇格させることを決定し、ボルアルテ氏は同日大統領に就任して同国初の女性大統領となった。なお、カスティジョ氏は自身の罷免に先立つ形で議会の一時的閉鎖に加え、解散と臨時政府の樹立などを発表する動きをみせたものの、国軍と国家警察などはこの動きに反発するとともに、憲法の秩序を乱したことを理由にカスティジョ氏を拘束するなど支持を得られず、結果的に罷免が決定した格好である。ボルアルテ新大統領は就任に先立つ形で危機回避に向けた『政治的休戦』を呼び掛けるとともに、新政権樹立に当たってはあらゆる政治勢力の結集を目指すなど、カスティジョ前政権下で対立状態が続いた議会との融和を図る考えを示している。仮に新政権において政府と議会の融和が図られる動きが前進すれば、空転状態が続いた政策運営の前進が期待されるなど景気に追い風となることが見込まれる。他方、同国は世界2位の銅生産国であることから、政局の混乱にも拘らず通貨ソル相場は銅の国際価格などの動向に左右される展開が続いてきたものの、足下においては世界経済の減速懸念を理由とする国際価格の低迷がソル相場の足かせとなっているほか、対外収支を巡っても財貿易収支の悪化を理由に経常収支は赤字幅が拡大するなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は脆弱さが増す動きがみられる。よって、政局混乱の収束にも拘らず世界経済の減速が意識される展開が続けば、ソル相場の調整が輸入インフレを通じたインフレ圧力に繋がる可能性はくすぶるなど、物価高と金利高の共存が経済、及び政治両面でのリスク要因となる展開が続くことも予想される。その意味では、大統領交代により政治混乱の収束が進むことは期待されるものの、そのことが経済の安定に繋がるか否かは極めて不透明な状況にあると判断出来る。



注1 2021年7月29日付レポート「ペルー左派政権発足で「大きな政権」路線は必至、船出からドタバタも露呈」
注2 2021年10月8日付レポート「ペルー、政治混乱が続くなかで大統領派急進派首相を事実上更迭」
注3 2月3日付レポート「ペルー、半年強で2度目の内閣総辞職、政局の混乱は長引く懸念も」
注4 4月6日付レポート「ペルー、政局混乱の裏で反政府デモ激化、政府は外出禁止令を発令」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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