インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

大統領選を前に板挟みのブラジル中銀、市場の信認が揺らぐ懸念

~インフレ加速にもかかわらず連続利下げ決定、中銀の独立性にも懸念~

西濵 徹

要旨
  • ブラジルの金融政策が揺れている。ブラジル中銀は6月の定例理事会で、政策金利を3会合連続で引き下げることを決定した。一方で、インフレ率は中銀目標を上回る水準に再加速しており、物価見通しも上方修正された。こうした状況にもかかわらず中銀が利下げを決定したのは、ルラ政権による景気刺激策や大統領選を控えた政治的圧力が影響した可能性がある。
  • また、中銀はインフレ率が目標に収束する時期を2028年初まで延長する見通しを示したことから、市場では金融緩和を正当化するために政策目標期間を事実上変更したとの見方が広がった。この結果、長期金利の上昇やレアル安が進み、市場の中銀に対する信認は揺らいでいる。さらに、エルニーニョ現象による食料インフレのリスクも浮上しており、今後は金融政策への不信感がレアル相場や長期金利の変動を一段と強める可能性に注意が必要である。

ブラジルの金融政策が揺れている。ブラジル中央銀行は、6月16~17日の日程で開催した定例の金融政策委員会(COPOM)で政策金利(Selicレート)を25bp引き下げ、14.25%とすることを決定した。同行による利下げ決定は3会合連続となる。4月の前回会合では9人の理事のうち3人が反対票を投じたが、今回は全会一致の決定となった。会合後に公表した声明文では、政策運営について「財政政策が金融政策や金融市場に与える影響を注視しており、不確実性が高いことを踏まえて慎重姿勢を維持している」とした。そのうえで、「インフレ率を目標に収束させることを目的に、新たな情報を踏まえ、今後の調整サイクル全体の規模を決定していくことをあらためて確認する」との考えを示した。一方、先行きの物価動向について「上下双方に振れるリスクが通常に比べて高い」としたうえで、上振れ要因のひとつにルラ政権が実施する景気刺激策が金融政策の波及経路を弱めることを挙げた。

背景には、10月4日に大統領選挙(第1回投票)が予定されており、現職のルラ大統領が再選を目指していることがある。政府は景気刺激策を講じる構えをみせるとともに、金融政策について利下げ余地に言及するなど、中銀に対して利下げ実施への「圧力」を暗にほのめかせてきた。こうした事情が中銀の政策判断に少なからず影響を与えている可能性がある。前述したように、中銀は3会合連続の利下げ実施を決定したものの、直前に発表された5月のインフレ率は前年同月比+4.72%と7ヵ月ぶりに中銀目標(3±1.5%)のレンジの上限を上回る伸びに加速した(図1)。コアインフレ率も前年同月比+4.76%と全体のインフレ率を上回る伸びとなり、2025年末以降続いてきた鈍化基調に変化の兆しもうかがえる。

図表
図表

同行は伝統的に「タカ派」色が強く、過去にはインフレ率が目標レンジの中央値を上回れば利上げを決定することもあった。しかし、中銀は一段の金融緩和に踏み切るなど、難しい政策運営を迫られている様子がうかがえる。会合では、2026年通年の見通しも+5.2%と従来見通し(+4.6%)から上方修正するとともに、金融政策の対象期間である2027年10-12月時点のインフレ率予想を+3.7%と従来見通し(+3.5%)から上方修正し、目標の中央値(3%)を上回るとの見方を示した。さらに、中銀は物価のシミュレーションにおいて、「金融政策の対象期間となる2028年1~3月までには、インフレ率は目標域に収束することが示された」とした。この文言について金融市場では、インフレ環境が厳しさを増すなか、中銀が緩和姿勢を正当化するために、金融政策の目標期間を変更したとの見方が広がった。一方、中銀は、供給ショックの性質を明確にするための説明に過ぎないとの見解を示し、こうした見方を否定した。

その後の金融市場では長期金利が上昇し、FRB(米連邦準備制度理事会)による利上げ観測を受けた米ドル高も重なり、レアル相場は調整するなど混乱が広がった(図2)。

図表
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足元ではエルニーニョ現象の発生が確認されており、同国では地域ごとに影響が異なるものの、総じて食料インフレを引き起こす可能性がある。こうした状況にもかかわらず中銀が金融緩和に踏み切ったことで、政策運営に対する金融市場の不信感が強まり、レアル相場や長期金利が影響を受ける可能性に注意が必要である。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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