インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

ブラジル・フラビオ上院議員も米国の関税政策に反対表明へ

~懲罰的関税が米国の影響力低下を加速させる皮肉な結果となる可能性も~

西濵 徹

要旨
  • ブラジルでは10月4日に大統領選挙の第1回投票が予定されており、現職の左派ルラ大統領が優位とされる一方、支持率は過半に届かず、右派のフラビオ上院議員との決選投票になる可能性が高い。中南米では近年、右派政権の誕生が相次いでおり、米トランプ政権による中南米介入の強まりも地域政治に影響を与えている。

  • ブラジルでは、トランプ政権がボルソナロ前大統領の裁判を巡ってブラジルに強硬姿勢を取ったことが国内の反発を招き、結果的にルラ氏に追い風となってきた。一方、トランプ氏に近いフラビオ氏は、国内の反米感情や自身のスキャンダルを背景に支持率を落としており、トランプ氏との関係を巡って板挟みの状況に置かれている。

  • USTRはブラジルの通商慣行を不公正と判断し、25%の懲罰的関税を提案した。対象にはデジタル決済システム「PIX」なども含まれており、米国企業の利益や米ドルの国際的優位性への影響が背景にあるとみられる。ただし、牛肉やコーヒー、エネルギー、航空機部品など多くの品目は適用除外とされた。

  • 追加関税が実施されれば、靴産業や水産業など一部産業に打撃が及ぶ可能性がある。ルラ氏はこれに強く反発し、注目されたフラビオ氏も米国の関税措置やPIXへの批判に異議を唱える姿勢を示している。トランプ政権による対ブラジル強硬策は、むしろ同政権が支援する右派候補からも反発を招いており、米国の中南米での影響力低下を加速させる可能性がある。

ブラジルでは、10月4日に大統領選挙(第1回投票)が実施される。世論調査では、第1回投票は現職の左派ルラ大統領の優位と伝えられるものの、ルラ氏の支持率は50%を下回るなど決選投票に持ち込まれる可能性が高い。次点には、ボルソナロ前大統領の長男である右派のフラビオ上院議員がつけており、左派と右派による決選投票になると見込まれている。

中南米ではここ数年、アルゼンチン、コスタリカ、ボリビア、エクアドル、チリ、コロンビア、ペルーにおいて相次いで右派政権が誕生する動きが広がっている。背景には、トランプ米政権が「ドンロー主義」を標ぼうし、麻薬対策を名目に中南米諸国への介入を強めていることが影響している。ボルソナロ前政権では、ブラジルは米国(トランプ第1次政権)に接近したものの、ルラ政権への交代後は一転して中国への接近を強めた。さらに、ボルソナロ氏は退任後、2022年の大統領選での敗北後のクーデター計画の容疑で逮捕、起訴されたため、トランプ米政権は公判の妨害を目的に、ブラジルに対する関税を50%に引き上げた。その後、ボルソナロ氏は禁錮27年3ヵ月の有罪判決を受けたものの、トランプ氏は判決を「魔女狩り」と批判した。

一方、ブラジル国内ではトランプ米政権の対応に反発が強まった。ブラジルに対する関税引き上げが米国のインフレを招く懸念が高まり、トランプ米政権は2025年11月に食品などへの追加関税を撤廃したため、ブラジルはトランプ関税に対する「実質的な勝利」を収めた。このように、トランプ氏が同国への強硬姿勢を強めることが、かえってルラ氏が優位に選挙戦を展開する一因となってきた。一時はフラビオ氏の支持率がルラ氏に肉薄する動きがみられたものの、2026年5月に現地報道でフラビオ氏に関するスキャンダルが発覚し、その後はフラビオ氏の支持率が低下している。また、フラビオ氏はイデオロギー的にトランプ氏を支持してきたものの、国民の間にトランプ氏への反発が少なくなく、フラビオ氏は「板挟み」状態に直面してきた。

USTRは2025年、通商法301条に基づき、不公正貿易慣行に関する調査を開始した。調査対象は電子決済サービス、優遇関税、知的財産保護、エタノール市場へのアクセスなどとした。電子決済サービスを巡っては、同国で2020年に導入された即時決済システム(PIX)について、国民の7割以上がPIXを利用する一方、米国の大手クレジットカード会社やIT企業にとっては手数料ビジネスの機会が失われており、トランプ政権へのロビー活動を活発化させてきた。さらに、ルラ政権はPIXの国際版(PIXインターナショナル)による越境決済の導入を模索しており、仮に実現すれば国際決済における米ドルの優位性を脅かす可能性がある。USTRは調査結果について、商慣行が不合理であり、米国の通商を阻害または制限するもので、通商法301条(b)に基づく措置の対象となると結論付け、2026年6月、ブラジルの通商慣行がデジタル貿易から違法な森林破壊に至るまで広範な分野で不公正と判断し、輸入品に25%の懲罰的関税を課すことを提案した。ただし、牛肉やコーヒー、レアアース、その他の金属、エネルギー、航空機部品など多くの品目を適用除外とし、前述したトランプ関税の適用除外とほぼ同じ内容となった。

仮に追加関税が実施されれば、同国の靴産業や水産業など関税対象分野の輸出や雇用に深刻な打撃を与えることが見込まれ、ルラ氏は公然と反発した。対するフラビオ氏の反応に注目が集まるなか、7日に行った選挙演説において米国の懲罰的関税に異議を唱えた模様である。さらに、USTRが標的とするPIXについても、PIXは解決すべき問題ではなく、解決策であると述べるなど反論する考えを示した。USTRが開催する公聴会にはフラビオ氏が出席する予定となっているが、反対を表明する可能性が高まっている。前述したように、トランプ米政権が同国への関税を大幅に引き上げた背景には、政治的動機が影響したとみられる。しかし、そのことがトランプ氏の推す右派のフラビオ氏からも反発を招いていることは皮肉であり、米国の影響力低下を加速させる可能性もある。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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