インドネシア中銀、2会合連続の利上げ且つ利上げ幅拡大でルピア安に対抗

~中銀はルピア安定に自信をみせるが、外準は適正水準を下回るなど体力は着実に低下している~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア中銀は22日の定例会合において政策金利を2会合連続で引き上げるとともに、利上げ幅を50bpに拡大して4.25%とする決定を行った。同行はコロナ禍対応を目的に低金利政策と財政ファイナンスに動き、アジア新興国で物価抑制を目的とする利上げの動きが広がるなかでも利上げには及び腰の対応を続けた。ただし、インフレ率が中銀目標を上回るとともに、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜に伴うルピア安圧力が強まり、8月に約4年ぶりの利上げに動いた。その後もルピア安圧力がくすぶるなかで一段の利上げと利上げ幅の拡大に追い込まれた。中銀は一段の対応に含みを持たせるほか、ルピア相場の安定に自信を示すが、外貨準備高は金融市場の動揺への耐性に乏しいなどの問題を抱える。先行きは物価高と金利高の共存が景気のけん引役である内需の足かせとなるなど、景気の不透明感が高まることは避けられない。

世界経済を巡っては、中国による『ゼロ・コロナ』戦略への拘泥が中国景気の足かせとなっている上、幅広い商品市況の上振れによる世界的なインフレを受けた米FRB(連邦準備制度理事会)など主要国中銀がタカ派傾斜を強めたことで欧米など先進国景気も下振れするなど、全体的に頭打ちが意識される状況にある。米FRBなど主要国中銀によるタカ派傾斜は国際金融市場のマネーフローに影響を与えており、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱な新興国において資金流出の動きが集中することが懸念される。2013年の米FRBのバーナンキ議長(当時)による量的緩和政策の縮小を示唆する発言をきっかけにした国際金融市場の動揺(テーパー・タントラム)に際しては、経済のファンダメンタルズが脆弱な5ヶ国(フラジャイル・ファイブ)に資金流出の動きが集中し、インドネシアは経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』、インフレの常態化を理由にその一角となった経緯がある。他方、コロナ禍による景気減速による輸入下振れに加え、商品市況の底入れによる輸出上振れが重なり、一昨年以降の貿易収支は黒字基調で推移しているほか、コロナ禍による景気減速を受けて物価も下振れするなどファンダメンタルズの改善に繋がる動きがみられた。しかし、昨年以降の商品市況の底入れの動きに加え、年明け以降は幅広い商品市況が上振れするなか、食料品やエネルギーなど生活必需品を中心にインフレ圧力が強まっており、足下のインフレ率は中銀の定めるインフレ目標を上回る水準に加速している。なお、アジア新興国においてはインフレが顕在化するなか、米FRBなど主要国中銀のタカ派傾斜に伴う米ドル高による自国通貨安が一段のインフレ昂進を招く懸念が高まっており、金融引き締めに動く流れが広がりをみせてきた。ただし、インドネシアの通貨ルピア相場は周辺国通貨に比べて調整のペースが緩やかなものに留まったため、中銀は1月に預金準備率の段階的引き上げ(3.50→6.00%)を示唆し、5月には引き上げペースを加速させる動きをみせたほか(3.50→9.00%)、7月には金融市場における流動性吸収を目的に中銀が保有する国債の一部を流通市場で売却する量的縮小に動くなど引き締めスタンスにシフトさせてきたものの、政策金利の調整には及び腰の対応を続けてきた。一方、中銀による低金利維持も追い風に4-6月の景気は順調に底入れの動きを強めるなど、同国経済は『ポスト・コロナ』に向けて着実に前進する動きが確認されている(注1)。他方、その後もインフレは高止まりしている上、国際金融市場においては米FRBなどのタカ派傾斜が一段と進むとの期待が高まっており(注2)、ルピア安が一段のインフレ昂進が懸念されたことから、中銀は先月の定例会合において約4年ぶりの利上げ実施に踏み切るなど金融引き締めに舵を切った(注3)。ただし、利上げ実施後もルピア相場は調整の動きを強めている上、来年度予算案では歳出抑制を目的に燃料補助金の削減が盛り込まれるなど、燃料価格上昇によるインフレ懸念が高まるなか、中銀は22日の定例会合においても政策金利である7日物リバースレポ金利を2会合連続で引き上げるとともに、利上げ幅を50bpに拡大して4.25%とする決定を行った。会合後に公表された声明文では、今回の決定について「物価抑制の実現に向けた先手を打った対応」としつつ、「世界的な不確実性が高まるなかでルピア相場の安定を図りつつ、力強い内需を考慮に入れたもの」との考えを示した。その上で、世界経済について「地政学リスクや紛争、保護主義的な政策に伴う物価上昇に直面している」一方、同国経済について「政府の社会保障拡充策は内需を支える」とした上で「今年通年の経済成長率は+4.5~5.3%の上限に近付く」とする従来見通しを据え置いた。また、ルピア相場については「周辺国に比べて通貨安圧力は比較的良好なものに留まる」とした上で、物価動向を巡って「目標を上回る推移が続くと見込まれる」として「インフレを来年後半に目標域に収束させるべく政府と強力な政策調整を図る必要がある」との考えを示した。他方、足下の物価上昇を巡っては「一時的なものであり、燃料価格の上昇による2次的影響は3ヶ月程度続くと見込まれる」としつつ、「来年後半にかけては収束が見込まれる」との見通しを示した。中銀はこれまでもルピア相場について周辺国に比べて調整圧力が緩やかとする見方を示してきたが、その背後で為替介入を行っているとみられ、貿易収支が黒字基調で推移しているにも拘らず昨年後半以降の外貨準備高が減少していることがその証左と捉えられる。さらに、足下ではIMF(国際通貨基金)が国際金融市場の動揺への耐性の有無を示す適正水準評価(ARA:Assessing Reserve Adequacy)に照らせば適正水準を下回るなど、耐性の低下を示唆する動きもみられる。中銀のペリー総裁はこれまでもルピア相場の安定に自信をみせる考えを示してきたものの、その背後では着実に同国経済の体力は蝕まれており、金融市場がこうした問題に着目することも懸念される。今後は物価及び為替の安定に向けて一段のタカ派傾斜を迫られる可能性があるほか、物価高と金利高の共存は経済成長のけん引役である家計消費など内需の足かせとなり得るなど、先行きの景気を取り巻く不透明感が高まる可能性にも留意する必要があろう。

図表1
図表1

図表2
図表2

図表3
図表3

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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