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2022.09.14
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ペルー、インフレに鈍化の兆しも政治危機が続く難しい展開
~政府及び中銀は景気に配慮も、政治及び経済を巡る状況はこれまで以上に厳しくなる懸念はくすぶる~
西濵 徹
- 要旨
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- 南米ペルーでは昨年7月の大統領選を経て左派のカスティジョ政権が発足した。しかし、首相人事を巡るバタバタに加え、カスティジョ大統領自身の汚職疑惑も噴出するなど支持率は急低下している。さらに、商品高によるインフレは国民生活を直撃しており、今年4月には反政府デモの一部が暴徒化する事態に発展した。先月にトレス首相は一旦辞任を表明したが、大統領の求心力低下を懸念してこれを拒否し、トレス氏は留任している。昨年以降加速が続いたインフレ率はガソリン価格の低下を理由に鈍化しており、中銀は9日の定例会合で追加利上げを決定も、利上げ幅を縮小させた。政権は景気刺激策を公表するなど政策運営は景気下支えに傾く動きをみせる。ただし、政治、経済を巡る状況はこれまで以上に厳しくなる懸念はくすぶる。
南米ペルーでは、昨年7月の大統領選(決選投票)を経て急進左派政党のPL(ペルー・リブレ(自由ペルー))から出馬したペドロ・カスティジョ氏が勝利して急進左派政党が誕生し、ここ数年中南米諸国において広がりをみせる『左派ドミノ』が到達した(注 )。なお、与党PL内では政権発足当初から穏健派(カスティジョ大統領)と急進派(セロン党首)の鍔迫り合いが表面化したため、政権の陣容を巡っては穏健派と急進派のバランスを取ることで一旦は落ち着きをみせた。しかし、首相に就いた急進派のベジド氏は舌禍癖を理由に政権運営の空転を余儀なくされたため、2ヶ月足らずで事実上の更迭に追い込まれた。また、円滑な政権運営を図るべく、後任首相には中道派のバスケス氏を据えたものの、国家警察人事を巡る汚職事件の表面化を理由に大統領と対立して辞任した。また、その後任首相には穏健派(右派)のバーレル氏を据えるも、直後に家庭内暴力問題が露呈して1週間で退任を余儀なくされ、大統領の側近で穏健派のトレス氏を後任首相とすることで事態収束を図った。トレス氏の下で政権運営は安定を取り戻したものの、カスティジョ大統領を巡って職権濫用や汚職疑惑のほか、側近の汚職疑惑も噴出しており、国民の期待を背負って誕生したカスティジョ政権は発足から1年足らずのうちに大きく支持率を失った。さらに、昨年以降の資源価格の底入れに加え、年明け以降はウクライナ情勢の悪化による幅広い商品市況の上振れがインフレを招いており、国民生活を取り巻く状況は厳しさを増している。また、中銀は昨年8月にコロナ禍後初の利上げに踏み切るとともに、その後も断続的に大幅利上げを実施するなどタカ派傾斜を強めてきたものの、インフレ率は一段と加速の動きを強める展開が続くなど、物価高と金利高の共存が景気の足かせとなる状況に直面している。こうしたことも影響して首都リマなどではカスティジョ政権に対する抗議デモの動きが広がっていたが、今年4月にはデモ隊の一部が暴徒化したため、政府はリマと隣接する港湾都市のカジャオを対象に外出禁止令を発令する事態に追い込まれた(注1)。その後は大規模デモの発生は抑えられているものの、主力産業である銅鉱山などで抗議行動が相次いで発生するとともに、操業停止状態が長期化するなど経済活動の足かせとなるなど景気に対する不透明感はくすぶる状況が続いている。こうしたなか、先月初めにトレス首相は個人的な理由により首相を辞任することを明らかにしたものの(注2)、カスティジョ大統領はこれを拒否したことでトレス氏は首相に留まっている。カスティジョ氏がトレス氏の辞任を拒否したのは、自身を巡り5件の犯罪捜査が行われるなど政権運営が極めて厳しいなか、最側近のひとりであるトレス氏辞任による一段の求心力低下を避けたいとの思惑が影響したと考えられる。なお、このように政局を巡る不透明な状況が続いているものの、通貨ソル相場を巡っては、同国が銅や鉛、銀、金などの鉱物資源のほか、原油や天然ガスなどを主な輸出財とするなか、これらの市況に影響を受けることで比較的底堅い動きが続いてきた。しかし、足下ではこれらの市況が弱含んでいることに加え、米FRB(連邦準備制度理事会)のタカ派傾斜による米ドル高も影響してソル相場は頭打ちしており、資金流出圧力に晒されていると捉えられる。こうしたなか、直近8月のインフレ率は原油市況の頭打ちに伴うガソリン価格低下を反映して前年比+8.8%と前月(同+9.3%)から伸びが鈍化するも、依然として歴史的高水準で推移するなど厳しい状況は変わらない。しかし、中銀は9日に開催した定例会合において14会合連続の利上げ実施(6.50→6.75%)を決定も、昨年9月以降12会合連続で利上げ幅を50bpとしてきたものの、利上げ幅を25bpに縮小するなどタカ派姿勢を後退させており、その理由に先行きのインフレ見通しの低下を挙げた。一方、カスティジョ政権は世界経済の減速とこのところの銅価格の調整による景気下振れ懸念に対応して総額30億ソル(GDP比0.3%)規模の景気対策を発表するなど、政策全体が景気下支えに傾きつつある様子がうかがえる。現地報道によると、中銀幹部が利上げ幅の縮小決定について「利上げサイクルの終了を意味するものではなく、インフレ抑制に努め続けなければならない」と述べたとされるなど、追加利上げに含みを持たせた模様である一方、景気の不透明感が高まるなかでそのハードルは高まっているとみられる。カスティジョ大統領自身の疑惑による政局を巡る混乱は続くなか、メキシコ、アルゼンチン、ボリビアなどここ数年中南米において左派政権が発足した国々はカスティジョ政権の支持を表明するなど外交面で支援する動きをみせているものの、上述のように政治のみならず、経済も極めて厳しい状況に直面しており、早期に事態が好転する見通しは立ちにくい。米FRBのタカ派傾斜の動きは新興国において厳しい状況を招く可能性も高まっており(注3)、政治的にもこれまで以上に厳しい事態に追い込まれることも懸念される。


注1 2021年7月29日付レポート「ペルー左派政権発足で「大きな政府」路線は必至、船出からドタバタも露呈」
注2 4月6日付レポート「ペルー、政局混乱の裏で反政府デモ激化、政府は外出禁止令を発令」
注3 8月5日付レポート「ペルー・カスティジョ政権、1年強で4人目の首相交代の異常事態」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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