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2021.06.02
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ブラジル景気は予想外の堅調も、新型コロナ禍の克服判断は早計
景気拡大のけん引役である内需は依然弱く、先行きは金融市場の動揺に晒されやすくなっている
西濵 徹
- 要旨
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- ブラジルは昨年来の新型コロナウイルスのパンデミックを受けて感染拡大の中心地となってきたが、足下では新規陽性者数は徐々に頭打ちしている上、ワクチン接種が進むなど改善の兆しもみられる。ただ、ボルソナロ大統領は依然新型コロナ対策に後ろ向き姿勢をみせるなか、先月末には左派を中心に全土で抗議デモが展開されるなど感染再燃に繋がり得る動きも出ており、今後も引き続き感染動向に注意が必要である。
- 年明け以降は世界経済の回復が外需を押し上げる一方、低所得者などへの現金給付終了が内需の足かせとなることが懸念されたが、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+4.90%と底堅さが確認された。しかし、外需の拡大や公共投資の進捗が固定資産投資を押し上げる一方、家計消費は弱含むなど対照的であり、在庫の積み上がりの動きも確認されるなど経済が新型コロナ禍を克服したと捉えるのは早計である。
- インフレが加速感を強めるなかで中銀は金融引き締めを進めるなど内需の足かせとなる動きが続く一方、ボルソナロ大統領はポピュリズム色を強めるなど経済のファンダメンタルズは脆弱さを増している。足下のレアル相場は原油相場の上昇を受けて堅調に推移するが、国際金融市場の動揺に晒されやすくなっている。今年の経済成長率は+4.6%への上振れが予想されるが、来年には+1.8%に鈍化すると予想される。
ブラジルは、昨年以降における新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミック(世界的大流行)において感染拡大の中心地となる展開が続いており、足下における累計の陽性者数は1,655万人弱と米国、インドに次ぐ水準にある一方、死亡者数は46万人超と米国に次ぐ水準にあるなど、医療インフラの脆弱さも影響して陽性者数に対する死亡者数の比率は高い。なお、1日当たりの新規陽性者数は3月末を境に緩やかに頭打ちする動きをみせているものの、依然として高水準での推移が続いている上、死亡者数も拡大傾向を強めるなど厳しい状況が続いている。ただし、同国は感染拡大の中心地となったことを受けて様々な新型コロナウイルス向けワクチンの治験が実施されたほか、年明け以降はワクチン接種が開始されるなど事態打開に向けた取り組みは着実に前進してきた。なお、ボルソナロ大統領は自身も罹患したにも拘らず新型コロナウイルスについて「ただの風邪」とする考えを示してきたほか、ワクチン接種にも後ろ向きの姿勢をみせているものの、地方政府による強い要望を受けて連邦政府はワクチン確保に奔走してきた。さらに、中国製ワクチン確保を目指す観点から、3月末には『対中強硬派』として知られたアラウージョ前外相を更迭してフランサ氏を後任に据えるなど 1、なりふり構わぬ姿勢をみせてきた。こうしたこともあり、先月31日時点における人口100万人当たりのワクチン接種回数は31.7万回に達しており、完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)は10.40%、部分接種率(少なくとも1回は接種を受けた人の割合)は21.35%と世界平均(それぞれ5.51%、10.77%)を大きく上回るなどワクチン接種は前進している。なお、ブラジル国内で接種が進む中国産ワクチンについては、国内で接種されたワクチンの8割以上を中国産ワクチンが占めるチリで感染が高止まりするなど効果に疑問符が打たれているものの2 、同国で実施された実験では感染拡大制御及び死亡者抑制に効果があることが示された模様である。よって、足下のブラジル国内における新型コロナ禍の状況は『最悪期』を過ぎて改善に向かっていると捉えることが出来る。他方、ボルソナロ大統領による新型コロナウイルス対策を巡っては、同国内においても反対する向きが強まるなか、先月末には左派政党や労働組合、学生団体などが主導する形で全土において抗議集会が発生する事態となっており、来年に次期大統領選が予定されるなかでこうした動きが広がることも予想される。抗議集会はマスク着用で行われているが、仮にワクチン接種が拡大することで行動が激化すれば、再び感染が拡大するリスクもはらんでおり、感染動向には引き続き注意が必要な状況が続くと予想される。


なお、年明け以降の同国経済を巡っては、世界経済の回復を追い風に国際商品市況の底入れが進むなど交易条件の上昇に加え、外需を取り巻く状況も改善が期待される一方、政府が緊急経済対策として実施した貧困層や低所得者層、非正規労働者を対象とする現金給付策が昨年末で終了するなど『財政の崖』が生じており、企業マインドについては製造業こそ底堅く推移しているものの、サービス業で大きく下押し圧力が掛かるなど対照的な動きをみせてきた。同国はGDPの7割をサービス業が占めており、近年は家計消費をはじめとする内需が景気拡大のけん引役となってきたことを勘案すれば、こうした動きは景気の重石になることが懸念されたものの、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+4.90%と3四半期連続のプラス成長となるなど景気の底入れが進んでいることが確認された。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+1.9%と前期(同▲2.3%)から5四半期ぶりのプラスに転じるなど底入れしているものの、実質GDPの水準は新型コロナウイルスのパンデミックの影響が及ぶ直前の一昨年末と比較して▲0.0%とわずかに下回る水準であるなど、ようやく克服が進んだと捉えられる。ただし、需要項目別の動きをみるとその判断は極めて難しいと考えられる。世界経済の回復を追い風に輸出は3四半期ぶりのプラスに転じたほか、政府もインフラ関連を中心に公共投資の拡充に動いたことを反映して固定資産投資も拡大傾向を維持する動きが確認された。一方、上述のように低所得者層などを対象とする現金給付策の終了に加え、雇用の回復が遅れるなかで昨年後半以降の国際原油価格の底入れを受けて生活必需品を中心にインフレ圧力が強まり、家計部門の実質購買力に下押し圧力が掛かったことを受けて家計消費は3四半期ぶりに減少に転じるなど内需は弱含んでいる。分野別では、内需の弱さを反映してサービス業の生産は鈍化しているほか、外需の堅調さにも拘らず製造業や鉱業部門の生産も頭打ちの動きを強める一方、農林漁業における生産拡大の動きがGDPを大きく押し上げており、表面的には成長率は堅調い動きをみせるもののバランスは大きく崩れている。事実、前期比年率ベースでは在庫投資の成長率寄与度が+5.84ptと成長率そのものを上回る水準になったと試算されるなど、在庫の大幅な積み上がりが成長率を押し上げていることを勘案すれば、この動きを以ってブラジル経済が回復感を強めていると判断するのは早計である。


先行きの景気については、政府が来年に迫る次期大統領選を意識して財政出動に動いており、ディーゼル燃料に対する課税を一時凍結したほか、低所得者層などを対象とする追加現金給付の実施を決定しており、足下で弱含んでいる家計消費など内需を押し上げることが期待される。さらに、欧米や中国などの主要国の景気回復の動きは外需を押し上げるとともに、国際商品市況の上振れは交易条件の改善を通じて国民所得を押し上げるなど家計消費を下支えすると期待される。他方、年明け以降のインフレ加速を受けて中銀は3月の定例会合で約6年ぶりの利上げ実施を決定するなど金融政策の正常化に動いているほか 3、先月の定例会合でも追加利上げの実施を決定した上で将来的な追加利上げを示唆する姿勢をみせている4 。事実、足下のインフレ率は一段と加速感を強めるなど中銀の定めるインフレ目標を大きく上回っており、中銀はさらなる金融引き締めに動く可能性が高まっていることを勘案すれば、企業部門の設備投資意欲や住宅投資などの重石となることが懸念される。また、ボルソナロ大統領は来年に迫る次期大統領選での再選を目指して政策運営面でポピュリズム(大衆迎合)色を強める動きをみせているが、今年3月には左派・労働者党に隠然たる影響力を有する上に低所得者層からの人気が厚いルラ元大統領に下った有罪判決が無効となり、この決定を受けて次期大統領選への出馬が事実上可能となったことから、極右の現職(ボルソナロ氏)も左派のルラ氏もともに財政出動を強める可能性が高まっている。結果、ブラジルは慢性的に経常赤字と財政赤字の『双子の赤字』を抱えるなかで財政状況は急速に悪化している上、足下ではインフレが顕在化するなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は脆弱さを増しており、国際金融市場の動揺に際して揺さぶられやすくなることは避けられそうにない。足下の通貨レアル相場は米FRB(連邦準備制度理事会)が金融緩和の長期化を示唆する『市場との対話』に動くなか、原油をはじめとする国際商品市況の堅調さを受けて底堅い動きをみせているが、一変するリスクを孕んでいると捉えられる。なお、1-3月のGDPがプラス成長を維持したことで今年の経済成長率見通しを上方修正する動きが広がりをみせているが、上述のようにその内容は良好とは言い難い状況を勘案すれば、当研究所は+4.6%と昨年(▲4.1%)の反動も重なり久々の高成長になるものの、来年は+1.8%に留まると予想する。


1 4月2日付レポート「ブラジル・ボルソナロ政権、支持基盤である軍の離反が意味するもの」
2 5月19日付レポート「中南米で広がる「左派のうねり」は着実にチリに及んでいる」
3 3月18日付レポート「ブラジル中銀、早くも金融政策の正常化プロセスに突入」
4 5月6日付レポート「ブラジル中銀、金融正常化プロセスの一段の加速に含みを持たせる」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

