ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

人口減少時代の生活者のマインド

~「5つの変化」に生活者は対応できるのか~

鄭 美沙

要旨
  • 人口減少時代に変化が生じると考えられる「地方・家族・働き手・社会保障・需要」の5分野について、当研究所が実施した調査結果に基づき、生活者のマインドと行動を説明する。
  • 地方は、人口減少が今後も進むことが予想される。一方、「利便性が高く人が多い地域より、多少不便でも静かな環境で暮らしたい」と思う人は、若者では半数程度にのぼる。柔軟な働き方や生活者を惹きつける自治体の戦略や支援が求められる。
  • 家族は、特に女性の単身高齢者世帯が増加することが予想される。高齢女性は家族に依存せず生活や介護を社会全体で支えることを望む傾向が強い。一人で安心して暮らせる住まいやネットワークづくりが求められる。
  • 働き手について、人手不足解消に向けて高齢者雇用が推進されているが、「高齢期には働きたくない」と思う人は、全ての年代で6割強となった。そうした人ほど社会の急速な変化に疲労感を抱いている傾向がある。
  • 社会保障について、「自分の高齢期には公的年金に期待をしていない」と思う人は全体で7割程度と多い。社会保障の持続可能性を議論するにあたり、政府や公的サービスへの信頼感がさらに低下しないよう、政府は留意する必要がある。
  • 新たな需要としては、家事代行や育児支援サービス等が増えると考えられる。現状、それらを利用したことある人は、共働き世帯でも2割程度である。企業には、こうしたサービスを創出するとともに、従業員の利用を支援することが求められる。
  • 人口構造の変化が社会システムにもたらす影響は今後さらに大きくなるが、変化のスピードに合わせて生活者がマインドを変えていくことは容易ではない。誰一人取り残さない人口減少社会を目指すとともに、生活者のマインドや行動に関する調査研究は今後ますます重要になるだろう。
目次

1. 2050年にかけて訪れる「5つの変化」

2025年8月に総務省が公表した、同年1月1日時点の住民基本台帳に基づく人口動態調査によると、日本人人口は約1億2,065万人であった。2009年をピークに16年連続で減少し、前年からの減少数は約91万人と、調査開始以降最大の減少幅となった。

当研究所では2025年、「人口減少時代の未来設計図~社会・経済、そしてマインドの変革~」をテーマに人口問題へのリサーチを各分野で強化している。そのキックオフとして星野主席エコノミストが執筆した「新局面を迎える人口減少時代~2050年にかけて訪れる『5つの変化』~」では、人口減少時代に生じる「地方・家族・働き手・社会保障・需要」の5つの分野の変化を俯瞰した。本稿では、これら5分野における生活者のマインドや行動について、当研究所が行った調査結果から概観する。

2. 地方:若者にみられる地方移住のニーズ

日本の地方は、出生の減少や都市部への人口流出に伴う人口減少が今後も進んでいくことが予想され、人口1万人未満の自治体数は各地で増加することが見込まれる(星野,2025)。2024年の東京圏への転入超過は13万5,843人で、コロナ禍前の水準にほぼ戻った。

一方、当研究所の調査では「利便性が高く人が多い地域より、多少不便でも静かな環境で暮らしたい」と思う人は少なくない。資料1のとおり、男性では50.6%、女性は44.8%が「あてはまる」に該当した。若い年代や三大都市圏に居住している人でも半数程度にのぼる。

この結果を踏まえると、地方移住のニーズは一定程度あるものの、十分に取り込めていないとみられる。2021年の調査によると、移住に関心があっても具体的な計画を立てない理由として、「経済的に余裕がない」「現在の仕事や働き方を変えることが難しい」「現在の生活環境に満足している」などが主な要因として挙げられていた(稲垣,2022)。このまま地方の人口流出が進めば、公共インフラが脆弱化するおそれがあり、生活者を呼び込むことはますます困難になる。オフィス回帰も生じつつあるが、企業側にはフルリモートなど柔軟な働き方の整備が求められる。加えて、自治体は、生活者を惹きつける独自の戦略や支援策の強化が喫緊の課題であろう。  

図表
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3. 家族:家族に頼らない社会を求める高齢女性

少子高齢化、未婚化の進行という社会構造の変化により、単身高齢者世帯、特に女性の単身高齢者世帯が増加することが予想される(星野,2025)。単身高齢者の貧困リスクや、孤独感・孤立感による心身の健康リスクが懸念されるが、「一人暮らしや未婚者が増えても、家族に頼らない社会にしていくことで対応できる」と考える人は男性より女性の方が多い(資料2)。男性は年齢による違いはほとんどみられないが、女性は年齢が高まるにつれて増え、60代女性では66.6%と最も多い。

また、「自分の介護は主に施設や事業者にしてもらいたい」と、家族に頼らない介護を求める人も、男性(55.7%)より女性(67.2%)の方が多い(図表省略)。なかでも60代女性(71.6%)が最も多いという、資料2と同様の傾向がみられた。

特に女性は、家族に依存せず生活や介護を社会全体で支えることを望む傾向が強いとみられる。高齢女性ほど、家事や育児、介護などケア労働を頼られてきた。負担を経験してきたからこそ、こうした意識を持つようになったとも考えられる。介護職員不足の問題もあるなか、ひとりでも安心できる住まいやネットワークづくり、利用しやすい介護サービスの提供などが、今後ますます求められる。  

図表
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4. 働き手:高齢期には働きたくない

少子高齢化が進行することで、生産年齢人口が減少し、労働力人口が減少局面に入ることが予想される(星野,2025)。人手不足解消に向けて高齢者雇用が推進されているが、「高齢期には働きたくない」と思う人は、全ての年代で6割強となった(資料3)。企業や政府の取り組みに反して、高齢になってまで働きたくないというのが、生活者の本音のようだ。

また、働き盛りの30代以下について、高齢期に働きたいか否かと他の設問の関係をみた結果が資料3右である。「将来の社会環境の変化を見込んで、家計運営や資産形成が行えている」「今の仕事に働きがいを感じている」といった設問よりも、「社会の変化が激しいことに疲れている」か否かに、顕著な違いがみられた。高齢期に働きたくないと回答した人ほど、社会の急速な変化に疲労を感じている傾向がある。

社会変化に疲れている人は、たとえば、男性より女性の方が多いという結果がみられている(第一生命経済研究所,2025)。ただし、属性や意識など複数の調査項目を用いて回帰分析を行った結果、性別を含め有意な変数は複数あったものの、モデルの決定係数は低く、説明力は限定的であった。社会変化への疲労感はどのような要因で生じるのか、今後の研究課題である。

図表
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5. 社会保障:低い政府や公的サービスへの信頼感

社会保障の問題はしばしば財政、カネ不足の問題として捉えられがちであるが、その本質はヒト不足の問題と指摘されている(星野,2025)。2節で述べたとおり、単身世帯の増加や家族に負担をかけたくないという希望もあり、介護職員の確保は喫緊の課題である。

人材確保に向けた処遇改善には、国民負担の増加も一案となるが、「税金等の負担が増えてもいいので、高齢期に不安のない暮らしをしたい」と思う人は、若い世代ほど低く、半数に満たない(資料4左)。この意識の差は、政府への信頼感の有無によっても違いがみられ、政府に対して信頼感がある人では約64%、そうは思わない人では約46%が、「税金等の負担が増えてもいいので、高齢期に不安のない暮らしをしたい」と思っている(図表省略、全年代)。

さらに、「自分の高齢期には公的年金に期待をしていない」と思う人は、全体で7割程度にのぼる(資料4右)。NISAなど投資に対する関心の高まりには、こうした公助への不安感が背景にあるのだろう。

社会保障の持続可能性を議論するには、まず政府や公的サービスへの信頼感がさらに低下しないよう、政府は留意する必要がある。

図表
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6. 需要:拡大余地の大きい家事代行・育児支援サービス

人口構造の変化は、需要構造にも大きな影響を与える。増加が見込まれる需要の例としては「子育て支援サービス」や「ワークライフバランス改善ツール」など、特に共働き家庭の負担を軽減させ、少子化対策につなげるサービスが挙げられる(星野,2025)。

資料5は「家事代行サービスや、ベビーシッターやファミリーサポートなどの育児支援サービスを積極的に利用している、もしくは積極的に利用していた」人の割合である。最も多い18〜20代の男性でも、3割程度にとどまった。全年代の共働き世帯に絞ると、その割合は約21%と全体の平均値よりは高いものの、まだまだ少数派であり(図表省略)、こうしたサービスの普及余地は大きい。

これまで企業は、ワークライフバランスや女性活躍の推進に取り組み、M字カーブの改善など一定の成果を上げてきた。しかし、依然として男女の賃金格差やL字カーブといった課題は解消されていない。どれだけ効率化を図っても、仕事や家事・育児に割ける時間には限りがあるが、外部サービスの活用は時間を抜本的に生み出す手段となる。企業は、こうしたサービスを創出するとともに、従業員の利用を支援することが求められる。  

図表
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7. 誰一人取り残さない人口減少社会に向けて

人口構造の変化が社会システムにもたらす影響は、今後さらに大きくなる。一方で、高齢者雇用が進められるなかでも「高齢期に働きたくない」と思う人が多いように、変化のスピードに合わせて生活者がマインドを変えることは容易ではない。生活者には柔軟性が求められるものの、対応できない人々に目を向けなければ、やがて社会の歪みを招きかねない。誰一人取り残さない人口減少社会を目指すとともに、生活者のマインドや行動に関する調査研究を通じた実態と傾向の把握は、今後ますます重要になるだろう。

以上

【参考文献】

鄭 美沙


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

鄭 美沙

てい みさ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: ライフデザイン・ライフコース、金融リテラシー

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