ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

時短ワーキングマザーのキャリア形成支援

福澤 涼子

目次

1.ワーキングマザーの2人に1人は「短時間勤務制度」の利用者

子育てと仕事の両立を支援する制度のなかで、育児のために勤務時間を短縮できる「短時間勤務制度」は、育児休業制度に次いで利用者の多い両立支援制度である。2010年に義務化された同制度は、今や小さい子どもを育てる正社員女性の半数近くが利用している、あるいは利用経験があるとされる(注1)。

義務化された2010年当時、同制度を導入する企業にとって最も大きな課題となっていたのは、短時間勤務者とその周囲の従業員との間で業務負担をどのように調整するかという点であった(注2)。現在でも、「子持ち様」といったインターネットスラングに象徴されるように、子育て中の社員がいると周囲の負担が増えると不満を抱く人も存在する。先行研究(注3)では、育児のための休職者や短時間勤務者の増加によって、周囲の社員の仕事満足度が低下する場合があることが示されている。一方で、短時間勤務制度を利用しているにもかかわらず、本人の業務量が変わらないケースも少なくない(注4)。その結果、ワーク・ライフ・バランスを保つことが難しくなる場合もある。管理職には、特定の個人に業務を集中させるのではなく、チーム全体で業務効率化を進めつつ、各々が納得できるような業務配分をしていくことが求められる。

さらに近年では、業務量の調整という課題だけではなく、短時間勤務者が経験できる業務の範囲が限定的であるとの指摘もなされるようになっている。たとえば、本来は主担当であったにもかかわらず、短時間勤務であることを理由に補助的な業務に限定されたり、役職から外されたりするなど、フルタイム勤務者と短時間勤務者との間で経験できる業務範囲が異なることも多い。短時間勤務者は勤務時間が短いため、経験できる業務量が少なくならざるを得ないが、業務内容にまで差が生じる場合には、フルタイム勤務者とのキャリアの差は一層拡大していくことになる。

本稿では、短時間勤務制度の利用がワーキングマザーのキャリア上の障壁となっている可能性を確認するとともに、その改善の方向性について考察する。

2. 短時間勤務の場合、業務経験の幅が狭まる可能性も

まず、短時間勤務制度の利用経験がある女性たちは、その制度の利用に伴いどのような仕事上の質の変化を経験しているのだろうか。図表1は、育児のための短時間勤務制度や残業免除制度を利用した経験のある、子育て中の正社員女性について、制度利用後の働き方などの変化を尋ねた回答結果の抜粋である。制度利用者のうち、「夜勤・休日出勤がない(少ない)ポストに変わった」と回答した人が24.5%、「責任のない役職(管理職ではない等)に変わった」人が22.7%、「部署が変わった」人が21.2%、「業務の責任範囲が変わった」人が21.0%いる。これらの結果から、制度の利用に伴い、業務時間だけでなく業務内容も変化している人が少なくないことがうかがえる。

図表
図表

では、短時間勤務制度を利用すると、なぜ管理職など責任のある役職を続けることが困難になるのだろうか。その理由は、管理職の多岐にわたる業務内容を短時間勤務で遂行することが難しいと考えられているためである。職場によっては、会議参加や部下からの相談対応が夕方以降に求められることも多い。さらには、部下の育成や人事管理、数値目標の集計・管理など、マネジメントの多岐にわたる業務を、短時間勤務の時間内でこなすことは必ずしも容易ではない。

同様に、ある先行研究(注5)では、フルタイム勤務の営業職女性と短時間勤務の営業職女性の双方を部下にもつ管理職を対象にアンケート調査を行った。その結果、営業活動の戦略策定や新規顧客の開拓などの営業に関する上流工程や、顧客の課題に対する対応など顧客との関係構築業務については、短時間勤務の女性部下ではなく、フルタイム勤務の女性部下に担当させる傾向があることが明らかになっている。

3. 短時間勤務者のキャリア支援のため、職場環境の見直しを

このような業務内容の変更は、仕事と子育ての両立を円滑にするための職場からの配慮である場合が多い。拙稿「ワーキングマザーがキャリアをあきらめるとき」では、営業チームのマネジメントを短時間勤務で担うことは難しいとして、上司から「無理をしないほうが良い」との提案で、それまで担ってきたリーダー職ではなくメンバーとして復職した女性の事例を紹介した。確かに、「母親は無理をしないほうがよい」という「配慮」は、就業継続という点で女性にとってポジティブな効果がある。その反面、そのような「配慮」によって、子育て期の女性たちがキャリア形成から排除されてしまうリスクがあることも留意しなくてはならない(注6)。特に、多くの人びとにとって30代から40代の間にマネジメント経験を積むことは、その後のキャリア形成において非常に重要である。この時期に、短時間勤務であることを理由にその経験機会を失うことは、長期的なキャリア形成の観点から見て、必ずしもプラスとは言えないだろう。

だからこそ、短時間勤務者を役職者のまま維持するため、その勤務時間内でも責務を果たすことができるよう、職場環境の見直しが必要である。たとえば、社内においてはミーティングの開催時間を見直すなどの調整を行ったり、移動時間を削減するためにテレワークなども積極的に活用するなどが考えられる。ドイツでは誰もが短時間勤務をする権利が法律で保障されており、二人で一つの管理職を担う「タンデム方式」という新しい働き方も広がっている。このように、既存の職場環境に短時間勤務者を合わせるだけではなく、短時間勤務者の働き方に合わせて管理職のあり方や職場の仕組みを見直していくことによって、短時間勤務であってもキャリアを形成していくことができる可能性がある。

もっとも、短時間勤務者を部下にもつ管理職の立場からすれば、チームの目標を達成するために、長時間働くことのできる部下に影響度の高い業務を任せたいと考えるのも無理はない。したがって、短時間勤務者にどのような業務を担わせるのかについては、管理職の判断のみに委ねるのではなく、企業として長期的な方針を明確にし、人事部門からも継続的な啓発と支援を行っていく必要があるといえる。

4. 短時間勤務者の適正な評価

また、女性のキャリア形成という観点からは、業務内容だけでなく、その成果に対して適切な評価が与えられるかどうかも重要な論点となる。特に短時間勤務者については、勤務時間の制約を踏まえた評価のあり方が求められる。具体的には、勤務時間あたりの生産性を考慮した評価や、実際の職務内容と評価基準が整合していることが重要である。

まず、短時間勤務者はフルタイム勤務者と比較して勤務時間が短いため、アウトプットの総量は相対的に少なくならざるを得ない。そのため、成果の総量のみを基準として評価が行われた場合、短時間勤務者の評価は低くなる可能性が高い。このような評価上の課題に対応するためには、成果の量だけでなく、勤務時間あたりの生産性や業務遂行の効率性を踏まえて評価する視点が必要である。だが、「短時間という理由で評価を低く位置付けない」というように、短時間勤務者への評価を明確にしている企業は多くない(注7)。特に、企画職など成果を数値で示すことが難しい職種の場合には、時間当たりの生産性で評価する難易度はさらに高まる。そのため、事前に短い勤務時間を考慮した定量・定性の目標設定をていねいに行い、その目標達成度で評価をしていく必要がある。

さらに、既存の評価制度が短時間勤務の働き方と整合していない場合には、評価基準そのものの見直しが求められる。たとえば、前節で取り上げた短時間勤務を理由にマネジメント職を退いた女性の事例では、その職を退いたことにより等級に期待される役割と実際に担当している業務内容との間に乖離が生じた。その結果、メンバーとして成果を上げていても、等級に相応しい役割を果たしていないため、しばらくすると降格の可能性が示唆される事態となった。育児・介護休業法の規定により、育児休業から復帰したことを理由として直ちに降格させることは認められていない。しかし、評価基準と短時間勤務者の職務内容が一致していない場合、いかに成果を上げたとしても評価が上がりにくくなり、結果としてキャリア形成の障壁となる可能性がある。

これらの状況を改善するためには、まず人事部門が中心となり、短時間勤務者の職務内容と評価基準との整合性を点検する必要がある。そのうえで、両者に不整合が認められる場合には、管理職と協議しながら評価指標の再設計を行う、あるいは短時間勤務者の意向を確認しながら等級に求められる経験を積むことができるよう業務内容を調整するなどの対応が求められる。また、短時間という理由で低く位置付けないなど、企業として改めて短時間勤務者の評価の在り方を明確にしたうえで、評価者に周知徹底していくことが望まれる。

5. 短時間勤務者の戦力化は企業にとってもメリットが大きい

短時間勤務者については、子育てが大変な時期にはキャリアをセーブしたほうがよいとする見方もある。実際、厚生労働省の調査(注8)によると、短時間勤務制度や残業免除など育児のための制度を利用する者に対する考え方として、「制度利用中のキャリアアップや制度利用前と同じキャリアの維持は難しいため、子育てが落ち着いたらキャリアアップを目指してほしい」とする企業は全体の32.1%にのぼる。短時間勤務制度利用者のキャリア支援に対して、必ずしも積極的ではない企業も少なくないことがうかがえる。

実際、企業に短時間勤務制度の導入が義務付けられているのは、3歳未満の子どもを養育する労働者に対してである。しかし、厚生労働省の「雇用均等基本調査(2024年度)」によると、短時間勤務制度を導入している企業のうち44.8%が、「小学校就学の始期に達するまで」あるいはそれ以降も利用を認めている。法定基準を超えて、より長期に利用できるよう制度を拡充している企業も少なくない。そのため、子どもが複数いる場合などには、制度の利用期間が10年程度と長期化することも珍しくない。また、2025年の法改正によって、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者についても、柔軟な働き方を選べる制度の整備が義務化されたため、柔軟な働き方をする従業員はますます増えていくと考えられる。このような状況を踏まえると、限られた時間で働く社員であっても、その能力を最大限に引き出しながら持続的な活躍を企業が支援することは、人手不足が加速するこれからの時代においてますます重要となるであろう。

もっとも、短時間勤務者が子育てと両立しながら十分に活躍できる職場環境を整えることは、短時間で働く人材を戦力化できるという点に加え、採用競争力の向上という側面ももつ。多くの企業では、短時間勤務制度の適用を「入社後1年以上」などの条件付きとしているため、幼い子どもを育てながら短時間勤務を希望する母親にとっては転職が難しく、いったん離職すると正社員市場へ戻ることが容易ではない。企業が、短時間勤務者を適切に戦力化できる職場づくりを進め、入社時からの短時間勤務も柔軟に認めるのであれば、採用面での大きな優位性となる。

このように、短時間勤務であっても能力を十分に発揮できる職場環境を整えることは、結果として企業の利益にもつながる。こうした戦略的な視点のもと、短時間勤務者の活躍を可能にする環境づくりに積極的に取り組むことが重要である。


【注釈】

  1. 厚生労働省「令和5年度仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」(2024年)によると、小学校4年生未満の子を育てながら就労している正社員・女性のうち48.6%が同制度の利用経験がある(「現在利用している(24.3%)」・「以前は利用していたが現在は利用していない(24.3%)」の合計)。

  2. 的場康子「育児のための短時間勤務制度の現状と課題」によると、2010年の調査当時は「子育てのための短時間勤務制度の導入の問題点(複数回答)」に対して「短時間勤務者の周りの従業員の業務負担が増えるので調整が難しい」とする企業は、77.1%にものぼり最多であった。/的場康子「育児のための短時間勤務制度の現状と課題(2011年)第一生命経済研究所 Life Design REPORT

  3. 佐藤一磨「育児による休職や時短勤務者の増加による人手不足は労働者の仕事満足度を低下させるのか」2025年 慶應義塾大学経済学研究所 パネルデータ設計・解析センター ディスカッションペーパー

  4. 厚生労働省「令和4年度仕事と育児等の両立支援に関するアンケート調査報告書」(2023年)によると、育児のための短時間勤務制度、所定外労働の制限(残業を免除する制度)の利用経験者(女性・正社員・職員)のうち28.6%が「勤務時間にあわせて、仕事量が変わらなかった」と回答している。

  5. 坂爪洋美・高村静「勤務時間の違いによる管理職の部下育成行動の違い―営業部門の短時間勤務者とフルタイム勤務者との比較から―」『生涯学習とキャリアデザイン』法政大学キャリアデザイン学会2018年

  6. 保護・配慮すべき存在として女性を特別扱いすることで、結果として女性の自尊心を低下させ、就労機会や職務の範囲を制限してしまうことを「好意的差別」という。

  7. 大内章子・奥野明子「時間制約のある従業員の人事制度と人事評価―アンケート調査と先進事例研究より―」によると「短時間勤務利用者の人事評価については半数超の企業でルールがなく、明文化されている企業や内規としてある企業は4社に1社に過ぎない。」と述べられる。/大内章子・奥野明子「時間制約のある従業員の人事制度と人事評価―アンケート調査と先進事例研究より―」『ビジネス&アカウンティングレビュー』2022年
    また、21世紀職業財団の「DEI推進状況調査(2024年実施)」でも、女性活躍推進の取組として「短時間勤務者への評価の明確化(短時間正社員であるという理由で、機械的に低く位置付けられることがないように)」を実施していると回答したのは20%に満たなかった(男女・管理職)。

  8. 厚生労働省「令和4年度仕事と育児の両立等に関する実態把握のための調査研究事業<企業調査>」2023年

福澤 涼子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

福澤 涼子

ふくざわ りょうこ

ライフデザイン研究部 副主任研究員
専⾨分野: 住まい(特にシェアハウス)、子育てネットワーク、居場所、ワーキングマザーの雇用

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