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2025.01.06
日本経済
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人口減少・少子化
結婚・未婚・晩婚
高齢化
社会保障制度
新局面を迎える人口減少時代
~2050年にかけて訪れる「5つの変化」~
星野 卓也
- 要旨
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- 2050年にかけての日本は、人口動態において経済・社会構造の新たな局面を迎える。それは「5つの変化」として捉えられる。本稿では、この変化の行方と課題をデータと共に俯瞰する。
- 地方が変わる。地方では、出生率の低下と都市部への人口流出が進行し、1万人未満の小規模自治体が増加する。「肩車型」から「天秤棒型」へと移行する自治体も出てくる。医療、介護、教育、インフラ整備など、住民生活に不可欠なサービス提供の制約や、自治体運営の困難さが予想される。
- 家族が変わる。少子高齢化、未婚化により、単身高齢者世帯、特に女性の単身高齢者世帯が増加する。2050年には65歳以上の単身世帯が全世帯の約2割を占め、特に女性が多くなる。貧困、医療費負担の増加、孤独、孤立などのリスクが高まる。
- 働き手が変わる。生産年齢人口の減少に伴い、労働力人口は減少に転じる。2023年には6925万人であった労働力人口は、2050年には6287万人程度まで減少すると予測される。特に2030年代は、団塊ジュニア世代の高齢化が進み、労働力不足が深刻化する。自動化や省力化が進む中で、労働集約的な産業は変革を迫られる。
- 社会保障が変わる。特に介護分野において、深刻な人手不足が懸念される。2050年には122万人の介護職員不足が推計される。賃金水準や労働条件が民間より抑制されがちな社会保障サービスでは、人材確保が一層困難となる。少ない人員でサービス提供を可能にする抜本的な見直しが必要となる。
- 需要が変わる。高齢者向け市場は拡大する一方で、若年層向け市場は縮小する。人口構造の変化は、需要構造にも大きな影響を与える。具体的には、介護、医療、健康食品など高齢者向け市場が拡大し、教育など若年層向け市場が縮小する。人口ボリュームゾーンの後期高齢者入りはマクロの消費を減少させる可能性も。
- 日本は大きな課題に直面するが、先進国にとって人口減少、少子高齢化は共通課題。その経験やソリューションは他国にとっても大いに示唆を持つだろう。人口減少は「危機」である一方、「機会」であるという発想も求められる。
- 目次
1. 人口動態に訪れる「5つの変化」
2025年を迎えた。普段仕事で統計を扱う人間としては、末尾に0と5のつく年は節目の年であると同時に、5年に一度の「国勢調査」が実施される年であることに思いを巡らせる。国勢調査は人口・世帯・就労形態などについて問う、日本に住むすべての人たちに対する統計調査だ。関連統計や政策立案のベースとして幅広く用いられる統計であり、回答率の高さと正確な回答はあらゆる政策議論の要諦となる。より多くの回答が集まることを期待したい。
本稿の主題は、その国勢調査の主な調査対象でもある「人口」だ。当研究所では2025年、「人口減少時代の未来設計図~社会・経済、そしてマインドの変革~」をテーマに人口問題へのリサーチを各分野で強化していく。本稿はそのキックオフに相当するものだ。人口問題は旧くて新しい課題であるが、今後は様々な観点で新しいフェーズを迎えていくことになる。本稿では2050年を見据えたときに日本の経済・社会に生じる「5つの変化」について、データとともに俯瞰していく。
2. 地方が変わる:「肩車型」から「天秤棒型」へ移行する自治体も
日本の地方は、出生の減少や都市部への人口流出に伴う人口減少が今後も進んでいくことが予想される。資料1では、国立社会保障人口問題研究所の推計を基に、2020年と2050年のそれぞれについて、1万人以下の小規模自治体を地図上にプロットした。資料が示す通り、2020年から2050年の間に、人口1万人未満の自治体数は各地で増加することが見込まれる(資料1)。

地方部では高齢化も都市部に先んじて進行していく。しばしば、高齢社会の進行は「胴上げ型」(多くの現役世代が1人の高齢者を支える)から「騎馬戦型」(3人程度の現役世代が1人の高齢者を支える)、「肩車型」(1人の高齢者が1人の現役世代を支える)と例えられてきた。自治体レベルでは、1人の現役世代が2人の高齢者を支える「天秤棒型」に近い状態へ移行する自治体も増えてくることが予想される(資料2)。

この状況下では、自治体は公共サービスの維持が困難になる可能性が高い。具体的には、医療、介護、教育、インフラ整備といった住民生活に不可欠な公共サービスの提供が制約を受けることになる。例えば、医療機関や介護施設の閉鎖、学校の統廃合などが進み、住民の生活の質が著しく低下する懸念がある。また、自治体機能の維持も困難になることが予想され、人材不足により、自治体の運営が難しくなる。職員の高齢化や後継者不足、専門知識を持つ人材の確保も課題となる。
地域コミュニティにおいては、高齢化の進行と人口流出により、地域社会の活力低下が深刻になる。祭りなどの地域文化が失われ、住民同士の交流が希薄になることで、高齢者の見守り機能が低下したり、地域からの孤立が深刻化したりする可能性も否定できない。さらに、道路、橋梁、水道などのインフラが老朽化し、維持管理が難しくなることが予想され、災害時の対応が遅れ、住民の安全確保にも支障が生じる可能性も考慮する必要がある。
こうしたもとで、自治体レベルでの一定の統廃合は今後も避けられず、それをいかに戦略的な目線を持って進めていくかはカギとなるだろう。都市機能を高密度でまとめて集住を図る「コンパクトシティ」の構想は過去にも進められてきたが、ハブとなる都市への移住による生活コストの上昇や居住地の移動を望まない人たちの存在などもその難しさとして聞かれる。
「地方」の課題は「都市」の課題とも表裏一体である。都市部でも高齢者の数そのものの増加は、地方部よりも顕著になる見込みだ。さらに優れた生活環境を求めて地方部から都市部へ高齢者の人口移動が加速すれば、都市部の高齢化問題も深まっていくことになる。人口減少・高齢化のもとでの都市と地方のあるべき姿は改めて問い直される必要があろう。
3. 家族が変わる:女性・単身・高齢世帯がボリュームゾーンに
少子高齢化、未婚化の進行という社会構造の変化により、単身高齢者世帯、特に女性の単身高齢者世帯が増加することが予想される。国立社会保障人口問題研究所の推計に基づけば、2020年時点で一般世帯数に占める65歳以上世帯主の単独世帯の割合は13.2%であったところ、2050年には20.6%まで上昇する。このうち寿命の長い女性が6割程度を占めることが予想されている。2050年時点の65歳以上の高齢世帯に関して、女性の単身世帯数(633万世帯)と夫婦のみ世帯(636万世帯)が拮抗すると推計されている(資料3)。

単身高齢者世帯が家族形態のボリュームゾーンとなっていく。この変化は、高齢者の生活に多方面に影響を与えることが見込まれる。年金収入のみで生活する単身高齢者は、貧困のリスクに晒されやすく、医療費や介護費用の負担が増加し、生活が厳しくなる高齢者が増加することが予想される。また、加齢に伴う身体機能の低下や認知症の発症リスクが高まる一方で、一人暮らしによる孤独感や孤立感によって、心身の健康を害する高齢者が増加する可能性も懸念される。さらに、医療や介護サービスの不足も深刻な問題となる。緊急時の対応や日常的なサポートを十分に受けられず、医療や介護が必要になった際に、適切なサービスが受けられない高齢者が増加することが予想され、必要な時に必要なケアを受けることが困難になる状況も想定される。社会的孤立が進むことで、詐欺などの被害に遭いやすくなるというリスクも高まる。昨今社会問題となっている高齢者世帯を狙った「闇バイト」もその一角であろう。
4. 働き手が変わる:労働力人口は減少局面へ
少子高齢化が進行することで、生産年齢人口が減少し、労働力人口が減少局面に入ることが予想される。日本の生産年齢人口(15~64歳の人口)は1995年をピークにすでに減少に転じているが、労働力人口(失業者も含めた働く意欲のある人の数)は底堅く推移してきた。背景にあるのは、政策的な後押しも相まって進んできた女性や高齢者の就業拡大である。生産年齢人口の減少を相殺するような形で、労働力人口の底堅さをもたらしてきた。
しかし、先を見据えるとこうした状況にもいずれ限界が訪れる可能性が高い。急ピッチで進んできた女性の就業拡大は、今後の就業率の引き上げ余地が乏しくなっていることの裏返しでもある。当研究所では女性や高齢者の就業率の上昇は今後も続くと考えているが、それを踏まえても労働力人口は先々減少に転じるとみている。2023年に6925万人であった労働力人口は2035年には6862万人、2050年には6287万人程度まで減少するとみている(資料4)。特に、団塊ジュニア世代の高齢化が進む2030年代は日本の人口動態における一つの節目になろう。
この変化は、教科書的には労働投入の減少を通じて、日本経済の成長(供給力)の低下をもたらすことになる。足元でもサービス業などを中心に顕在化している人手不足がさらに強まる恐れもある。先の予測では、高齢化の進行のもとで2050年には60歳以上のシニア層が労働力人口に占める割合が3割強に上る見込みだ。この点で単に人数の減少にとどまらない影響がある。人手不足に対応するため、自動化や省力化が進むことで、産業構造が大きく変化することも考えられる。また、労働力不足を補うために外国人労働者の受け入れを拡大するとしても、そのための制度整備や多文化共生社会の実現に向けた課題も伴うことになる。

5. 社会保障が変わる:本質はヒト不足の問題
そうした人手不足の問題が特に課題となるのが、社会保障サービスの分野だと考えられる。社会保障の問題はしばしば財政、カネ不足の問題として捉えられがちであるが、その本質はヒト不足の問題だ。将来の高齢化の進行や高齢者人口の増大に伴い、特に需給のひっ迫が予想されるのが介護業である。2020年を基準とした介護職員数の不足数は2030年に53万人、2040年には105万人、2050年には122万人に上ると推計される(資料5)。
日本経済も賃金上昇の定着が見られつつある中で、半官半民の性質を持つ医療・介護などの社会保障サービスの賃金水準は、財政負担を抑える観点でも他の民間業種に比べて抑制的になりがちである。このため、公的サービスの雇用は景気に対してカウンターシクリカルな性格があり(注1)、人手不足のもとで賃金上昇が進む中で、人材確保は一層難しくなっていく可能性がある。仮に政府が保険給付を拡大して賃金水準の引き上げを進めることで雇用を集めることができたとしても、働き手の減少が進む日本経済において、その貴重なリソースを公的サービスに集中させることが経済成長との兼ね合いも含めて正しい選択なのかどうかは議論が尽くされなければならない。医療や介護の供給体制を含めた公的サービスの生産性改善が抜本的な解にはなるが、公的サービスの「集約・効率化」などはサービスの質低下につながる側面も出てくる。また、サービス集約化の観点では、先に議論した地方行政の在り方も絡んでくるため、話は一層複雑である。

6. 需要が変わる:増える需要と減る需要
人口構造の変化は、需要構造にも大きな影響を与えるだろう。大まかには高齢者向け市場が拡大する一方で、若年層向け市場は縮小、産業構造が大きく変化するという状況を生み出すだろう。介護、医療、健康食品など、高齢者向け市場の拡大が今後も見込まれる。一方、教育など若年層や子ども向け市場は縮小することになる。生成AIの力も借りながら、大まかに人口動態の変化で増える需要、減る需要をまとめてみたものが資料6である。高齢化や労働力の減少に伴って、健康や労働を代替するAI、ロボティクスに対する需要は拡大する。一方で、ファミリー層や学生をターゲットとしたサービスなどは縮小を迫られることになる。特に高齢者の多い地域経済においては、高齢者向けサービスへの特化が進み、地域経済の多様性が失われるという課題も生じそうだ。
また、需要の変化に伴って、マクロ経済の需給バランスが今後どう変化していくのか、という点でもある程度予断を持つ必要があろう。先には労働力人口の減少に焦点を当て、社会保障の人手不足深刻化などを論じてきたが、人口の減少は当然ながら総需要の減少要因でもある。人口減少や高齢化が総需要減少要因(デフレ要因)なのか、総供給減少要因(インフレ要因)なのかという議論は過去から日本においても盛んになされてきた。2025年は団塊世代のすべてが後期高齢者となる年でもあるが、同じ高齢者でもアクティブシニアとも称される前期高齢者に比べ、後期高齢者の消費意欲は低い。そうした点でも需要がどう変わるのか、が重要な論点である。

7. 「5つの変化」への対応で日本は先駆者になれるか
日本は高齢社会の進行の中で生じる「5つの変化」のもとで、前例のない課題に対して一つ一つ解を示していくことが求められている。これは、「危機」であると同時に「機会」であるという発想も必要になるだろう。多くの先進国において少子高齢化と人口減少は共通課題であり、程度や時期の差こそあれ、同様の問題に多くの国や地域が直面することになる。先んじて課題に直面する日本はその対応において「先駆者」となる可能性も秘めている。
冒頭で述べたように、当研究所では日本の人口に関する分析を強化していく。日本における分析の蓄積や経験、そこで導き出されたソリューションは、日本のみならず他国にとっても多くのインプリケーションがあるものとなるはずだ。
【注釈】
- Economic Trends「医療・介護の人手不足は一層深刻な局面へ」(2018年)など。
星野 卓也
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。