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2025.07.23
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ライフデザイン調査
生活者のサステナブル行動を促す要因は何か?
~求められる社会変革に対する自己効力感~
鄭 美沙
- 目次
1.年齢とともに低下する社会変革に対する自己効力感
日本の若者は、社会の形成に主体的に参画する意識が低いことが指摘されてきた。図表1は、日本財団が17~19歳を対象に実施した調査結果である。「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」という設問に「同意」または「どちらかといえば同意」と回答した割合は、2024年の日本では45.8%であった。確かに他国と比較して低い水準ではあるが、2022年の26.9%からは改善の兆しがみられている。

こうした意識の低さは、むしろ年齢が高まるほど顕著になる。当研究所が18~69歳を対象に行った調査では、「自分が動くことで社会を変えることができると思う」という類似の設問をたずねた(図表2)。その結果、「あてはまる」と「どちらかといえばあてはまる」の合計割合は18~20代が37%と最も高く、年齢が上がるにつれて低下する傾向がみられた。最も低いのは50代で、社会を変えられると思う人は約4人に1人にとどまっている。年齢を重ねるなかで「自分が行動しても社会は変わらなかった」という経験が蓄積され、諦めに近い意識が形成されている可能性がある。

この意識は「社会変革に対する自己効力感」と解釈でき、社会課題の解決や持続可能な社会の維持・発展に必要なマインドセットである。本稿では、調査結果から、社会や環境に対する行動を促す要因の一つである自己効力感に注目し、これがどのように作用しているかを確認する。
2.自己効力感とサステナブル行動の関係
自己効力感とは、心理学者のアルバート・バンデューラが提唱した概念である。江本(2000)によると、「ある行動を遂行することができると自分の可能性を認識していること」であり、自己効力感が高いほど、実際にその行動を遂行できるといわれている。図表2で示した「自分が動くことで社会を変えることができると思う人」は、社会変革という分野において、自己効力感が高い人といえる。
当研究所が行った調査によると、こうした自己効力感は、実際に社会の持続性にかかわる課題の解決に向けた行動(以下、サステナブル行動)に対してポジティブに作用している(図表3)。たとえば、「エコロジーや環境保護、リサイクルについて、日常的に意識している」に、「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」と回答した合計割合は、社会を変えることができると思う人、すなわち自己効力感の高い人では68%であった。一方、低い人では38.7%と30ポイントも開きがみられた。
同様に、「値段が同じなら社会・環境・人のためにもなる商品・サービスを選ぶようにしている」と「値段が高くても、社会・環境・人のためにもなる商品・サービスを選ぶようにしている」に該当する人も、自己効力感の高い人の方が25ポイント以上多かった。社会変革に対する自己効力感の高い人ほど、サステナブル行動を取っていることがわかる。

3.サステナブル行動を促す要因
サステナブル行動を促す要因は、自己効力感だけではない。サステナブル行動をする人がどのような属性なのかより詳しく確認するため、回帰分析を行う。回帰分析とは、結果に影響を与える複数の要因と、その影響度を分析する方法である。
図表4は、上述の3つのサステナブル行動それぞれを目的変数においた、回帰分析の結果である。目的変数は、それぞれ「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」に回答した人を1とするダミー変数である。また、「*」マークが付いている変数が統計的に有意、すなわち結果に影響を与えている属性となる。たとえば、一番左(1)の結果をみると、「自己効力感」の回帰係数は0.162***となっている。これは、社会変革に対する自己効力感が高い人ほど、「エコロジーや環境保護、リサイクルについて、日常的に意識している」可能性が高いという結果になる。一方、世帯年収は有意ではないため、今回の分析からは世帯年収の高さの影響はみられなかったといえる。

分析結果によると、(1)から(3)のすべてのサステナブル行動において、自己効力感が有意にプラスとなった。年齢や世帯年収など他の属性を考慮した上でも、社会変革に対する自己効力感がサステナブル行動の要因になっている。その他の要因については、(1)(2)では年齢が高いほど、また男性より女性の方がこうした行動をする可能性が高かった。一方、(2)(3)の「社会・環境・人のためにもなる商品・サービスを選ぶ」ことに対しては、世帯年収が有意にプラスとなり、年収の高さが行動に影響を与えていた。さらに、(3)の「値段が高くても」というケースでは、(1)(2)と異なり、年齢が低いほど行動する可能性が高く、性別の影響はみられなかった。
このように、自己効力感はいずれのサステナブル行動にも影響する一方で、年齢や性別、世帯年収はサステナブル行動の種類によって影響が異なることが示された。
4.エシカル消費への関心と世帯年収
自己効力感と同じく、「エシカル消費への関心」も、いずれのサステナブル行動に対しても有意にプラスになった。これは「社会・環境・人のことを考える消費スタイル(エシカル消費)に関心がある」に「あてはまる」または「どちらかといえばあてはまる」と回答した人である。
一般的に、サステナブル行動は、意識や関心と実際の行動に乖離があるといわれている。サステナビリティや環境問題に関心があり、問題意識は持っていても、実際の消費行動や生活習慣に反映されない現象である。これは「Say-Do Gap」と呼ばれ、その背景には、経済的コストやその行動へのアクセス、利便性などの問題がある。一般消費者だけでなく企業や組織にもみられ、社会的責任を掲げながらも、行動や成果に表れていない状況を示している。
Say-Do Gapは乗り越えるべき課題であるが、そもそも関心がなければ、行動には結びつきづらい。図表4のとおり、「エシカル消費への関心」は、すべての行動に対して有意なだけでなく、標準化回帰係数の値も大きく、その影響度は高い(注1)。つまり、Say-Do Gapがあるとしても、まずは「社会・環境・人のことを考える消費スタイル」に関心を持つことが、実際の行動の前提条件といえる。
次に、Say-Do Gapの背景にある経済的コストについて、実際に分析結果でも世帯年収が「社会・環境・人のためにもなる商品・サービスを選ぶ」ことに対してプラスの影響を与えていた。値段が高い場合、一般的に年収が高く経済的余裕がある人ほど、購入のハードルが低いと考えられるが、値段が同じであっても年収が高い人の方が選ぶ可能性が高いという結果になった。こうした商品・サービスは比較的割高になる傾向があるため、宮木(2025)が指摘するように、物価高で生活が苦しい中では、購入を控える傾向が強まるのは避けられないだろう。したがって、少なくとも値段が同等であれば、多くの人がよりサステナブルな方を選び、それが自身の満足度を高めるような消費スタイルの定着が求められる。
一方で、サステナブル行動に対して有意な影響がみられなかったのは、居住地および学歴である。居住地に関しては、大都市の方が消費や行動の選択肢が多く、アクセスの面から影響を与えていると考えた。たとえば、上述のような環境に配慮した商品が多いことや、公共交通機関の発達などにより環境負荷の低い移動手段を選択できる、といったことが推測される。しかし、分析結果によると、大都市に居住していることとサステナブル行動の関連はみられなかった。オンラインショッピングなどの普及により、地域ごとの消費へのアクセスの差は解消されつつあるのかもしれない。
さらに、学歴が高い方が、学習期間が長く、サステナビリティについて学ぶ機会が多いため、サステナブル行動にも積極的であると考えたが、こちらも影響はみられなかった。教育機関において学ぶ機会が多くない、もしくは学びが行動に結びついていない可能性がある。
以上をまとめると、自己効力感以外では、居住地や学歴といった属性よりも、エシカル消費への関心や世帯年収がサステナブル行動の要因になることがあきらかになった。
5.サステナブル行動を支える自己効力感
社会変革に対する自己効力感は、なぜサステナブル行動の要因になるのだろうか。自己効力感の提唱者であるバンデューラによれば、自己効力感は「結果予期」と「効力予期」の2つの要素から構成される。結果予期とは、自らの行動によって望ましい結果が得られると予測することである。効力予期は、自分がその行動を実行できるとの確信を指す。前者が結果に対する見通しであるのに対し、後者は自己の能力やスキルに対する評価である。
たとえば、「フードロス削減」というサステナブル行動を例にすると、結果予期により、「フードロスを減らすことが環境負荷を軽減する」と信じられる。そして効力予期によって、「事前に買い物の計画を立て必要な量を購入する」「消費期限を確認し残さず使いきる」といった具体的な行動を、自信を持って遂行できる。こうした効力予期は、計画どおりに行動できない場合でも断念せずに継続する意欲にもつながる。
サステナブル行動の社会や環境への影響は可視化されづらい。自分の行動が環境負荷の軽減にどれだけ貢献したのか、あるいは誰かの役に立ったのか、直接的に実感できる場面は多くない。そうした状況でも行動を継続するには、「社会や環境によい影響をもたらしている」と信じること、まさに結果予期が重要となる。さらに、社会課題を他人事とせず、「自分にもできることがある」と思う効力予期が実際の行動につながる。
このように、サステナブル行動と自己効力感は相性がよい。成果が即座に反映しにくい行動を継続するには、自らの行動の意義を信じ、それを実行できるという自信を持つことが不可欠である。したがって、社会変革に対する自己効力感の高さは、サステナブル行動を支える根本的な心理的要因といえる。
6.社会変革に対する自己効力感を高めるには
では、社会変革に対する自己効力感は、どのように高めればよいのだろうか。バンデューラは、自己効力感の形成には4つの源泉があるとしている(図表5)。

なかでも、1つ目の達成(成功)体験の蓄積が特に重要とされている。西野(2025)によると、校庭に設置する遊具の検討など、子どもが日常生活のルール決めに携わることで、「自分の行動が社会を変える力をもつ」ことを実感でき、国や社会の問題を自分のこととして考えることができる。まさに成功体験の積み重ねであり、このような経験を子どもの頃から積むことにより、社会変革に対する自己効力感が養われると考える。
第1節で述べたとおり、日本では年齢が高まるほど自己効力感が低下する傾向にあり、社会人になってからも小さな成功体験を積み重ねる必要がある。たとえば、現在多くの企業がサステナビリティレポート等を通じて、自社の社会課題解決に向けた取り組みや成果を発信している。主に外部を意識して発信されているが、従業員もまた主要なステークホルダーであり、社内への発信も同様に重視されるべきである。従業員に対して、日々の業務がどのように社会や環境に貢献しているのか、たとえ小さなことであっても具体的に伝えることは、従業員自身の成功体験となるだけでなく、図表5で示した社会的・言語的説得にもなり、自己効力感の向上につながる。
さらに、バンデューラは「集団的効力感」という概念も提唱している。自己効力感が「自分ならできる」という信念である一方、集団的効力感は「自分たちならできる」という集団全体で共有されるものである。個人の自己効力感が十分でなくても、組織としての効力感が高まれば、各メンバーが社会課題解決に向けて積極的に行動できると考えられる。
このように、社会変革に対する自己効力感を高めるためには、まず企業が従業員に向けて日々の貢献を可視化することが一案である。一方、個人としては、自分の行動によって起きた変化を些細なことでも意識することが肝要だ。自分の行動で社会は変わらないと思っていても、実は小さな変化は起きているかもしれない。そうした体験を積み重ねることで、自己効力感は高まっていく。個人で社会を変える自信はなくても、所属する集団として取り組むことで、社会変革に寄与することもできる。
社会課題解決に向けては、「自分が動くことで社会を変えることができると思う人」を全年代で増やすことが不可欠である。Say-Do Gapを乗り越えるには、経済的な負担の軽減やアクセスの改善など、サステナブル行動を取りやすい環境整備が必要になるが、それだけでなく、一人ひとりが持続可能な社会の創り手であると自覚し、その責任と可能性を認識することが求められる。
【注釈】
- 標準化回帰係数とは、説明変数を平均0、分散1に標準化して算出される回帰係数である。標準化により、単位や尺度の違いの影響が取り除かれるため、係数同士を比較することで各説明変数が目的変数に与える影響の大きさを評価できる。
【参考文献】
- 江本リナ「自己効力感の概念分析」日本看護科学会誌20(2)p39-45 2000年
- 工藤紀子「レジリエンスが身につく 自己効力感の教科書」総合法令出版 2024年
- 第一生命経済研究所「第13回ライフデザインに関する調査」2025年
- 西野偉彦「投票率向上のカギは「ルール決め」の経験に~家庭・学校・地域での意思決定に関わる主権者教育を~」2025年
- 日本財団「18歳意識調査『国や社会に対する意識』」2019年、2022年、2024年
- 日本予防医学協会「健康づくりかわら版」2023年
- 宮木由貴子「物価高騰と『エシカル消費』~生活苦とエシカル・アクションは両立できるのか~」2025年
- Bandura, A. Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215. 1997
鄭 美沙
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 鄭 美沙
てい みさ
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ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: ライフデザイン・ライフコース、金融リテラシー
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