ライフデザイン白書2024 ライフデザイン白書2024

物価高騰と「エシカル消費」

~生活苦とエシカル・アクションは両立できるのか~

宮木 由貴子

目次

1.近年の物価高騰と生活者における暮らしの感覚

今日の日本では物価の高騰が進み、長らく続いたデフレ状態から脱却しつつある。これは景気回復と成長の兆しであるものの、給与水準がそれに見合う形で上昇していないため、消費者にとっては単に日々の「生活苦」につながるものとして、ネガティブに捉えられている。

実際、日銀の調査でも「現在の物価上昇についての感想」として、直近で86.7%の人が「困ったことだ」と回答している(図表1)。

図表
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2.エシカル消費と物価

こうした中、これからの消費スタイルとして提唱されてきた「エシカル消費」はどのような状況にあるのだろうか。エシカル消費は、2020年に策定された政府の「第4期消費者基本計画」の中で、「地域の活性化や雇用等も含む、人や社会・環境などに配慮して消費者が自ら考える賢い消費行動」と定義されている。具体的には、開発途上国の生産者・労働者支援につながる「フェアトレード商品」、健康支援・環境配慮につながる「オーガニック商品」、障害者の自立支援に向けた障害者による生産物などの購入や、国内の森林の適正管理・保全につながる国産木材の利用など、該当する消費行動は多岐にわたる。被災地などの商品・サービスを積極的に購入する「支援・応援消費」もあてはまる。

国連が掲げるSDGs(持続的な開発目標)とも関係が深く、特に12番目の目標である「つくる責任、使う責任」において、消費環境をサステナブルなものにする企業・消費者双方のアクションとして推進されている。

一方、今日の消費者の行動をみると、「今後1年間、商品やサービスを選ぶ際に特に重視すること」としては6割前後の消費者が「価格が安い」ことを重視していることがわかる(図表2)。これに対し、「環境や社会に配慮している」とする割合は8%台と高くない。

一般に「エシカル商品」(エシカル消費とされる商品・サービス)は、そうでないものと比べて割高になる傾向があるため、物価高で生活が苦しい中では購入を控える傾向が強まるのは避けられない。実際、フランスでは気候変動等に危機感をもつ消費者によるオーガニック商品の購入が増加したものの、ウクライナ問題等でインフレが進んだことにより、2022年にはオーガニック食品の消費が大きく減退し、多くの専門店が閉店に追い込まれる事態となった(注1)。日々の生活と他者や環境への配慮を天秤にかけた場合に、多くの人が前者を選ぶことは避けられないだろう。

図表
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3.物価高だからこそのエシカル・アクションとは

では、消費者が価格を最優先して商品・サービスを選ぶ以上、物価高はエシカル消費と両立しえないのだろうか。答えは「NO」である。もちろん、すべてのエシカル・アクションが物価高と両立できるわけではなく、時代や状況に合う形で消費者に刺さる文脈を作り、長期的観点で浸透・定着させていく工夫は必要である。

日本では、まだ食べられるのに廃棄される、いわゆる「食品ロス」については、2019年に「食品ロス削減推進法」が施行されたこともあり減少傾向にある。しかし、依然として年間472万トンの食品ロスがあり、この量は世界中で飢餓に苦しむ人々に向けた世界の食料支援量(2022年で年間480万トン)とほぼ同程度となっている。このうち、約半分の236万トンは外食での食べ残しや商品の売れ残りなどである。

この問題について、2024年12月末に、消費者庁・厚生労働省から「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン」(注2)が出された。これは、食品ロスを減少させるというエシカルなアクションであるとともに、外食時の食べ残しを持ち帰ることができるという、物価高による生活苦軽減対策にもつながるものといえる。そもそも外食時の食べ残しの持ち帰りは、食品衛生法等で禁止されているものではないものの、腐敗や食中毒のリスク等への懸念や責任の所在の観点から判断が難しいところもある。しかし、ガイドラインの策定でこうしたアクションが推奨されることで、食品ロスが削減できるだけでなく、「食べ物を無駄にしない」というエシカル・マインドが浸透することも期待できる。外食のハードルが下がり、ウェルビーイングが高まる消費者もいるかもしれない。持ち帰りについては、店舗側だけでなく消費者側においても意識高く適切な形で行われることが求められることから、消費者としての責任感や役割意識が醸成されることも期待したい。

また、一部の事業者では、食品ロスを避けるため消費期限が近い商品や規格外商品等にポイントを付与する取り組みを実施している。生活費を抑えてお得に買い物をしたいと考える消費者の間では、「ポイ活」(買い物やサービス利用で付与されるポイントを効果的に貯めて商品購入や支払いに充当するもの)が普及している。値引き商品や見切り品を購入することが、単に節約ではなく「ポイ活」の一環となり、「ケチ・アクション」が「エコ・アクション」に転換されるうえに、「ポイントが溜まる楽しみ」という付加価値もある。溜まったポイントでの消費は、普段買わないものの購入や自分のためのご褒美的な消費に充てるというケースもあるなど、消費におけるメリハリや楽しみを創出する効果もあり、日々のウェルビーイング向上にも寄与するものといえる。

4.ウェルビーイングを実現する消費とエシカル・アクション

さらに、自らの消費スタイルを見直し、自分にとってより良い商品・サービスへの乗り換えを行うことで、ライフスタイル転換を図る動きもある。こうしたアクションは「換え活」と呼ばれることもある。コロナ禍や物価高騰などを経験し、単なる節約ではなく、自らのウェルビーイングに直結する暮らし方を目指すお金の使い方といってよいだろう。

シェアリングサービスを使用したり、使い捨ての日用品を再利用可能な商品にすることなども、単なる節約や合理性重視の観点だけではなく、自分や社会にとっての付加価値や丁寧な暮らし自体を楽しむ消費スタイルとして捉える人が目立つ。単なる自己犠牲による利他でもなければ、一方的な利己でもない、「社会にもいいし、自分にもいい」というWIN-WINな関係であることがポイントである。

つまり、エシカル消費においては、利他と利己をどう両立させる(ように感じる)かが重要になってくるといえる。「高いけれどエシカルだから買おう」という意識だけでの取り組みでは限界がある。エシカル消費がどの側面で自分の利己となるか、満足をもたらすかという文脈が必要なのである。むろん、地球の未来や将来の自分の暮らしという長期的な利点も、利己ではある。しかし、こうした消費のアクションが即時的・直接的にどう自分のウェルビーイングにつながるのかという観点からのアプローチが、エシカル消費の定着においてもっと考えられるべきであると考える。

5.社会の「当たり前」「常識」の変化に合わせた文脈の生成

一昔前は、シェアも食べ残しの持ち帰りも、「貧乏くさい」アクションとされた。現在もそうした感覚をもつ人は少なくない。しかし、「シェアは合理的だし、つながりなどの付加価値もあって新しい」「食べ残し持ち帰りは合理的だし、食品ロスゼロに向けた意識高い系アクション」といった感覚は、着実に定着している。「当たり前」「常識」は時代とともに変化するのである。

こうした時代や状況の変化に合わせて、消費者に刺さる文脈でのエシカル消費推進や規制改革を行うことが、長期的な視点での定着につながる。エシカル消費は、既述したフランスの事例のように、インフレで消費者が行動を変えることで簡単に廃れてしまうようなアクション・トレンドとしてではなく、日常的なマインドとして根付かせる工夫が求められる。むろん、宗教的な禁忌が多様に存在するように、エシカル消費においても、ヴィーガンやアニマル・ウェルフェアなど「エシカル」のあり方や考え方も人それぞれである。そうした中、いかに異なる価値観を受容しつつ自分の消費行動における意義を見出し、ウェルビーイングな日常を自ら形成するかが重要となる。

なお、「エシカル消費」という言葉は出現して相当の年月が経つが、一般の消費者における認知度は高くない。しかし、ゴールは言葉の定着ではなく、意識とアクションの定着である。この点に鑑みて、手段と目的をはき違えないよう留意したうえでエシカル消費を推進することが、これからの社会に求められる。


【注釈】

  1. 徳島県HP「TISネットワーク通信vol.21-REPORT(クレア)」

  2. 消費者庁・厚生労働省「食べ残し持ち帰り促進ガイドライン ~SDGs 目標達成に向けて」(2024.12)2023年12月に政府が取りまとめた「食品ロス削減目標達成に向けた施策パッケージ」に即して、食品ロスの削減の取組として、事業者が消費者による食べ残し持ち帰りについて合意する際に、民事上及び食品衛生法等の行政法規上留意すべき事項を整理の上、事業者としてあらかじめ対応しておくべき事項を整理すると共に、食べ残し持ち帰りの申出を行う消費者に求められる行動について整理することで、食べ残し持ち帰りに当たっての法的及び衛生的なリスクの低減を図り、食べ残し持ち帰りに係る事業者及び消費者双方の意識の変化や行動変容を推進し、食べ残し持ち帰りが双方協力の下で促進されることを目的とするものである。

宮木 由貴子


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。