よりよい未来をつくる主権者になろう!(全3巻) よりよい未来をつくる主権者になろう!(全3巻)

投票率向上のカギは「ルール決め」の経験に

~家庭・学校・地域での意思決定に関わる主権者教育を~

西野 偉彦

目次

1.「選挙イヤー」で注目される投票率の行方

2025年は国や地方の選挙が多く実施される「選挙イヤー」といわれている。6月の東京都議会議員選挙と7月の参議院議員通常選挙の他、さいたま市や横浜市などの首長選挙、さらに自治体の議員選挙を含めると枚挙に暇がない。

そのなかで懸念されているのが投票率である。たとえば、東京都議会議員選挙の投票率をみると、戦後は1959年をピークに上昇と下降を繰り返しながら低下傾向にあり、2021年の投票率は42.39%と、半数以上の有権者が棄権した(図表1)。

図表
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参議院議員通常選挙では、2022年の投票率は52.05%であり、戦後3番目に低い投票率を記録した(図表2)。近年、全国の選挙管理委員会の依頼で選挙啓発に関する講師を務めているが、多くの自治体において投票率向上に有効な手立てが見つかっていないのが現状である。選挙は民主主義の根幹であり、棄権者が増加すれば多様な民意が政策に十分に反映されない状況につながる恐れがある。

図表
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2.政治への無関心や諦めを乗り越えるための主権者教育

なぜ投票に行かない人が多いのだろうか。公益財団法人明るい選挙推進協会の調査によると、2024年10月に実施された第50回衆議院議員総選挙を棄権した理由のうち、上位5つは「適当な候補者も政党もなかったから」(28.6%)、「選挙にあまり関心がなかったから」(26.3%)、「体調がすぐれなかったから」(19.9%)、「仕事があったから」(19.4%)、「選挙によって政治はよくならないと思ったから」(18.6%)となっている(注1)。このうち、3位(体調)や4位(仕事)については、期日前投票の活用促進や、期日前投票所の新設・改善など既存の対策が考えられるだろう。一方、他の3つについては、有権者の「選挙・政治に対する無関心や諦め」がにじみ出ており、直ちに解決することは難しい。

どうすれば、「選挙・政治に対する無関心や諦め」を乗り越え、投票行動に結び付けることができるのだろうか。その取り組みの一つが主権者教育である。主権者教育とは、「国や社会の問題を自分のこととして捉え、自ら考え、自ら判断し、行動していく」ための教育である(注2)。2015年の公職選挙法改正による選挙権年齢の引き下げ、いわゆる「18歳選挙権」が実現して以来、主権者教育は高等学校を中心に取り組まれている。2022年度からは高等学校に新科目「公共」が導入され、その中に主権者教育が位置付けられた。2023年に公表された文部科学省の調査によると、主権者教育は国公私立高等学校などのうち94.9%で実施されている(注3)。

ただ、主権者教育の内容については課題がある。前述の文科省調査では、2022年度に高校1年生に対して主権者教育を行った学校のうち、「公職選挙法や選挙の具体的な仕組み」は76.1%に上っているが、「模擬選挙等実践的な学習活動」は38.2%、「現実の政治的事象についての話し合い活動」は29.3%にとどまっている。政治参加にあたっては、関連する法律や制度の学習も大切だが、それだけで選挙への関心を向上させたり、諦めを改善できるとは限らないだろう。

学校現場で実践的な学習活動や現実の題材を用いた話し合いなどの主権者教育を実施する割合が低い背景には、政治的中立性の確保が挙げられる。教育基本法第14条第2項には、「法律で定める学校は、特定の政党を支持し、または反対するための政治教育その他政治的活動をしてはならない」と規定されている。一方、前述の文科省による主権者教育に関する調査においても、「現実の題材を扱うことと政治的中立性の確保の両立が難しい」という教員の意見が報告されている。政治的中立性と実践的な学習活動のバランスを取ることが難しい状況が浮き彫りになっている。

3.家庭・学校・地域での「ルール決め」の経験者は選挙に行っている

それでは、どうすれば主権者教育において、実践的な学習活動や現実の題材をテーマとした課題に取り組むことができるだろうか。そのヒントになるのが「ルール決め」である。近年、「ブラック校則」などが社会的に指摘されるようになり、全国の学校や教育委員会で「校則の見直し」がムーブメントになっている。その背景には、2022年にこども家庭庁が設立され、子どもや若者の声を社会に反映していく「こどもまんなか社会」が目指されていることがある。「ルール決め」は、生徒会活動や校則の見直しなど学校に関することだけでなく、お小遣いの金額や家事の分担など家庭にも存在している。様々な法律や制度という「社会のルール」を議論し決定するのが政治であり、子どもの頃から身の回りの「ルール決め」に関わることは、政治参加に向けた実践的な学習活動であり現実の課題を扱うという意味で、主権者教育の新たなアプローチとして注目されている。

この「ルール決め」の経験は、有権者になった後の政治への関心や投票行動にも影響を及ぼす可能性があることが明らかになった。第一生命経済研究所が18歳~69歳の1万人を対象に2025年3月に実施した調査によると、子どもの頃に家庭や学校の「ルール決め」に関わったことがある人の6割以上が「政治に関心がある」と回答し、7割以上が「普段から選挙に行っている(投票している)」と答えた(図表3、図表4)。これは、ゴミ出しや見回り当番など地域での「ルール決め」の経験者でも同様の傾向がみられている。

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こうした「ルール決め」の経験は、どの年代においても、政治への関心を高めたり、選挙への参加を促す可能性があることも今回の調査でわかった(図表省略)。政治への無関心については若い世代を中心に指摘されることが多いが、投票率については全体的に低下傾向にあり、その意味で年代にかかわらず家庭・学校・地域での「ルール決め」の経験は投票率を向上させる可能性がある。

一方、女性は男性に比べると、家庭・学校・地域における「ルール決め」の経験者でも、有権者になった後に政治への関心を持ったり、選挙に参加している割合が低い(図表5、図表6)。女性の方が「ルール決め」を経験しても、実際の政治や選挙には結び付きづらいようだ。

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4.子どもの頃から身の回りの「ルール決め」に関わる経験を

もちろん、「ルール決め」は主権者教育の手段であり、目的ではない。家庭・学校・地域のいずれにおいても、何のためにルールが定められ、どのようにルールを決めるのか、あるいはルールを変えていくのかなどについて、必要な場面で丁寧な議論(話し合い)をすることが大切だ。重要なことは、それらのルールを決めるプロセスを大人だけで行うのではなく、子どもや若者も積極的に参画していくという点である。

拙稿「子ども・若者のウェルビーイングを向上させる『シティズンシップ教育』とは~社会に参画し課題解決する力を育むために~」でも述べたように、海外では子どもの頃からルール決めを経験させる国が少なくない。たとえば、ドイツには、地域の公園づくりに子どもが大人とともに関わったり、自分たちが通学する学校の校庭に設置する遊具の検討に小学生が携わることができる制度を設けている自治体がある。こうした仕組みにより、子どもは日々の生活に関係することがどのように決められていくのかを知る機会を得ると同時に、そのプロセスに関わる経験を通じて「自分の行動が社会を変える力をもつ」ことを実感できる。特に、若い世代の投票率が高い水準となっているヨーロッパ諸国では、子どもの頃からこうした日常の様々な場面における「ルール決め」の経験を積むことが、将来的な投票率向上につながっている。

国や社会の問題を自分のこととして考えるためには、まず家庭・学校・地域の中で身近な課題やルールを自分のこととして考える習慣や姿勢が大切である。その意味においても「実践的な学習内容」の充実が求められる主権者教育の一環として、子どもの頃から「ルール決め」に関わる経験を社会全体で一層推進していくことが必要である。


【注釈】

  1. 公益財団法人明るい選挙推進協会「第50回衆議院議員総選挙全国意識調査-調査結果の概要-」(2025年)

  2. 総務省「常時啓発事業のあり方等研究会」より、「最終報告書」参照。

  3. 文部科学省「令和4年度主権者教育(政治的教養の教育)に関する実施状況調査の結果について」(2023年)

 

【参考文献】

西野 偉彦


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

西野 偉彦

にしの たけひこ

ライフデザイン研究部 主任研究員
専⾨分野: 教育(子ども・若者の学校教育から社会人の学び直しまで)、Z世代やα世代の生活行動・価値観・社会参画

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