時評『医師の働き方改革とプログラム医療機器(SaMD)の活用』

島田 勇作

「働き方改革」は、働く人の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く人一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指した取組です。

具体的には、「働き方改革実行計画」(2017年3月28日働き方改革実現会議決定)にまとめられており、「賃金引上げと労働生産性向上」「長時間労働の是正」「柔軟な働き方がしやすい環境整備」「女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備」「病気の治療と仕事の両立」「子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労」「高齢者の就業促進」など様々な内容を含んでいます。

「長時間労働の是正」では、時間外労働の上限規制が2019年4月から一般の労働者に適用が始まり、医師などについては、2024年4月からスタートすることになりました。

日本の医療は、医療機関に勤務する医師の長時間労働により支えられており、「医師の働き方改革」とは、このような現状を改革し、医師が健康に働き続けられるような環境を整備することで、患者に提供する医療の質・安全を確保すると同時に、将来にわたって持続可能な医療提供体制を維持していくための取組です。

「長時間労働の是正」の具体的な取組としては、医師と他の医療職種との間で各職種の専門性を活かして、より質の高い医療を患者に提供する「タスク・シフト/シェア」の推進、医師の業務の見直し(複数主治医制の導入、患者や家族への病状説明の勤務時間内実施等)、その他の勤務環境の改善(子育て世代の医師が働きやすい環境の整備(短時間勤務等)、ICT技術の活用等)、地域医療提供体制の改革等があります。

2024年度の診療報酬改定でも、「医師の働き方改革」の推進のため、医師事務作業補助者による医師の業務への適切な支援に対して診療報酬点数の加算がされています。2024年度の診療報酬改定では、ICT、AI、IoT等の活用による業務負担軽減の取組の推進も重点課題とされており、「プログラム医療機器等指導管理料」などにより、プログラム医療機器(SaMD)の診療報酬での評価が明確化されています。

プログラム医療機器(SaMD:Software as a Medical Device)とは、アプリや人工知能(AI)などの技術が組み込まれた医療機器(ソフトウエアおよび記録媒体)であり、デジタル技術を活用して疾病の診断や治療・予防を支援し、汎用のコンピューターや携帯端末などにプログラムをインストールして使用することができます。

すでに、高血圧外来における高血圧治療補助アプリや禁煙外来におけるニコチン依存症治療アプリなどが利用されています。画像診断領域ではAIを活用した画像支援システムの実用化が進んでおり、AIが画像から病変部位を提示し腫瘍の悪性度を判定する内視鏡や異常所見の見落としを防止するCTなどが普及しています。

しかし、プログラム医療機器は、2022年度診療報酬改定では、画像診断領域での「AI」活用が初めて評価(診療報酬点数の加算)されましたが、高度の医療を提供する一部の特定機能病院にしか認められておらず、一般医療機関におけるプログラム医療機器の全国的な普及やプログラム医療機器への投資・開発が大きく広がっていませんでした。今回の2024年度の診療報酬改定で、「医師の働き方改革」の推進と合わせて「プログラム医療機器等指導管理料」が新設されたことにより、今後、特定機能病院以外の一般医療機関においてもデジタル技術を活用したプログラム医療機器の更なる普及が予想されます。

また、政府によるプログラム医療機器に対する承認審査の一部簡素化など規制改革が検討されており、コロナ禍でテレワーク/リモートワークやオンライン診療等が急速に普及したように、今後、「医師の働き方改革」の推進とそれを後押しする診療報酬改定により、デジタル技術を活用したプログラム医療機器の更なる普及とより精度の高い診療の提供が可能となることが期待されます。

島田 勇作


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