注目のキーワード『教員免許更新制の見直し』/編集後記(2021年10月号)

桝田 卓洋

目次

現在、幼稚園と小中高などの教員免許の有効期間は原則10年間であり、更新するには2年間で30時間以上の免許状更新講習の受講・修了が必要となります。2009年度から実施されているこの「教員免許更新制」は教員の資格維持に関わる大変重要なものですが、日頃から多忙な教員の負担が大きいことや費用が自己負担であること、また“うっかり失効”や過去に教員だった方の復職を妨げる事例が起きていることなどから、かねてより改善要望や教師不足の一因となっているといった意見が多く挙がっていました。また講習内容についても、最近の調査では6割弱の教員が総合的な満足度で「不満」「やや不満」と回答する結果が出ており、現在、中央教育審議会(文部科学大臣の諮問機関)に対して抜本的な検討を行うよう諮問がなされているところです。

そして去る8月23日に行われた傘下の免許更新制小委員会において、初めて今後に向けた具体的な方向性が示されました。その内容は、講習の質の向上、受講履歴管理やオンライン講習の提供を一元的に行うためのシステム導入、履修証明の発行などを構想することで体系全体をリニューアルし、教員免許更新制自体はその中で発展的に解消(廃止)していくというものであり、萩生田文部科学大臣はその後の会見の中で来年の通常国会での改正法を目指していく考えを表明しました。このことは報道でも大きく取り上げられました。

なお、今回示された方向性には留意すべき点がいくつかあると考えます。例えば教員の個別最適な学びの実現には、講習の質や品揃えの向上だけでなく、教員の多忙な状況を改善する働き方改革が伴わなければなりません。また実務面では、現在すでに7割以上の都道府県教育委員会で履歴管理を行っており、これらを全国一律のシステムに収斂していくことは新たに発足するデジタル庁も絡めた一大DXプロジェクトにもなりえ、その成否は予算規模や設計内容にも大きく左右されると思われます。さらに法制面では直近失効分の救済も含めた移行期間の取扱いなどへの細やかな配慮が必要となるはずです。

今回の見直しでは「廃止」に目が奪われがちですが、新しく目指す制度の要諦は、実は「働き方改革」「DX」「(地方の)デジタル・ガバメント」といった我が国の本質的な課題そのものであることに注目するべきだと思います。今後このような視点での検討と対策が十分になされることが期待されます。

(総合調査部・次長 桝田 卓洋)

編集後記

世界経済、金融の中心地であるアメリカでようやくパンデミックによる経済危機に対応した財政金融政策の正常化に向けた動きが始まった。手厚い追加的失業給付も9月には終了したことで、わざわざ感染リスクを冒してまで働きに出ることを躊躇させていた要因が一つ減った。今後は、サービス業を中心に順調に雇用が回復していくと期待されている。まあそうならなかったら大変なことになるが…

そして世界が注目していたFRBの金融政策。昨年量的緩和が始まった時から「どういうタイミングで収束に向かうのか?」「パウエル議長はうまく立ち回れるか?」ということが市場の注目点となってきた(誰もが当然のように近い将来必ず出口が来ると信じて疑わないことも考えてみれば凄いことだが)。

というのも、2013年の「テーパータントラム」の印象が強烈だからだ。当時FRB議長だったバーナンキ氏が突然量的緩和の縮小を示唆したことで世界の金融市場が混乱した。市場との対話に慣れたFRBですら、量的緩和という不安定な舞台の上で熱狂的に踊っていた人達に閉店を知らせ、混乱なく店仕舞いすることは難しいものだと多くの市場参加者が認識させられた。

今回は事前に期待インフレ率の上昇から金利上昇を経験、2013年の経験も踏まえFRBと市場のコミュニケーションもうまくはまり、大きな混乱なく年内緩和縮小を市場に織り込ませることができたと思う。実際はまだ始まってもいないが、市場には無事終わったかのような安堵感さえ感じられる。

ただ、アメリカの金融政策のトレンドが変わるとき、つまりUS$の金利、流動性が変わるわけで、世界の金融市場のどこかでそれなりに問題が起きる。安心するのは早いような気がする。(H.S)

桝田 卓洋


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