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- 「テクノロジーを信頼する」とはどういうことなのか
本コンテンツは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が管理法人を務め、内閣府が実施した「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/自動運転(システムとサービスの拡張)」(NEDO管理番号:JPNP18012)の成果によりまとめられた記事を転載したものです。
ナイロビでみたアンビバレントな社会
10年ほど前、家人がナイロビ在住だったため、2度ほどケニアに行った。御多分に漏れず、訪問前はケニアに対して「なんとなくアフリカ」というイメージしかなかったため、現地で様々な驚きに遭遇した。そもそもアフリカには50カ国以上あるわけだから、「アフリカのイメージ」などというものがざっくりしすぎであることは自明なのだ。実際に行ってみれば、当然ながら首都ナイロビでマサイ族は民族衣装を着ていないし、道端でライオンに遭うこともない。
ナイロビで見たのは、24時間営業の巨大なハイパーマーケットが点在し、高層ビルが立ち並ぶ光景。そしてそこからいくらも離れていないところにアフリカ最大級のスラムである「キベラ」があるという実態だった。物価も、ハイパーマーケットと観光客も立ち寄るような地元のマーケット、さらにスラムと、多層構造になっているような印象だった。
社会信頼の低さが促進したテクノロジー受容
そこで驚いたのが、当時のケニアで多くの人が使っていた「M-PESA(エム・ペサ)」といわれる電子マネーである。「ペサ」はスワヒリ語でお金を意味するので、モバイル・マネーという意味のようだ。日本では、昨今ようやく「何とかペイ」のようなものが普及してきたが、まだ利用者は多いとはいえない。しかし、既に10年前のケニアで、農村部でもスラムの住人においても、この「M-PESA」を使った決済や送金が当たり前のようにされていた。
その背景には、治安が悪いせいで現金を持ち歩くことが危険である一方で、銀行口座を持てない人が多く、現金の取り扱いに困っていたという事情があった。急速な経済発展に伴って、地方から都市部に大量に人口が移動し、残してきた地方の家族に送金する需要も大きかった。他方、新興国にありがちだが、ケニアでもあっという間に携帯電話の普及が進んだ。「M-PESA」はこの携帯電話を使って送金や決済を行うのだ。
サバンナに住むマサイ族の村を訪ねたときも、彼らが携帯電話を使っているのに驚いたものだ。昨今のマサイ族も、都市部に出稼ぎに出ることが多いので、「M-PESA」を使って仕送りなどもしていたようだ。
自動運転の社会的受容性を考える上で重要な「現状」
本件からは、自動運転の社会的受容性を考える上でのインプリケーションが得られる。テクノロジーの受容においては、「明快なニーズの有無」と「人とテクノロジーの信頼性比較」について考える必要があるということだ。ケニアでは「金のやり取りや所持を安全に行いたい」という強いニーズと、それが著しく実現できていない現状があり、テクノロジーがそれを解決した。そして、「人(マンパワー)への信頼性」よりも「テクノロジーへの信頼性」のほうが明らかに高いという共通認識もあった。
翻って考えると、日本ではマンパワーへの信頼性が高い。何かトラブルが生じたとき、ケニアでコールセンターなどに訴えてすんなり解決するというプロセスは、正直望めないと現地の人はこぼす。しかし、日本では最終的に「人」がテクノロジーのフォローまでする文化がある。むしろ「お客様の声を聞き逃さない!」という姿勢で、コールセンターの充実に注力する企業は少なくない。
インターネット経由で行政サービスを利用する人の割合についての国際比較調査(内閣府)をみると、日本はブラジルやチリ、メキシコなどを比べても格段に低い。これは、テクノロジーに対する信頼性云々以前に、テクノロジーを使う「明快なニーズ」がないことによるものと考えられる。テクノロジーが「人より格段に便利」であるか、もしくは現在は人で賄えているが労働力不足などで「今後賄えなくなる」、といった大きなインパクトがないと、なかなか人は行動を変えないのではないだろうか。
自動運転の社会的受容性を考える上でも、これらの点を加味する必要があると思われる。換言すれば、「日本」という社会の文化や特徴を理解し、それに合わせた受容プロセスを考えることが重要である。社会受容性の醸成に関して国際比較調査を行う場合も、こうした点に留意する必要がある。
こうした中で、自動運転の社会実装に向けた受容性醸成のポイントは大きくふたつ。「なぜ、自動運転が必要なのか=WHY」という点と、「自動運転で何が実現できるのか(どのような社会課題解決が期待できるのか)=WHAT」を消費者が理解することではないか。
- 宮木 由貴子
みやき ゆきこ
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取締役・ライフデザイン研究部長
主席研究員
専⾨分野: ウェルビーイング、消費スタイル、消費者意識、コミュニケーション、自動運転の社会的受容性醸成
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