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米国際貿易裁、トランプ政権の通商法122条関税を違法と判断

~短期的な影響は限定的も法廷闘争が続くか、関税政策の見直しを迫られる可能性も~

西濵 徹

要旨
  • 米国際貿易裁判所(CIT)は通商法122条を根拠とした10%関税を大統領権限の逸脱として違法と判断した。ただし、差し止めは提訴した2社とワシントン州のみに限定し、全米規模の差し止めは認めなかった。CITは2025年5月にも国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税を違法と判断しており、これは連邦最高裁で2026年2月に確定した。政権はその代替として通商法122条関税を発動したものの、同条文は固定相場制下の危機対応を想定したものであり、「国際収支赤字」を根拠とすることへの疑義が示された。
  • 政権は連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に上訴すると予想されるが、CAFCは相互関税訴訟でCITを支持した前例があり、連邦最高裁まで争いが続く可能性が高い。同条文は金本位制放棄後の現在には適用が困難との指摘がある。また、政権が「国際収支赤字」と「貿易赤字」を混同して主張したことは不適切であり、政権自身も両者の概念的な違いを別訴訟で認めていたため、CITの判断はその前例を踏まえたものと考えられる。今回の差し止めは限定的であり、関税政策への即時の影響はない。しかし、相互関税をめぐる返還命令など混乱が続くなか、関税を交渉カードとする政権の政策運営は見直しを迫られる可能性がある。
目次

【米国際貿易裁判所はトランプ政権が発動した通商法122条関税を違法と判断】

米国際貿易裁判所(CIT)は5月7日、トランプ米大統領が1974年通商法122条を根拠に、すべての国からの輸入品に150日間限定で10%の関税を課す大統領令を発動したことについて、大統領権限を逸脱していることを理由に違法と判断した。そのうえで、CITは提訴した2社とワシントン州に対してのみ、トランプ米政権による関税執行を直ちに差し止めることを決定した。これは全米を対象とした差し止め(universal injunction)ではないことを明確にするとともに、ワシントン州以外の州に対して原告適格を欠くと判断したことを意味する。その理由について、CITは州政府が直接の輸入業者ではないうえ、企業が関税コストを転嫁した結果として物価上昇の影響を受けたと主張したことを根拠に挙げている。なお、判決は2対1の多数決で決定しており、1人の判事は原告企業に勝訴を認めるのは時期尚早であるとの意見を示した。

CITを巡っては、2025年5月、トランプ氏が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠にした相互関税を連邦議会の承認を経ず発動したことについて、大統領権限を逸脱していることを理由に違法とする判断を下している。この判決に対してトランプ米政権は即時抗告したものの、米連邦最高裁判所が2026年2月に支持する判断を示したことで確定した(注1)。連邦最高裁の判決を受けて、トランプ米政権は相互関税を停止させるとともに、その代替手段として前述した通商法122条関税を発動させた経緯がある。しかし、トランプ米政権が根拠とした1974年通商法122条は固定相場制のもとでの危機対応を想定した法律であるうえ、関税発動の主要要件とした「国際収支赤字」について根拠が薄弱と理由づけた。こうしたことから、トランプ米政権と裁判所の間に大きな溝があることは間違いないであろう。

【当面は法廷闘争が続くと見込まれる一方、トランプ米政権の関税政策に影響を与える可能性も】

トランプ米政権は今後、2025年の相互関税の際と同様に連邦巡回控訴裁判所(CAFC)に上訴する可能性が高い。しかし、CAFCは相互関税に関する裁判においてもCITの判断を支持したことに鑑みれば、連邦最高裁判所まで法廷闘争が続くことは避けられないであろう。

トランプ米政権は1974年通商法122条関税の発動に際して、米国が「大幅かつ深刻」な貿易赤字を抱えることを理由に、関税発動が正当化されると説明していた。条文に基づけば、資金の流出入に関する懸念への対応を目的に、大統領は短期的に関税を課す権限を有するとしており、その理由に「大規模かつ深刻な米国の国際収支の赤字」や「ドルの大幅かつ差し迫った下落」が含まれている。そのうえ、他の関税発動につながる法的手段と異なり、1974年通商法122条はUSTR(米通商代表部)など連邦機関による調査を行うことなく発動が可能である。

しかし、前述したように1974年通商法122条は固定相場制度を前提にした危機対応を想定するなか、原告企業や州は、米国が金本位制を放棄したことで同条文そのものが当てはまらないと主張した。そのうえで、同条文の適用を正当化することを目的に、トランプ米政権が国際収支赤字と貿易赤字を混同する形で主張したことは不適切であり、トランプ米政権が挙げた貿易赤字は国際収支の構成要素の一部に過ぎないと主張した。なお、トランプ米政権は相互関税に関連する訴訟において、貿易赤字と国際収支赤字は概念的に異なると認める形で主張していた。したがって、今回のCITの判断はこの前例を援用する形で導き出された可能性が高い。

今回のCITによる判断では、主に野党・民主党が主導する24州が求めたすべての輸入業者を対象とする関税差し止め命令の発令は退けられている。したがって、今回の判決が直ちにトランプ米政権の関税政策に影響を与えるわけではない。しかし、相互関税を巡っては、米連邦最高裁による違憲判決と、その後にCITが徴収した関税の返還を命じたことで、順次返還が行われるなど混乱が生じている。トランプ米政権は、関税政策をてこに相手国に対して「ディール(取引)」を持ち掛ける動きを積極化させてきたものの、そうした政策運営は見直しを迫られる可能性がある。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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