トランプ関税ウォッチング トランプ関税ウォッチング

中国は米国を代替するパートナーとなりうるか?

~文化的、社会的、経済的な側面からの分析~

前田 和馬

要旨
  • 諸外国がトランプ関税を背景に米国への信認に疑問を抱くなか、中国が代替的なパートナーとして存在感を示しつつある。アジア諸国は中国との文化的な類似性を持つほか、新興国は主要先進国よりも中国に好意的な印象を抱いており、トランプ関税はこうした傾向をより一層強める可能性が高い。しかし、一部の資源国を除けば、東南アジア諸国など多くの新興国は米国が主要な最終需要先であり、中国がこれを代替する経済パートナーとなりうるかには疑問が残る。

4月2日、米国は同盟国を含む全ての国に対して最低10%の相互関税を発動することを公表した。14日、バイデン政権下で財務長官を務めたイエレン氏は「トランプ関税が同盟国による米国への信任を損ねている」と指摘した。一方、中国の習近平国家主席は11日にスペインのサンチェス首相、14日にはベトナムのファム・ミン・チン首相とそれぞれ会談するなど、各国との関係強化に向けた動きを示している。

米中対立が激化するなか、日本を含む諸外国は米中両国との外交関係をどのように築いていくのかの岐路を迎えている。本稿では諸外国にとっての中国と米国の位置づけを、文化的・社会的・経済的な側面から考察する。

文化面:アジア諸国と中国の類似性

世界価値観調査を基にした「イングルハート-ヴェルツェル図」は各国の文化的な類似性を見る代表的な指標である(図表1)。同図は縦軸に「伝統的か世俗的・合理的か」、横軸に「サバイバルか自己表現か」を示し、各国・地域における価値観を相対的に比較する。例えば、伝統的価値観は宗教や従来の家族観の尊重、ナショナリズムの強さ、保護貿易への支持などと密接に結びつく。一方、横軸に関しては経済的・物質的な安定を重視し、多様性に否定的であれば「サバイバル」、主観的な幸福や個人の自律性を強調する場合は「自己表現」に分類される。これらの二つの観点に関して、同一地域や隣接する国々は文化的な類似性を示す傾向が強い。なお、同図は各国・地域における国民のあくまで「平均的な傾向」を定量的に分析したものであることに留意されたい。

中国は世俗的であり、サバイバルと自己表現が概ね均衡している。同様に世俗的であり、ややサバイバルな価値観を持つのがロシア、やや自己表現なのが中国と隣接するモンゴルや東欧のハンガリーである。また、中国と同様に「サバイバル-自己表現」が概ね均衡しており、より世俗・合理的なのが東アジアの台湾・韓国・香港、世俗的要素が弱いのがマレーシアやタイなどの東南アジア諸国となる。総じて、アジアや東欧諸国が中国と文化的な類似性を持ち合わせている。

一方、米国は中国よりも世俗的な価値観が弱い一方、自己表現の度合いは明らかに強い。こうした自己表現を重視する価値観は英国やドイツ、カナダ、オーストラリアなどの主要先進国のほか、北欧のスウェーデンやデンマークなどでみられる。すなわち、西側諸国は中国よりも米国の方が文化的な類似性を有している。また、中東やアフリカ、南米の多くの国々は伝統的かつサバイバルな価値観を有しており、米国との文化的な類似性を特に見出しにくい。

ちなみに、日本は自己表現の度合いは米国に近いものの、世俗的な度合いが調査対象国のなかで最も強く、米国と中国の双方とも文化的な差異がみられる。

図表
図表

社会面:総じて親米感情の方が強いが…

もちろん、こうした文化的な類似性は必ずしも好意的な対中感情に直結するわけではない。米シンクタンクのPew Research Centerが2024年1~5月に実施した「Global Attitudes Survey」に基づくと、調査対象の35か国中27か国において、米国に好意を抱く国民の割合が中国のそれよりも多い(図表2)。特に中国との間に領土・領有権問題を抱える日本、韓国、フィリピンなどでは親米感情が顕著だ。また、欧州を中心とした西側諸国でも米国への好意的な見方が確認される。一方、メキシコや南アフリカなどの一部の新興国では米国に好意を抱く割合が中国より多いものの、その差は必ずしも大きくなく拮抗している。実際、西側諸国では「中国経済が自国経済に悪い影響を及ぼしている」との見方が大勢を占める一方、これらの新興国では「良い影響を及ぼしている」と考える国民の割合が高い。また、マレーシアやシンガポールなど国民に占める華人の割合が多い国では親中感情が目立つ。

トランプ関税が各国経済に大きなダメージを与える場合、幅広い国において対米感情の悪化、及び対中感情の相対的な改善へと繋がる可能性が高い。とはいえ、親米感情が顕著な日本や韓国、或いは西側諸国において、中国と米国への好意的な見方が短期的に逆転する可能性は低いだろう。一方、米国と中国への好意的な見方が拮抗する一部の新興国においては、トランプ関税によって国民感情が親米的から親中的へと転換する契機となるかもしれない。

図表
図表

経済面:主要輸出先としての米国

しかし、トランプ関税が親中感情を高める場合においても、中国が米国を代替する経済パートナーとなる国は多くないとみられる。例えば、東南アジア諸国は米国よりも中国との貿易額が多いものの、貿易収支でみると対米では大幅な黒字、対中では赤字の傾向が強い(図表3)。すなわち、米国は主要な販売・輸出先(最終需要先)、中国は輸入先(仕入れ先)と考えられるなど、経済的な関係性は大きく異なる。今後こうした経済構造が大幅に変わらない限り、新興国の親中感情が多少高まろうとも、米国との経済的な結びつきを弱め、逆に中国との経済的連携を強化する動きには限界がある。一方、サウジアラビアやブラジルなどの資源や農産品を輸出する国々は対中貿易黒字を計上しており、これらの新興国では中国との経済的な関わりがより一層強まる可能性がある。

中国経済を巡る不動産不況や過剰生産能力の懸念を踏まえると、対米輸出の不振を対中輸出で補える国は多くない。2023年時点における米国と中国のGDP規模の違いは1.6倍(2010年:2.5倍)まで縮小している一方、個人消費に限ると違いは2.3倍(2010年:4.3倍)、世界の個人消費に占める米国の割合は29.1%(中国:12.8%)と、最終消費需要先としての米国マーケットは依然圧倒的な存在感を持つ。トランプ関税が多くの国々の対米外交方針に見直しを強いることは確かであり、中国との関わりを強める国々が増えると見込まれるものの、それが米国から中国への外交方針の完全転換へと繋がる可能性は低いだろう。  

図表
図表

図表
図表

以上

前田 和馬


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

前田 和馬

まえだ かずま

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ