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対中関税戦争の代償となるレアアース2

~重要鉱物の自前確保に向けて退路を断ったトランプ関税~

嶌峰 義清

要旨
  • トランプ大統領(1期目)はレアアースを含む重要鉱物について、重要な供給リスクにさらされているとして、自国での採掘、生産に向けた大統領令を数多く出している。こうした動きは、バイデン前政権でも受け継がれ、米国が安全保障上重要なリスクと認識していると考えられる。
  • レアアースの供給は中国の寡占状態にあるため、トランプ関税によって米国はその供給が途絶するリスクにさらされている。見方を変えれば、米国はレアアースを含めた重要鉱物の供給網の確立に向けて退路を断ったとも言える、
  • ハイテク製品、環境対策に欠かせないレアアースの確保は日本でも重要な問題であり、トランプ関税後の世界で米中がより分断するリスクを見据えて、日本はその立ち位置をはっきりとさせる必要があろう。

関税と合わせて急ピッチで進む重要鉱物への対応

トランプ大統領は3月20日に「アメリカの鉱物生産を増やすための緊急対策」と題した大統領令14241号に署名した。これを受けて、事業計画や許可申請などが提出されている鉱物の生産プロジェクトの中から優先プロジェクトを特定し迅速な許可を与えるよう促すほか、埋蔵量が判明している全ての連邦所有地リストを提出すること、「国防生産法(DPA)」を活用して大統領権限の下で国防に必要な資材やサービスの供給のため米国国際開発金融公社(DFC)などに資金調達オプションを特定することなどを指示した。指定されている期限から、すでに優先プロジェクトの特定と許可、重要鉱物の所有地リストと埋蔵量については提出されていると考えられる。

さらに4月15日には、「232条措置による加工重要鉱物および派生製品に関する国家安全保障および経済的強靭性の確保」と題する大統領令が発令された。これは米国が指定した重要鉱物(レアアースを含む)及びそれを原料としている部品が組み込まれている製品について、米国の安全保障を脅かすリスクがあると判断した場合に、大統領が関税などの措置を発動するという内容で、商務長官は270日以内に調査を完了し、大統領に報告することが求められる。

こうしたレアアースを含む重要鉱物に対する米国の慌ただしい動きは、中国を事実上の標的とした“トランプ関税”と密接にリンクしていると考えられる。筆者レポート「Global Trends 対中関税戦争の代償となるレアアース1~中国の独占状態にあるレアアースを米国は捨てる覚悟か~(25/4/10)」でも述べたように、米中間の超高関税は、両国間の貿易に著しい制限をかけるに等しいものだ。加えて、中国は一部レアアースについて輸出規制をかけた。これらの措置によって、一部のレアアース及びその精製をほぼ中国に委ねている米国は、その入手が困難になっていこう。レアアースを含めた重要鉱物の多くはハイテク製品や国防関連品に欠かせないため、米国はこれらの重要鉱物のサプライチェーンの新たな確立を急ぐ必要がある。

米国とレアアース①:重要鉱物の安定確保に踏み出したトランプ政権(1期目)

米国が、一部の鉱物について安全保障上のリスクがあることを問題視したのは1973年に遡る。この年、米国地質研究所は65種類の重要鉱物について、国内生産が不足していることに懸念を示した。1980年には約20種類の非燃料鉱物の輸入比率が50%を超えていることで、議会予算局がそのリスクと改善の提案を示した。

しかし、その後も状況は改善せず、レアアースに至っては温暖化対策としてEVや風力発電用の風車などに使用される磁石などの需要が急拡大する一方で、精製などを含めた供給は中国の寡占状況となり、2010年には中国がレアアースの輸出を4割削減する方針を打ち出したことで、価格が急騰して国際問題となった。こうしたなか、2016年には米会計検査院が重要鉱物の供給リスク低減のためのサプライチェーンの構築には15年を要するとした報告書を公表するなど、レアアースを含めた資源の安定確保は米国内で常に重要な問題として扱われている。

そして2017年12月、1期目のトランプ大統領は「重要鉱物の安全で信頼できる供給に向けた連邦政府戦略」と題した大統領令13817号を発令、“安全保障や経済活動に極めて重要な鉱物の大部分は米国内に大量にあるにもかかわらず、現在は輸入に依存している”として、重要鉱物リストの公表、新たな資源の発掘から回収、分離までのサプライチェーンの活動推進や、地形や地質などのデータアクセスの確立、加工、リサイクル、精製などの許可プロセスの円滑化などを商務省が中心となって各省庁と協力してまとめるよう指示した。

その結果、2018年には内務省地質調査所がレアアース元素、リチウム、コバルト、ニッケルなどが含まれる35の重要鉱物リストを公表した(図表1)。このリストを基に、国内生産の拡大、リサイクルおよび代替素材の研究開発、国際的な供給チェーンの多様化が推進された。

一方、国防総省は中国による市場寡占化への懸念を示すレポートを発行、これによりレアアースは国家安全保障上の重要課題として位置付けられることとなる。

具体的には、

①レアアースを含む重要鉱物が、兵器システム、通信技術、先進エネルギー技術など、国防技術システムや製造業全般において必要不可欠な役割を果たしていること

②中国がレアアースの採掘と精製の90%以上を占めており、これにより米国およびその他の諸国が戦略的に重要な仕入れ源に対して脆弱であり、供給途絶や価格操作による深刻な影響が懸念されること

などが挙げられた。

図表
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こうしたレポートなどを受けて、中国に依存しない供給ネットワークの構築のため、国内外の鉱山開発支援、環境評価プロセスの簡素化、および資源探鉱と生産技術の進展が奨励された。また、米国企業の海外鉱山権益取得を促進する政策も導入された。

さらに、コロナ禍中の2020年9月にはトランプ大統領は「戦略的および重要な材料の供給の強靭化」と題した大統領令13953号を発令、レアアースを含む重要鉱物資源の供給チェーンが中国を中心とした外国に依存していることは、国家安全保障及び経済安全保障に重大な影響を与えるとして、これに対する国家非常事態を宣言した。そして、国内供給強化のための連邦政府の権限活用、資金とリソースの動員を指示し、同盟国との協力の強化により、安定的な多国間サプライチェーンの確立を提言した。

一方で、資源採掘拡大のための新たな鉱山開発や、放射性物質を含むものが多いレアアースの採掘、精錬は、環境汚染に繋がるリスクが高いことも指摘されている。このため、トランプ大統領の重要鉱物開発奨励策に対する批判も高かった。

米国とレアアース②:環境対策のため重要鉱物政策を継承するバイデン政権

トランプ政権を批判して誕生したバイデン政権は、CO2削減や環境対策などを重視し、一見するとトランプ政権が行ってきた政策を否定してきた側面が目立ったが、重要鉱物戦略についてはトランプ政権時の政策を継承しつつ、更なる強化も図ってきた。

2021年2月、大統領に就任して1ヶ月あまりのバイデン大統領は、「アメリカのサプライチェーン」と題した大統領令14017号を発令した。これは、米国の重要なサプライチェーンの脆弱性を評価・強化し、将来的な供給途絶のリスクを低減することを目的としている。

具体的には、

①リスクと脆弱性の評価:各連邦機関に対して、特定の重要サプライチェーン(特定クリティカルミネラル、半導体、医薬品、バッテリー、電気自動車用バッテリー)に関する100日間の評価を指示

②長期的な戦略策定:農業、生物医薬品、防衛産業、情報通信技術などを含む各分野において1年間の評価を行い、関連する政策提案と具体的な行動計画を策定

③国内生産能力の強化:国内の製造能力を強化し、サプライチェーンの多様化を図る

④国際協力の推進:同盟国およびパートナー国との協力を強化し、グローバルなサプライチェーンの強靭性を高めるための国際的な連携を強化

⑤革新的技術への投資:リサイクルおよび新素材の開発を含む、サプライチェーンの技術的進展をサポートするための資金投入の拡大

となっている。

これを受けて同年6月には半導体、重要鉱物、医薬品、バッテリーなどの分野について詳細な報告書「強靱なサプライチェーン構築、アメリカの製造業の活性化、広範な成長の促進」を提出した。これによれば、戦略的重要物質のサプライチェーンについて、国家間の武力衝突段階でのシナリオと、それ以下のリスクについて、①供給先の集中、②単一の供給者、③価格ショック、④人的資本のギャップ、⑤紛争鉱物と組織犯罪、⑥強制労働、といった観点からリスク評価を行っている。

このなかでレアアースについては、特に「供給先の集中」が大きなリスク要因とされ、なかでもセリウム、エルビウム、ユウロピウム、ランタン、ネオジム、プラセオジム、ネオジム鉄ボロン磁石、サマリウムコバルト磁石、サマリウム、スカンジウム、イットリウム酸化物は、米国が市場支配者(中国)に依存している戦略的重要物質としてリストアップされている。レアアースはこのほかにも「人的資本のギャップ」、「価格ショック」についても高いリスクが指摘された。また武力衝突段階におけるリスクについては、レアアースは12品目が不足することが予想されるものとしてリストアップされた(図表2)。

このように、レアアースを含む重要鉱物については民主党政権下でも危機感が高かった。同年8月には民主党下院議員から米国製レアアース磁石製造企業に対する税額控除のための法案が提出されるなど(未成立)、共和党大統領であったトランプ大統領(1期目)の重要鉱物戦略が民主党政権下でも継承される動きを見せた。こうした流れは、トランプ大統領が1期目に発令した大統領令13953号「戦略的および重要な材料の供給の強靭化」に準拠した報告書をバイデン政権が作成したことで、より明確となった。

図表
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その後、バイデン政権は国内のインフラを大規模に更新・強化し、雇用を創出することを目的とした「インフラ投資と雇用法」を2021年11月に成立させた。ここでは、EV用バッテリーの製造や充電ステーションの拡大、クリーンエネルギー投資など、環境改善が雇用拡大、ひいては経済成長に繋がる点をアピールした。

ただし、こうした環境対策にはレアアースなどの重要鉱物の需要拡大が見込まれる。バイデン政権は戦略的蓄積の強化として国防産業基地への投資を強化し、特定の重要鉱物の戦略的蓄積を拡大、将来的な供給途絶に対する緩衝を設けるとともに、国内での加工及び製造能力増強を図った。同時に、カナダ、豪州、日本、EUなどの同盟国との協力を強化して国際的なアプライチェーンの多様化を推進したほか、重要鉱物の依存を減らすために新素材の研究やリサイクル技術の開発にも多額の資金を投入した。

このように、バイデン政権下でもレアアースを含む重要鉱物を安定的に確保するためのサプライチェーンの確立は重要視された。ただし、その目的は環境対策として、あるいは国防のための技術に欠かせない資源として、である。特にレアアース精製には環境負荷が大きいこともあり、自国内での生産から精製、製品化までを賄うのではなく、カナダや豪州、日本などの同盟国間でのサプライチェーン確立を重視した。

高関税で重要鉱物の供給リスクの低減化も図る“トランプ2.0”

2025年に誕生した2期目のトランプ政権「トランプ2.0」は、就任初日から多くの大統領令を発令している(4月22日時点でナンバリングされていないものを含めて130本)。その中で資源に関するものは9本だ(他に覚書1本)(図表3)。このうち3本は就任初日の1月20日に署名しており、その重要度と意気込みが伝わる。

これらの中には、バイデン政権下で推進された環境改善のための様々な施策が撤回される一方で、石油や天然ガスなどの化石燃料の生産拡大、自動車の環境規制の緩和など、パリ協定からの再離脱に象徴されるような“非環境的”な政策の推進が謳われている。このため、一見すると鉱業や製造業といった米国の古い産業を重視し、環境対策を軽視する“トランプ流”の政策が列挙されているようにも見られる。

図表
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もっとも、足元で世界を揺るがしている“トランプ関税”を加味して考えれば、トランプ大統領の資源関連の政策に対する見方も変わってこよう。

トランプ大統領が友好国・非友好国を問わずに相互関税を発動した狙いの一つに、米国の製造業の復活が挙げられる。米国が国際競争にさらされる中で衰退していった産業の従事者層が自身の支持層の中心であることからも、相互関税による輸入品価格の上昇によって相対的に国産品の価格競争力が引き上げられることで“製造業復活=支持層の雇用所得環境改善”とアピールしやすい。また、関税の引き上げによって輸入品が国内生産に切り替われば、トランプ大統領が“悪”と表現する貿易赤字の縮小に繋がる可能性もある。

しかし、戦前に戻るかのような高関税を世界中に課せば、米国が完全に世界の貿易システムから孤立することまではないものの、相当程度の“制限”がかかるものと見込まれる。とくに、超高関税を相互に課している唯一の国となっている中国との貿易は大幅に落ち込むリスクがあり、経済活動にも影響が出る恐れがある。

それでも米国が“偉大なアメリカ”を保つためには、国民の生活や経済活動、国防力を維持するための資源を自前で確保するしかない。幸いなことに、米国は主要なエネルギーと食料品については海外に輸出するほど豊富に存在する。しかし、最先端技術に必要不可欠な資源の一部については、海外からの輸入に頼っている。特にレアアースについては、米国内での消費量(図内では「見かけ上の消費量」と表記:米国内での生産量に輸入量を加え、輸出量を差し引いて算出したもの)や、その輸入依存度(見かけ上の消費量に対する輸入量の割合)についてのデータを見ると(図表4)、年ごとにやや変動はあるものの、輸入依存度は極めて高い水準にあることがわかる。

図表
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レアアースについては、(精製まで含めれば)そのほぼ全てを「戦略的競争相手」「経済・安全保障上の主要な脅威」と公式に位置づけて相互に超高関税を課している中国に依存している。加えて、中国はレアアースに輸出規制を課していることもあり、現状のままでは米国は精製済みのレアアースの供給が事実上絶たれることになる。

関税については、現在各国との交渉を行っており、個別には関税をかなりの程度引き下げることが実現する国が出てくる可能性もある。それにより、レアアースを含めた重要鉱物の輸入に対する障壁も撤廃、ないしは軽減することも考えられる。しかし、根本的なリスクとして、中国を筆頭に一部の国にその供給を依存する状況は変わらない。

米国がレアアースの供給リスクを軽減するには、以下の対応が必要となろう。

①米国内でのレアアース鉱山の開発や、軽希土類が多く含まれる石炭廃石の活用、重希土類を含むレアアースが埋蔵されている可能性があるとされる海底鉱床の発見のための予算を確保し、リソースを国家主導で配分する

②レアアースの精製技術を高め、設備と人員を確保する

③より効率的なレアアースのリサイクル技術を開発し、そのための供給網を確立する

④以上を可能とするために環境汚染対策技術の確立、あるいは環境関連法の改定などを実行

⑤十分な戦略備蓄の確保、維持

⑥レアアース採掘、精製コストの軽減化

⑦中国からのレアアース輸入に関税を課し、中国依存度を引き下げる

⑧戦争などの国家安全保障上のリスクが表面化した場合でも信頼できる親密友好国間でのレアアースの供給網の確立

上記に挙げた項目のうち、多くはすでに大統領令として動き始めているものである。見方を変えれば、トランプ関税(とそれに対する各国の反応)を含めて、米国は(“トランプ1.0”以降継続して)自国の安全保障確立のために必要な政策を執っているとも考えられる。

“トランプ1.0”以降、党派を超えて進められてきた重要鉱物の供給リスクの低減化に向けた動きは、トランプ関税によって退路を断ったとも言える。地政学的なリスクに鑑みれば、ロシアのウクライナへの侵攻は、台湾有事が現実化するリスクを想起させる。その場合に課せられるであろう経済制裁は、ロシアがそうしたように資源供給に甚大な影響が及ぶことも考えられる。こうした観点からも、米国では重要鉱物安定確保のための政策はより一層推進されよう。

こうした米国の政策は、ハイテク技術・製品の供給者でありながら、資源の大半を他国に委ね、レアアースにおいては米国と同等以上に中国に依存している日本とは無関係の問題ではない。目下、世界が米国に一方的に課せられた関税の引き下げに向けて交渉中だが、相互関税のない世界に戻ることは考えにくく、“トランプ関税”後の世界は、通商面で新たなブロックを形成していく可能性がある。それはやがて、政治的や安全保障的なつながりに発展していくことも十分に考えられる。日本は、世界が向かう先を見据えながら、米中との距離感を決めていく必要がある。


重要鉱物の定義として、①非燃料鉱物であり、経済と安全保障上不可欠なもの、②サプライチェーンが脆弱、③製品の製造に必要で、不足することによる経済または安全保障上の影響が甚大なもの、としている。

国家の緊急事態に米国の軍事、産業、民生上において供給の必要性があるものの、米国内に賦存していないか、或いはそのような必要性を満たすためには米国内での供給では不十分であるような物資。これらの一定量の備蓄を確保することを目的とした戦略的重要物質備蓄法は1946年に最初に制定され、その後時期に応じて改訂されている。

 

参照文献:東京財団政策研究所「トランプ政権の重要鉱物政策」(2018.10.15)

     独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構「2021年Biden政権成立後の米国レアアース関連動向」(2022.1.25)

嶌峰 義清


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

嶌峰 義清

しまみね よしきよ

経済調査部 シニア・フェロー
担当: 経済・金融市場全般、地政学

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