- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- トルコ中銀、2週連続で金を大量売却、金価格の逆風となるか
- Asia Trends
-
2026.04.06
アジア経済
トルコ経済
為替
イラン情勢
トルコ中銀、2週連続で金を大量売却、金価格の逆風となるか
~新興国中銀に金売却の動き、金価格のボラティリティを高める一因となっている可能性~
西濵 徹
- 要旨
-
-
「有事の金」として安全資産とみなされてきた金の環境が大きく変化している。2025年以降、主要国中銀の金融緩和、米中摩擦、中東情勢への懸念、新興国中銀のドル離れによる金購入拡大などを背景に金価格は急上昇し、2025年末以降はさらに上昇ペースを強めた。しかし、1月末に最高値を更新した後は上値が抑えられている。その要因として、金がリスク資産に近い値動きをしていること、ホルムズ海峡封鎖による原油高が供給起因のインフレをもたらし金のインフレ耐性が機能しにくいこと、FRBの引き締め観測と「有事のドル買い」によるドル高圧力が挙げられる。
-
足元の金融市場では、ドル高が強まるなかで新興国通貨安が進む動きがみられる。こうしたなか、トルコ中銀は3月の2週間で外貨準備の金を計118.4トン減少させるなど、2013年以降最速のペースで売却を進めている。原油高によるマクロ環境の悪化、慢性的な貿易赤字の拡大、リラの最安値更新と国内での資本逃避が背景にある。こうした動きはトルコ以外にも広がりつつあり、イラン情勢の不透明感が続くなかで金価格の上値は引き続き抑制されるとともに、当面はボラティリティの高い展開が予想される。
-
イラン情勢を巡る不透明感の高まりが金融市場を揺さぶる展開が続いている。通常であれば、「有事の金」などと称されるなど安全資産とみなされてきた金を取り巻く環境は、足元で大きく変化している。2025年以降の金融市場では、FRB(米連邦準備制度理事会)など主要国中銀による金融緩和を追い風に「カネ余り」が意識される局面が続いてきた。さらに、米中摩擦の激化に加え、中東情勢を巡る不透明感の高まりが懸念されたことも重なり、金価格は急上昇してきた。また、トランプ米政権の政策運営を巡る不透明感が米ドルに対する信認低下を招いた結果、新興国中銀は「ドル離れ」の動きを背景に、外貨準備として金の購入を拡大させた。これらの動きを受けて、2025年末以降、先物市場を中心に金価格は上昇ペースを強め、1月末に金価格は一時過去最高値を更新した。しかし、その後は不安定な動きをみせ、イラン情勢の悪化という「有事」にもかかわらず、金価格は上値が抑えられる展開が続いている。これには、2025年末以降の金価格の上昇局面においては、株高と金高の共存というこれまでの常識と異なる動きがみられるなど、金がリスク性資産のような値動きをみせてきたことも影響した可能性がある。加えて、イラン情勢を巡っては、イラン革命防衛隊によるホルムズ海峡の事実上の封鎖を理由に原油価格が上昇しており、全世界的なインフレを招くことが懸念されている。一般に金はインフレ耐性が強いとされるものの、これは貨幣価値の下落に起因する物価上昇の場合であり、足元の状況は供給要因による物価上昇であるなど状況がまったく異なる。足元ではFRBによる緩和観測が後退して引き締め観測が生じているうえ、「有事のドル買い」の動きも重なる形で米ドル高圧力が強まっている。

こうしたドル高圧力の高まりが、金価格下落の一因になっている。世界的に流動性を確保する観点でドル需要が高まる背後で、多くの新興国通貨に調整圧力が強まっており、原油価格の上昇によるインフレ懸念に直面する新興国のなかには、自国通貨安による輸入物価の押し上げを警戒する向きもみられる。こうしたなか、トルコ中銀は外貨準備における金が3月第3週(16~20日)に49.3トン、第4週(23~27日)にも69.1トンそれぞれ減少していることを明らかにした。これは、中銀がデータの公表を開始した2013年以降で最も速いペースだ。トルコは、原油や石油製品、天然ガスなどの収支(輸出と輸入の差し引き)がGDP比0.5%程度の赤字と試算され、足元の原油価格の上昇はマクロ面で景気の足を引っ張る。慢性的な貿易赤字を抱えるなかで赤字幅をさらに拡大させるうえ、物価上昇を引き起こすなど、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)を一段と脆弱にすることが懸念される。トルコ国内では外貨預金や金預金が増加するなど実質的な資本逃避の動きが広がりをみせており、足元のリラ相場が過去最安値を更新する展開に繋がっている。中銀は外貨準備の金を減らして売却やスワップ取引に充てて、リラ相場の防衛をしている模様である。トルコ以外の国においても、中銀が外貨準備の金の売却を検討しているとみられ、イラン情勢の見通しが立たないなかで金価格の上値を抑え、ボラティリティの高い動きが続く可能性に注意が必要である。


西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
OPECプラス有志8ヶ国、5月も日量20.6万バレル増産で合意 ~ホルムズ海峡の事実上封鎖で、合意は「絵に描いた餅」となる可能性は高い~
新興国経済
西濵 徹
-
AI需要で韓国3月輸出額は過去最高(Asia Weekly) ~輸出の堅調さが生産を押し上げる展開が続いている~
アジア経済
西濵 徹
-
中国民間PMIも供給主導の景気拡大示唆も、内需の弱さは深刻 ~製造業は供給拡大を示唆も、サービス業は内・外需ともに不透明さを浮き彫りに~
アジア経済
西濵 徹
-
インド中銀、ルピー支援策に舵も、楽観しにくい展開が続く ~対外収支悪化、物価高に加え、中東向け輸出や移民送金減少など悪材料が続く可能性~
アジア経済
西濵 徹
-
イラン情勢は「ドンロー主義」を促進、アジアで米国の影響力低下は必至 ~ホルムズ海峡への関与低下は、米国への不信感を一段と増幅させるか~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
中国民間PMIも供給主導の景気拡大示唆も、内需の弱さは深刻 ~製造業は供給拡大を示唆も、サービス業は内・外需ともに不透明さを浮き彫りに~
アジア経済
西濵 徹
-
インド中銀、ルピー支援策に舵も、楽観しにくい展開が続く ~対外収支悪化、物価高に加え、中東向け輸出や移民送金減少など悪材料が続く可能性~
アジア経済
西濵 徹
-
イラン情勢は「ドンロー主義」を促進、アジアで米国の影響力低下は必至 ~ホルムズ海峡への関与低下は、米国への不信感を一段と増幅させるか~
アジア経済
西濵 徹
-
インドネシア、市場改革は着実に前進も、イラン情勢次第の展開 ~原油価格上昇による貿易赤字拡大、財政悪化懸念が重しとなることは避けられない~
アジア経済
西濵 徹
-
トランプ氏の「終戦宣言」をアジア新興国はどう考えるか ~米国への不信感増大、影響力低下が見込まれ、日本の外交的立ち位置が重要になる~
アジア経済
西濵 徹

