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G7諸国の財政見通し国際比較

~IMF 2026年4月報告書をもとにした、日本の財政政策に関する示唆~

永濱 利廣

要旨
  • IMFの2026年4月報告書によれば、世界的に公的債務が高水準で推移し、利払い負担や防衛費等の構造的支出が増加する中、G7各国の財政状況は二極化している。深刻な国が米国であり、完全雇用に近い一方で巨額の赤字を抱え、債務残高のGDP比は2031年に142%に達する見通し。一方、最も改善が予想されているのが日本であり、インフレと名目成長により債務ダイナミクスが好転しており、2031年までに同比率が14ポイント低下すると予測。欧州を見ると、英国は増税等により改善、ドイツは投資優先の財政ルール改革により債務比率が上昇する見込み。

  • ただ、日本の財政は成長とインフレという「追い風」を受けているが、同時に新たなリスクにも直面と指摘。好転要因として名目成長と税収増が債務削減を後押しとする一方で、懸念要因として、国債利回りの上昇による利払い負担の増大、および少子高齢化に伴う社会保障費の膨張としている。

  • IMFの分析は、高市政権の政策に対する「理論的補強」と「規律への警告」の両面を併せ持っている。整合点としては「債務残高対GDP比」を重視する方針は、名目成長を活用するIMFの分析と整合的。また、科学技術・AI等への「戦略的投資」は、IMFが求める生産性向上策と重なる。一方、課題と警告としては、利払い費の増大に鑑み、IMFは「将来のショックに備えた財政余力」の再構築を要求。需給ギャップがプラスの現在、安易な積極財政ではなく、既存支出の合理化を伴う「段階的な財政調整」を提言している。

(参考)参照資料: IMF "Fiscal Monitor", April 2026, Chapter 1

目次

1.はじめに

2025年の世界経済において、公的債務の動向は改善せず、中東での紛争勃発が新たな財政圧力となっている。こうした中、G7諸国においても、高水準の債務、金利上昇に伴う利払い負担の増加、そして高齢化や防衛費といった構造的な支出増という共通の課題に直面しているが、IMFが先月公表したフィスカルモニターからは、その状況や対応は国ごとに大きく異なることがわかる。

そこで本稿では、今回公表されたフィスカルモニターにおけるG7財政見通しを国際比較する。

2.主要指標の概況と見通し

G7諸国を含む先進経済国全体では、2025年の財政赤字は対GDP比で概ね横ばいの2.4%(米国を除く)だったが、公的債務残高はパンデミック前の水準を依然として上回っている。

こうした中、非常に厳しい見通しとなっているのが米国である。完全雇用に近い状態でありながら、対GDP比7~8%という巨額の財政赤字を抱えており、具体的な財政再建計画も示されていないとIMFは指摘している。そして、公的債務残高は2025年の124%から、2031年までに142%に達すると予測されている(図表1・2)。

対して日本は、インフレ率の上昇と堅調な税収に支えられ、債務ダイナミクスには改善が見られるとしている。そして、債務比率は2031年までに10~14ポイント低下する見込みとなっている。

続いて欧州を見ると、英国は財政赤字がGDP比で12.9%(2020年)から2025年に5.4%まで縮小し、顕著な改善を記録したと指摘している。そして、これは増税やエネルギー支援策の終了によるものとのことである。一方のドイツでは、従来の保守的な財政姿勢から転換し、公共投資や防衛費を賄うための財政ルール改革により、債務残高のGDP比は2025年の63%から2031年には約74%に上昇する見通しとなっている。

図表
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3.日本の現状と債務ダイナミクス

特筆すべきは、日本の財政状況には改善の兆しが見られているという点だろう。この背景には、インフレ率の上昇、堅実なGDP成長、およびプライマリーバランスの赤字幅縮小が、債務ダイナミクスの好転に寄与していることがある。

特に債務残高の対GDP比を見ると、日本は、力強い名目成長に支えられ、2031年までに約14%ポイント低下すると予測されている。また財政収支の赤字を見ても、最近のインフレと堅調な税収が、債務削減を後押ししているとしている。

ただIMFは、改善は見られるものの、依然として複数のリスクと構造的な課題を指摘している。まずは、国債利回りの上昇である(図表3)。日本の国債利回りは高水準に達しており、これが他国へ波及する可能性が懸念されている。また、利払い負担の増加も指摘されている。というのも、金利の上昇に伴い、国債の利払い負担が増大しており、財政を圧迫する要因となっている。さらに構造的圧力として、少子高齢化に伴う社会保障関連支出の増加が、長期的な財政負担として重くのしかかっているとしている。

図表
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4. IMFによる政策提言と高市政権への示唆

以上の分析を受けて、IMFは日本が安定した経済成長と財政の持続可能性を両立させるために、以下の対策を講じる必要があると指摘している。

まずは、財政バッファーの再構築である。こちらは、将来のショックに備え、財政的な余裕を再構築することが優先事項とされている。また、段階的な財政調整として、GDPギャップがプラスでインフレが安定している現在の状況を活かし、債務を確実に減少軌道に乗せるための段階的な財政調整が求められている。さらに、財政調整を進める際、市場環境の安定を維持しながら慎重に進めることが重要としている。

とはいえ、今回のIMFレポートにおいて特筆すべきは、日本経済がインフレと堅調な名目成長を背景に、債務ダイナミクスが改善傾向にあると指摘している点だろう。そして特に、高市政権が主張する「債務対GDP比の安定的な引き下げ」を中核目標にするという方針は、今回のIMFによる「名目成長を活用した債務比率の低減」という現状分析と整合的といえる。

またIMFは、日本の債務比率が2031年までに大幅に低下する要因として、名目成長とインフレを挙げている。これは「増税よりも成長による税収増」を重視する高市政権のロジックを補強するデータとなり得る。

さらに、サナエノミクスの核心である「供給力(潜在成長率)を高めるための戦略的投資」についても、IMFの提言との関連が見られる。具体的にIMFは、防衛費やエネルギー転換、次世代技術(AI等)への支出増を構造的な財政圧力として挙げている一方で、高市政権が推進する科学技術・イノベーションへの官民協調投資は、IMFが「中長期的な成長に不可欠」とする生産性向上策と重なる(図表4)。ただし、IMFはこれらを「既存支出の合理化」とセットで行うべきだと釘を刺している。

一方で、今回のIMFレポートは、高市政権の積極的な財政出動に対して慎重な姿勢を求める材料も提示している。というのも、日本の国債利回りが記録的な高水準にある中、IMFは利払い費用の増大が財政を圧迫し始めていると警告している。このため、高市政権が積極財政を継続する一方で、IMFは「将来のショックに備えた財政余力の再構築」を強く求めている。特に、需給ギャップがプラスでインフレが安定している現在の「絶好の機会」を逃さず、段階的な調整を行うべきだと提言していることで、高市政権の財政運営に対しても示唆に富む内容になっていると言えよう。

図表
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永濱 利廣


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

永濱 利廣

ながはま としひろ

経済調査部 首席エコノミスト
担当: 内外経済市場長期予測、経済統計、マクロ経済分析

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