景気ウォッチャー調査から見る中東情勢悪化の影響

~供給制約への具体的な言及が明確に増えている~

新家 義貴

要旨
  • 2026年4月の景気ウォッチャー調査は、現状判断DIが40.8と2ヵ月連続で低下。3月の急低下後にもかかわらず一段と水準を切り下げており、景気下振れリスクの高まりを示す弱い結果となった。

  • 3月の景況感悪化は原油高や先行きの物価上昇懸念など価格面の影響が中心だったが、4月は供給制約による下押しがより明確になった。供給制約は、食品小売のトレー・包装資材、住宅・建設分野の資材不足や工事遅延、製造分野の生産制約などに広がり始めており、一部では実体経済への悪影響が確認される。

  • 今回の景気ウォッチャー調査は、価格上昇と供給制約の二つの経路を通じて、中東情勢の悪化が国内景気下振れの可能性を高めていることを示した。景気回復基調が直ちに崩れたとは言えないが、供給制約がこれまでの「リスク」から「現実」の調達難・生産制約として見え始めた点は重要である。

1. 前月の急低下に続き、一段の悪化

本日公表された2026年4月の景気ウォッチャー調査は、景気の下振れリスクの強まりを強く示す内容となった。現状判断DI(季節調整値)は40.8と前月から1.4ポイント低下し、2ヵ月連続で悪化した。3月に前月差▲6.7ポイントの急低下となっていた後にもかかわらず一段と水準を切り下げており、非常に弱い結果である。先行き判断DIは39.4と前月から0.7ポイント上昇したが、3月に前月差▲11.3ポイントもの急低下だった後の戻りとしては物足りず、水準も低いままにとどまっている。

4月には米・イラン間での一時的な停戦等もあったことに加え、株価も持ち直し傾向にあったが、家計・企業のマインドが持ち直すには至らなかった。中東情勢の悪化に伴う原油・石油関連製品・資材価格の上昇が家計と企業のマインドを広く下押ししていることに加え、一部では供給制約として実体活動にも影響し始めたことが影響しているとみられる。景気の回復基調が崩れたとまでは言えないものの、物価高による消費抑制、企業収益の圧迫、住宅・建設・製造分野での資材不足など、下振れリスクは明確に高まっている。

図表1
図表1

2. 「価格上昇」から「供給制約」へ

中東情勢の影響については、前回3月時点ですでに「原油高・物価高への警戒」や一部の「供給不安」として現れていた一方、4月にはそれがより広範かつ具体的な供給制約として表面化した点が重要だろう。3月の時点でも「原材料などが入手困難」「出荷制限なども行われている」「石油製品の今後の供給不安」などが指摘されていたが、3月の景況感悪化の中心はあくまで原油価格高騰、ガソリン高、燃油サーチャージ上乗せ、先行きの物価上昇懸念といった価格上昇が中心であった。だが4月は、調達難・入荷遅延・出荷制限・建設工事や製造への悪影響などのコメントがはっきり増加しており、供給制約による下押しがより明確になり始めている。

3. 原材料価格上昇による収益圧迫

4月調査でも価格上昇に関するコメントは多くみられる。家計部門ではガソリン・食料品・生活必需品価格の上昇や、先行きの物価高騰への懸念を受けた節約行動が幅広く確認される。ガソリン・灯油については補助金等により価格上昇が相当程度抑制されていることもあり、家計部門では中東情勢との関係が企業部門ほど明示的に語られにくい面がある。それでも、中東情勢の先行きに対する不安、先行きの価格高騰懸念による心理的な悪影響を通じて、購入点数の減少、低価格品へのシフト、高額消費の先送りといった形で消費行動に表れやすい。

企業部門では、中東情勢悪化と価格上昇の関係がより直接的に認識されている。原油・ナフサ・石油化学製品・包装資材・塗料・物流費などの上昇が、仕入れコストや採算に直結するためである。「中東情勢の不安定化により、資材等の原材料価格が上昇しており、影響がある。また、円安も続いているため、受注量や販売量が減少して景気はやや悪い(パルプ・紙・紙加工品製造業)」、「中東情勢の影響により原料のプラスチック価格が大幅に上昇している。4月の出荷数量は微増であるが、収益は大幅に減益である(化学工業)」、「燃料を始めとする車両関連資材、また、ラップフィルム等の輸送関連資材の価格高騰のみならず、購入先からの販売量の制限要請もあり、輸送を取り巻く環境が悪化している(輸送業)」、「原油に関連する樹脂系原料が大変な状況になり、その余波が間もなく来る。既に各種材料が値上がりしつつあり、中小製造業の経営を圧迫している(経営コンサルタント)」、「仕入価格や包装資材などが高騰しており、利益を圧迫している(一般小売店)」といったコメントが代表的であり、原材料価格の上昇がコスト増・収益圧迫につながり始めている様子がみてとれる。なお、実際には価格上昇と供給制約は明確に分けられるものではなく、供給制約が価格上昇を増幅している面もある。

4. 供給制約への具体的な言及が急増

こうした価格上昇に加えて、4月調査では供給制約に関する具体的なコメントが大幅に増えている点がポイントである。

「物価高が続くなか、中東情勢の影響により、自動車業界においても、ディーゼルオイルの入荷時期が未定になったり、尿素水やウォッシャー液の出荷制限が生じたりするなどの影響が生じている(自動車備品販売店)」、「中東情勢を要因としたナフサ不足の影響を大きく受けている。出荷制限により、まともに入荷されない商材が増えており、思うように商品を販売できない状態となっている(その他専門店・造花)」、「取引先の建設業では、中東情勢の影響によりユニットバスやトイレが品薄状態となり、納期に間に合わなくなってきている(金融業)」、「食品小売では、トレーや包装資材などの調達に支障が生じており、今後、価格転嫁に向けた動きが強まることが懸念される(職業安定所)」、「大手企業でもナフサやシンナーの確保に苦労し2か月先までのめどしかたっていない。また、主に塗料などの建築資材が不足しており、建築工事が止まり始めているとのことである(住宅販売会社)」、「中東情勢の影響でナフサの供給がひっ迫しており、今月から当社でも資材の入手が困難になっている。これからますます困難になることは確実で、商品の製造ができなくなる(食料品製造業)」、「ナフサが需要に対して不足しているため、来月からは生産がかなり減少する(パルプ・紙・紙加工品製造業)」、「原油及びナフサの調達に懸念がある。資材の受注停止が発生しており、価格についても見通しが立たない状況である(建設業)」、「中東情勢の影響により資材が入ってこないため、建設業や塗装業及び製造業の稼働が止まり始めている(税理士)」など、供給制約関連のコメントは非常に多い。

このように、食品小売でトレーや包装資材などの調達に支障が生じているなど、ナフサ由来品の供給不安が小売・サービスにも波及し始めているほか、住宅・建設分野における工事の遅延、製造分野でも生産に支障が出始めるなど、供給制約による実体経済への悪影響が一部で確認されている。

価格上昇は家計や企業の実質購買力を毀損、マインドを低下させることにより需要を減らす一方、供給制約は「需要があっても作れない、工事が進まない」という形で実体活動を直接制約するリスクを持つ。供給制約が長引くようであれば、住宅・建設・製造・物流を中心に下押しが一段と強まる可能性がある。

半導体・AI関連の需要は強い、企業の設備投資意欲はなお強い、人手不足の強まりから雇用は底堅いなどのコメントも散見されており、景気の回復基調が直ちに崩れたとまでは言えない。だが、少なくとも回復の足取りがかなり不安定なものになっていることは確かだろう。今回の景気ウォッチャー調査は、価格上昇と供給制約の二つの経路を通じて、中東情勢の悪化が国内景気下振れの可能性を高めていることを示している。また、これまで供給制約はあくまで「リスク」として語られてきたが、ここにきて現実のものとして見え始めていることが示された点は重要だろう。今後、供給制約・調達難がどの程度広がるか、あるいは収まるか、またそれが家計や企業の行動にどう影響するかが焦点となる。

図表2
図表2

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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