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2025.10.17
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アルゼンチン・ミレイ改革による景気回復一服、中間選挙の行方は?
~米国は支援表明も、トランプ氏はミレイ氏勝利を前提とする注文。政治、経済ともに混迷リスクに警戒~
西濵 徹
- 要旨
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- アルゼンチンでは今月26日にミレイ政権の中間評価となる中間選挙が予定されている。発足当初に実施された「ショック療法」により一時悪化した貧困率は、インフレ鈍化を背景に改善し、経済は持ち直してきた。しかし、直近では構造改革を追い風とした景気回復に陰りが出ており、個人消費や投資は伸び悩む。こうしたなか、先月のブエノスアイレス州議会選で与党連合は予想外の惨敗を喫し、金融市場ではペソ急落や株安が進行した。米国はペソ買い支えや通貨スワップ協定など大規模支援を表明したが、トランプ氏はその実施を中間選挙でのミレイ政権の勝利を条件とする姿勢を示している。足元では野党勢力の支持が拡大するなか、政権基盤の不安定化とともに、アルゼンチン経済が再び混迷に陥るリスクが高まっている。
アルゼンチンでは今月26日、ミレイ政権および与党連合「自由の前進」に対する中間評価となる中間選挙(上院の半数、下院の3分の1が改選)の実施が予定されている。一昨年末に発足したミレイ政権を支える自由の前進は、議会上下院双方で少数派に留まるものの、連立政党や中間派政党の協力を得る形で『破たん国家』の立て直しを進めてきた。一時は300%近くまで加速したインフレは大幅に鈍化しており、直近9月のインフレ率は前年同月比+31.8%と2018年に経済混乱に陥る前の水準となるなど、落ち着きを取り戻している。政権発足直後にはその『ショック療法的』な政策運営も影響して一時は貧困率が50%を上回るなど悪化したものの、その後はインフレ鈍化による実質購買力の押し上げも追い風に低下しており、政権発足直前を下回る水準となるなど、国民生活を取り巻く状況は改善している。

しかし、足元においては構造改革を追い風にした景気回復の勢いに陰りが出ている。直近4-6月の実質GDP成長率は前年同期比+6.3%と前期(同+5.8%)から加速して3年弱ぶりの高い伸びとなっている。ただし、前期比年率では▲0.2%と4四半期ぶりのマイナス成長となり、トランプ米政権の関税政策をきっかけに世界経済に動揺が広がったことが外需の足かせとなる動きがみられる。さらに、インフレ鈍化による実質購買力の押し上げにもかかわらず個人消費は下振れしているほか、ミレイ改革への期待を追い風に活発化した対内直接投資の動きにも一服感が出ており、固定資本投資も下振れしている。なお、トランプ米政権は同国に対する相互関税を一律分と同じ10%としており、対米輸出額も名目GDP比で1.5%に留まることを勘案すれば、マクロ面での直接的な影響は限定的と捉えられる。一方、米中摩擦が激化する背後で中国はアルゼンチンを米国に代わる穀物の調達先と位置づけており、中国経済の動向に左右されやすくなっている。こうした事情も、景気底入れの動きに一服感が出る一因になっている可能性がある。

このように、足元の景気に足踏み感が出ていることもあり、先月に中間選挙の『前哨戦』として実施されたブエノスアイレス州議会選では、与党・自由の前進は事前予想を上回る形で最大野党「正義党」に惨敗を喫した(注1)。なお、同州は元々正義党の牙城であるといった事情を勘案する必要はあるが、事前の世論調査では自由の前進が善戦するとみられていたなか、予想外の惨敗を喫したことの影響は少なくない。さらに、同州は国土全体の有権者の約4割が集中する最重要地域であり、自由の前進は中間選挙での苦戦が避けられない情勢となっている。結果、その後の金融市場ではミレイ改革に対する期待剥落を反映して、通貨ペソ相場が急落するとともに、主要株式指数(メルバル指数)も大幅に調整した。中銀はペソ防衛のために大量の為替介入を迫られ、外貨準備高も減少するなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さが増した。こうしたなか、トランプ氏とミレイ氏の直接会談を経て、米国がアルゼンチンを全面的に支援する方針が示されたことを受けて、金融市場は落ち着きを取り戻す動きをみせた(注2)。その後、米国は急落したペソを直接買い入れるとともに、アルゼンチン中銀と200億ドル規模の通貨スワップ協定を締結することで合意するとともに、米国の銀行による総額200億ドル規模の融資枠組みの創設を目指しているとされる。

こうしたことから、アルゼンチン金融市場は最悪の事態を免れていると捉えられる。しかし、トランプ氏はアルゼンチンに対する支援実施について、中間選挙でのミレイ氏の勝利を前提とする考えを示した。この背景には、ここ数年の米中摩擦の背後で中国が穀物などの調達先を多様化するなかで、アルゼンチンから中国への大豆輸出が急拡大しており、米国の農業関係者などの間で同国に対する反発が少なくないことも影響している模様である。その一方、ベッセント米財務長官は、アルゼンチンが中国と締結している通貨スワップ協定の破棄を支援条件としないとしており、円滑な進捗を目指す考えをみせている。なお、事前の世論調査においては、自由の前進の支持率が一貫してトップを走る展開が続いたものの、直近においては正義党を中心とする野党連合(祖国連合)が自由の前進を上回るなど、ミレイ政権を取り巻く環境は急速に悪化している。アルゼンチン経済が再び視界不良状態に陥る可能性に注意が必要である。
注1 9月9日付レポート「アルゼンチン・地方選で与党惨敗、ミレイ改革の行方に「黄信号」」
注2 9月25日付レポート「トランプ米政権の支援でアルゼンチンのミレイ改革は継続できるか」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

