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2025.09.09
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アルゼンチン・地方選で与党惨敗、ミレイ改革の行方に「黄信号」
~「破綻国家」の立て直しに注目が集まる一方、民主主義国家ゆえの難しさに直面している~
西濵 徹
- 要旨
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- 7日に実施されたアルゼンチンのブエノスアイレス州議会選挙で、与党「自由の前進」は最大野党「正義党」に惨敗した。10月の中間選挙を前に与党の苦戦が一段と鮮明になるとともに、金融市場ではミレイ改革の行方に対する不透明感を警戒して混乱が広がる事態となっている。
- ミレイ政権は発足以降、財政健全化やインフレ抑制で成果を上げ、貧困率も改善し、景気も持ち直しの動きを強めるなど、経済の立て直しは着実に前進してきた。しかし、政権が主導する公的部門縮小は貧困層などに打撃を与えるなど、正義党の支持基盤を刺激した。さらに、足元ではミレイ氏の妹(カリーナ氏)の汚職疑惑が噴出しており、政権与党にとって逆風が吹くなかでの選挙戦を強いられたことも影響した。
- ブエノスアイレス州は伝統的に正義党の牙城とされる土地ではあるが、最大の票田である同州での敗北は今後の改革実現の障害となる可能性が高い。政府と議会は対立の様相を強める動きもみられ、民主主義国家において「破綻国家」の立て直しが極めて困難であることを示唆していると捉えられる。
アルゼンチンでは7日、首都ブエノスアイレスに隣接するブエノスアイレス州議会選挙が実施された。同国では、10月に中間選挙(上院の半数、下院の3分の1が改選)が予定されており、今回の選挙はその『前哨戦』として注目を集めていた。事前の世論調査によれば、ミレイ政権を支える最大与党「自由の前進」は苦戦が予想されていたが、最大野党「正義党(ペロン党)」との接戦になるとの見方も広がっていた。しかし、暫定公式集計によれば、自由の前進と正義党の得票差は事前予想を大きく上回るなど与党は惨敗を喫した模様であり、10月の中間選挙において苦戦を強いられる可能性が高まっている。さらに、金融市場においては、一昨年末に発足したミレイ政権による大胆な経済改革の行方に不透明感が高まり、同国資産への売り圧力が強まるなど混乱が広がる事態となっている。

ミレイ政権は、長年にわたる左派政権による外資排斥やずさんな財政運営などを背景に過去に9回もデフォルト(債務不履行)に陥った同国経済の立て直しを進めてきた。一昨年の大統領選ではリバタリアン(自由至上主義)を標ぼうし、中銀や通貨ペソの廃止による経済のドル化といった極端な政策を掲げたほか、政治経験の乏しさも重なり、政策遂行能力は未知数とみられた。しかし、就任直後からミレイ氏が『ショック療法的』と称する省庁再編や国有企業の民営化など公的部門のスリム化に動くなど、財政健全化を優先する政策運営に取り組んできた。その結果、昨年は財政収支が黒字に転じるとともに、年明け以降も黒字幅を拡大させるなど財政健全化の取り組みは着実に前進している。さらに、一時は300%近くに達したインフレも、直近7月は前年同月比+36.57%、コアインフレ率も同+38.88%とともに鈍化しており、先行きも一段と鈍化して20%程度と2018年の経済危機直前の水準に収束すると見込まれる。また、ミレイ政権の発足直後においては、その性急な改革を受けて貧困率が急速に高まるとともに、景気も大きく下振れするなど混乱する事態に直面した。しかし、その後は構造改革の着実な進捗に加え、インフレ鈍化も追い風に、貧困率は一転して低下するとともに、景気も持ち直しの動きを強めるなど、同国経済の立て直しの動きが着実に前進している様子がうかがえる(注1)。一方で、ミレイ政権が進める公的部門のスリム化の動きは、伝統的に正義党支持基盤とされ、社会保障支出に依存する貧困層や低所得者層、その他の社会的弱者などにとって厳しいものであった。さらに、足元ではミレイ氏の妹(カリーナ氏)に汚職疑惑が噴出するなど、政権に逆風が吹きやすい環境だったことも今回の選挙結果に影響を与えたとみられる。

今回選挙が実施されたブエノスアイレス州を巡っては、元々正義党の牙城である事情を考慮する必要はあるものの、国土全体の有権者の約4割が集中する最重要地域での敗北は、中間選挙に向けて与党が苦戦を強いられる可能性を示唆している。さらに、事前の世論調査に比べて厳しい結果が示されたことで、ミレイ政権による先行きの改革の取り組みが厳しさを増すことも考えられる。政権を支える与党は連邦議会で少数派に留まり、政府と議会は『ねじれ状態』にあるなか、このところは政府と議会が協議を通じて経済改革や緊縮財政を実現させるなど、ミレイ政権の政治手法の練度が高まる動きがみられた。しかし、与党を取り巻く環境が厳しさを増すなかで議会は政府との対決姿勢を鮮明にする動きをみせており、ミレイ改革の行方に『黄信号』が灯りつつある。いわゆる『破綻国家』の立て直しの成否に注目が集まっているが、今回の動きは、民主主義国家においてそうした取り組みのハードルが極めて高いことを示唆している。
注1 6月24日付レポート「ミレイ改革でアルゼンチン経済は改善続く、次は「国民の審判」に注目」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

